表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/26

武器とウサギと大阪弁

 

 蝉丸の家では、いくつかの工具が見つかった。


 ニッパー。

 レンチ。

 バール。

 ドライバー。


 僕の家にあった農具に比べれば、小ぶりで扱いやすそうだ。



「私は斧とかクワより、こっちの方がいいかも」


 瀬凪がレンチを手に持って品定めする。


「これで叩いたら、魔物も痛がるんじゃないかな。イッチ、どう思う?」


「……陽菜乃川(ひなのがわ)がいいと思うなら、いいんじゃない」


「うん。私はいいと思うよ」


 瀬凪は微笑みながら、他にも使えそうなものを探し始める。

 工具箱を漁っていた蝉丸が、瀬凪に次の工具をオススメする。


「陽菜乃川さん、このハンマーはどう?」


「あ! いいかも! こっちの方が持つところがしっかりしてるし」


 瀬凪はハンマーを持って、片手で振るように動かした。


「これも持っていこうっ。使える武器は多い方がいいしね。蝉丸くん、ありがとう!」


「いえいえ。じゃあこれも工具箱の中に入れておくね」


 そう言って、蝉丸はレンチとハンマーを工具箱の中にしまった。


「蝉丸くんはどれを使うの?」


「僕? 僕はね……自分で作ろうと思ってるんだ」


「えっ! 作るの!?」


 瀬凪が口元に手を当てて驚いた顔をする。

 それを見て、蝉丸が少し照れながら続ける。


「ほら、僕んち電気屋だろ? ここにある部品を使えば何かできるんじゃないかと思って」


「すごーい! 蝉丸くん、すごいよっ!!」


「いやいや。まだできるって決まったわけじゃないし。でも、がんばるよ」


「私も負けてられないな。家に何かないか探してみる! ちょっと待ってて!」


 そう言って、瀬凪は自分の家に向かって走っていった。



 蝉丸と僕だけが残されて、あたりは急に静かになった。

 思えば武器探しをしている最中も、一番明るくしゃべってくれていたのは瀬凪だった。


 その沈黙を破るように、蝉丸が言った。



「……なんかさぁ、イッチ、陽菜乃川さんに冷たくない?」


「……そんなことないよ」


「じゃあ、なんでイッチは陽菜乃川さんのこと『陽菜乃川』って呼ぶの?」


「お前だって陽菜乃川さんって呼んでるだろ」


「僕は昔から陽菜乃川さんって呼んでるよ。だけど、イッチは昔『瀬凪』って呼んでたじゃん」



 ――そう。

 僕は中学に上がった頃から、瀬凪のことを「陽菜乃川」と呼ぶようになった。

 アリサは「アリサ」、ホタルは「ホタル」なのに、瀬凪だけ「陽菜乃川」なのだった。


 僕が答えに困っていると、瀬凪が戻ってきた。


「あったよー!」


 息を切らせて、(ひたい)に汗をにじませながら。

 瀬凪が掲げたその手には、小さな果物ナイフが握られていた。



 ◆ ◆ ◆


 だんだん使えそうな武器が集まってきた。

 僕らは双柳電気サービスの前で、これからどうしようか考えていた。

 

 その時、商店街の人だかりから騒がしい声が聞こえてきた。


「……なんだ?」


 見知らぬ少年が近所のおばさんたちに囲まれている。

 歳は僕らの少し上ぐらいだろうか。

 茶髪を後ろで束ね、ツバ裏がゴールドの洒落(しゃれ)た野球帽を被っている。

 白いブランドTシャツにワイドパンツ。SNSで見るような垢抜(あかぬ)けた格好だ。


「なあなあオバチャン、この石知らん?」


 少年は、大きな身振り手振りをしながら手に持った紫黒色(しこくしょく)の球体を掲げて見せた。大きさはピンポン玉ぐらい。(つや)やかに光る美しい石だった。


「あら。きれいな石ねえ」


「せやろ? このへんで採れる石なん?」


「このへんでは採石はやってないけど」


「これに似とる石、どっかにあらへんかなぁ」


「石碑はいっぱいあるけどねえ。こんな丸くてきれいなのは初めて見たわ」


「さよか」


 少年は困ったように頭を()く。


「ほな、自分で探してみるわ」


 少年は颯爽(さっそう)と身を(ひるがえ)す。


 どん。


 その時、商店街で何かのキャンペーンをしていた着ぐるみのウサギにぶつかった。

 急にぶつかられたウサギはバランスを崩し、手に持った風船を離しそうになって手足をばたつかせる。


「アカン!! ぶつかってもうた!! ホンマすんません!!」


 少年は着ぐるみが倒れないように両手で支えながら、着ぐるみの背中をぽんぽん叩く。


「暑いのに大変やなぁ! 中の人、休んだほうがええんちゃう?」


 ぶんぶんと首を振る着ぐるみのウサギ。


「アカンて。倒れてからやったら遅いねんで!? 一緒に健康ランドで水風呂キメようや!」


 大阪弁の少年は着ぐるみの腕を掴み、強引に引っ張っていこうとしている。

 着ぐるみのウサギは一言もしゃべらず、手を振り首を振り、困った様子で拒絶する。必死に「僕は風船を配っているんだよ、だから無理なんだよ」というジェスチャーをしているように見えた。


「なるほどな! 着ぐるみのまま入られへんもんなぁ!」


 そう言って、大阪弁の少年は高らかに笑った。



 噂好きのおばさんたちが、少年について何か話している。


「あの子、見ない顔ねぇ」


「石のことを聞いて回ってるみたいよ」


「へえ……。でも、悪い子じゃなさそうね」



 確かに、あの人はなんだか憎めない雰囲気がある。

 僕ら3人も、思わず見入ってしまっていた。


「ねえ陽菜乃川さん。あの人のこと知ってる?」


「ううん。初めて見た。すごく目立ってるね……」


 僕が『大阪弁の少年』を認識したのも、この時が初めてだった。


 7月19日に商店街でこんな騒ぎが起きてたなんて知らなかった。

 消えたカレンダーや、世界中に空いた穴や、瀬凪への告白や、魔物の襲来。

 気がかりなことが多すぎて、僕は村で起こる小さな異変を見逃していた。


 あの少年が今の僕らに関係あるとは思えない。

 けれど――どうにも気になって仕方がなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ