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7月31日:商店街


「バズれ……バズれ……バズれぇぇぇ!!!!」


 商店街の中にある美容室『ヘアーサロンひまさか』の二階。

 暇坂(ひまさか)アリサは、自室のベッドに寝転がりながらスマホをいじっていた。


 夏休みに入ってから、あたしは毎日のようにインスタに写真をポストしている。

 世界中のキラキラ女子の写真やリール動画に胸踊らせて、軽く嫉妬もして。


 あたしもいつかはバズりたい。

 こんなふうにチヤホヤされてみたい。


「今日こそは……!」


 かといって、今のあたしにどんなバズりが生み出せるだろう?


 部屋の隅に立てかけた姿見に、今の自分の姿が映る。

 夏休みに入ってから家に閉じこもりっきりで、せっかく染めた髪はボサボサ。

 ネットで買ったキャミはフリルのとこがダルダルになってきたし。

 そういえば今履いてるスパッツも、なんかちっちゃい穴空いてない?


 ダメダメ!

 こんなんで写真撮ってもバズるわけないよ!!


 ここはひとつ気合を入れて、あぶない水着でも着てみるか。

 ダメかなー。あたし胸ないしなー。

 あーあ。瀬凪とホタルがうらやましいよ。


 そんなあたしの視界に、異変が飛び込んできた。

 窓の外、村の上空に巨大な城が浮いている。



「――えっ?」



 目を疑った。


 西洋風の城……

 っていうか、あれってゲームに出てくる魔王城にそっくりじゃね?


 あたしはそれなりにゲームもやる。

 最新のゲームもチェックするし、おっさんホイホイなレトロゲームも愛してる。

 そんなあたしが言うんだから間違いない。あれ、魔王城だわ。



「ちょ、待って。これってもしかして……?」


 そうだ。たしかイッチがそんなこと言ってた。

 7月31日に魔物が攻めてくるとか。

 あたしは心底バカバカしいと思ったから「信じられない」って言ったけど。


 うっそ。マジ?

 ヤバくない?


 そんなことを思いながら窓の外を眺めてたら、城から何かが降りてきた。

 明らかに人間じゃない。



 ――あれ、魔物だ!!!



「おかーさん! 外! 外見て!!」


 あたしは二階の居住スペースから転げ落ちるみたいに階段を降りた。

 一階の店舗スペースでは、お母さんが近所のおっさんの髪の毛をカットしてる最中だった。急に髪を振り乱して現れたあたしを見て、カット中のおっさんはマジでビビってた。


「なーに? 何もないじゃない」


 お母さんはウザそうな顔をしながらちらっと窓の外を見る。


「あるでしょ!? ほら、あそこに城が!!」


 見逃すような場所じゃない。だって真正面だもん。

 普段は綺麗な夕日が見える位置に、ででーんと魔王城が浮いている。


 お母さんは「すいませんバカな娘で」なんて言いながら、おっさんの髪の毛をカットしている。おっさんも「いえいえいいんですよ」なんてヘラヘラ笑ってる。

 ねぇ待って。何なのこれ?


 その時、一匹の魔物が窓のすぐ外を通り過ぎた。


「ぎゃあああああああ!!!?」


「ちょっと! デカい声出さないでよ! 危ないでしょ!? 今カットの最中なんだから!」


「いやいやいや! もっと危なそうなのが外にぃ!!」


 今目の前を通り過ぎたのは魔物の王道・ゴブリン。

 電柱の陰にはスケルトン。

 自販機の上ではハーピーが羽を休めている。


 その姿は美容室の大きな窓からガッツリ見えている。

 なのに。


「なんにもないじゃないの!」


 お母さんは本気で怒っている。

 カットの途中のおっさんも、こっちを見て苦笑いするだけだった。


「……うそでしょ?」


 目の前にいるのに、二人には見えてない?


 


 もしかして――


 大人には見えないの?




 目の前で非日常が展開される中、あたしの脳裏に閃きが走る。


「これは……バズるでしょ!!」


 手に持っていたスマホのカメラを起動し、連写で写真を撮りまくる。


〈地元に魔物きてるんだけど!!!!〉


 あたしはゴブリンとスケルトンとハーピーが映った写真を無加工でポストした。

 反応は瞬く間に広がった。



〈スゲー〉


〈なにこれコラ?〉


〈イイネ!〉



 瞬く間に爆増するインプレッション。

 いいねとコメントが見たこともない数になり、通知でスマホのバイブが止まらない。


 やった!! 初バズり!!!

 こんなことしてる場合じゃないのは重々承知の上だけど!!!

 コメントいっぱいでマジうれしい!!!!



 しかし、その中に。



〈何も写ってないじゃん〉


〈素敵な田舎の風景ですね〉



 ……はい待って。どういうこと?


 あたしはゴブリンとスケルトンとハーピーが写った写真をポストしたよ?



 もしかして――


 魔物は写真に写しても、大人には見えないってこと?



 あたしはダッシュで自分の部屋に戻り、こっそり窓から外の様子を伺った。

 夏摩村を囲む山の方から、魔物の大群がこっちに向かってくる。



 ……イッチ、ごめん。

 あんたを信じなかったあたしがバカだったわ。



 どこかで何かが壊れる音がして、誰かの叫び声が聞こえた。

 遠くのほうで火の手があがるのが見える。


 2025年7月31日、18時02分のことだった。


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