第1話 桃源台3番通 Café Gypsophila
雪が道端に残る4月初め、札幌市内の桃源台3番通りにひっそりと佇むカフェがあった。
その名もCafé Gypsophila。Gypsophilaとは日本で『カスミソウ』とも言う。僕はおしゃれな名前だなと思うが、お客様たちはどう思っているのだろうか?そもそもなぜこんな名前を付けたかって?それは....後々わかるよ。
あっそうそう、僕の名前を言っていなかったね。僕の中は、桜岡誠、22歳で銀髪の人間だ。この店の店主だ。さーて、そろそろ開店としようか。
午前10時、カフェがOPENした。
「さ~て、どんなお客さんが来るか楽しみだな~」
桜岡は、店内にあるお花に水を与えながらそう言った。
~カランコロン~
「いらっしゃませ、お好きな席へどうぞ」
入ってきたのは、スーツ姿の若い女性でカウンター席に座った。
「いらっしゃませ、ご注文お決まりでしたらお知らせください」
「じゃあ、アイスコーヒー1つお願いします。」
「かしこまりました」
桜岡は、後ろにあるコーヒーマシンで豆を挽き、コーヒーをドリップした。
「おまたせいたしました、アイスコーヒーです。」
桜岡は、温くならないようにステンレス製の縦長いコップに氷とドリップしたコーヒーを淹れ、女性のお客様に木製コースターと一緒に渡した。
「ありがとうございます。」
お客様は桜岡に軽くお辞儀しながら礼を言った。
「ごゆっくりどうぞ」
お客様は、ストローに刺してあったコーヒーを飲んで一言。
「あっ、あまりに苦くない。美味しい」
「苦みや酸味の少ない豆を使用しております。初めての方にもコーヒーを飲んでいただきたくて」
コーヒーというのは苦み酸味が強いものが多いが、豆の種類によってそれらが弱いものが多い。初めてくるお客様にもコーヒーの1つでも優しく提供はしたい。
「そうなんですね、会社でコーヒーを飲んでいてもおいしくなくて...」
苦笑いでお客様はそう言う。
インスタントコーヒーはおいしいものがあるが、人によっては美味しくないと感じることは多々ある。
「市販で買えるコーヒーは苦みが強かったり、酸味が強かったりしてますからね~」
「ここのお店ならすごい飲みやすいです」
「そう言っていただけると嬉しいです」
桜岡は笑みが出ながら言葉を返した。
「長年住んでいた札幌にこんなお店があるとは知らなかったです」
「ひっそりとやっていますから、気づきかないのものです。」
しばらく沈黙が続いてる。落ち着きのあるピアノ曲を流しており、静かになりながらコーヒーを嗜むのも好みだ。
このお客様は、なんか悩みがあるんだろうな。でなきゃ、真剣な顔なんてしてないもん。
「あの.....相談というか.....悩みというか....そういうのって聞いていただいても....よろしいですか?」
お客様はしばらく続いた沈黙を破り、真剣な顔で不安な声で桜岡に聞いた。
「はい、全然僕でよければ相手になりますよ」
「私、今の会社入って3年目でやっと仕事を覚えてきたんですけど、なんか違うなと思ったんです。高校卒業して、すぐ社会人になって、プロジェクトを任せられるようになって、その仕事が楽しいとは思えないんです。やりがいってなんだろうとか、この会社とはなんか違うなとか色々と考えてきて、これから先どうしたらいいんだろうって...」
頭を抱えながら桜岡に相談をしてきた。
「ん~、お客様って友達がいて、現在大学生の方っています?」
桜岡は手に顎を当て、様々な質問をする。
「います、マルゲイングラムで楽しそうだなって...大学生っていいなぁって」
大学生への憧れはありそうでないパターンか。
じゃあ今の生活に何らかの不安や不満がある....と。
「今の社会人生活は楽しいですか?」
「それなりのお給料が出ていて、推し活できるので楽しいです」
社会生活への不満なしか。じゃあなんだろう....
ん~、マルゲイングラムで楽しそうだなぁ、大学生っていいなぁって言葉になんか引っかかるんだよな。
どうも届きそうで届かない何か。
やっぱり憧れか?でも大学生の憧れはありそうでない。
いや待てよ?大学生に対する憧れがないっていうのであって、届きそうで届かない何かって、他のものに対する憧れがあるでは?職業か?人生か?
「憧れの職業はありますか?」
「憧れの職業は、医師です。」
「それはなぜ?」
「幼いとき、父が大病を患っていたんです。その時に担当していた医師が何がなんでも病気を治す姿勢であるゆる最善の手段を尽くしたんです。最終的には、父の大病が治りました。医師には感謝してもしきれない、私も同じようにあるゆる人の病を救いたいとそれで憧れの職業に」
なるほど、やはり他のものに対する憧れだったのか。
ちょっとこの人の過去を桃源郷から見てみるか。
桜岡は、桃源郷からお客様の過去を見ることする。映像は途中から灰色だった。
『この成績で医大なんていけないよ。国公立ですらも怪しい、路線を変えてみてくれないか?』
『善処しますが、路線は絶対変えたくありません』
『あぁそう』
数ヶ月後・・・
『先生、模試の結果と今の成績と一緒に合わせてみてください』
『う~ん、前回よりも成績は上がってるし、模試の結果もEからC判定かぁ。医大に行くならB判定以上は欲しい。成績は上がってはいるから推薦でもいけるけどどうだ』
『推薦は嫌です。自力で頑張りたいです』
『そうは言ってもだなぁ、3年生10月でこの状況じゃあなぁ、なぜ医大に行きたいんだ』
『それは、憧れの職業に就きたいからです。私は父の大病を医師によって治してくれた、その恩返しとして多くの命を出来る限り救いたいです』
『今時、憧れの職業で就いても長くは続けれないと思うぞ。夢を持つことはいいことだけど、そうだ、薬学系とかどうだ』
『そんな長くは続けれないって簡単に決めつけないでください』
『でもなぁ、憧れの職業ついてきた生徒は5年も立たずに辞めていった。お前にはそういうところは見たくない』
『私はどれだけ厳しいところで就いていける覚悟もできてます。先生もその気持ちがわかりますが、医大を受けさせて下さい。』
『いーや、この学校に何年もいる俺が見てきた。憧れの職業をつくほど簡単にやめていくって。他の選択肢も考えてみてくれ。このままだと浪人だぞ?』
『な....んで...決めつけるですか..』
『俺が見てきて経験してきたからだ』
『そ...そん...なの...やってみなきゃじゃないですか。生徒の挑戦を潰す気ですか...』
身体を震わせながら先生に対してそう言う。
『別に俺は挑戦を潰すつもりはない、この成績と模試の判定じゃ無理だ』
『挑戦を潰すつもりはなくて、成績と模試の判定じゃ無理とか、言ってること矛盾してませんか!先生はなんで決めつけてくるですか!!!!!
そんなのやってみなきゃわからないじゃないですか!!、先生に何がわかるんですか!!!人の夢を潰す気か!!!こんなに頑張ったのに、先生はなん癖つけて!路線まで変更して馬鹿じゃないですか!!更に頑張るよ、こっから先も!!!つらい思い出、自分の大好きな時間をなくしてまでやってるんですよ!!』
生徒は制服をぎゅっと掴み、先生に対して声を荒げながら言った。
対する先生も怒鳴り声出す。
『お前、先生に対して馬鹿とはなんだ!!無理なものは無理なんだよ!!あきらめろ!!』
生徒は涙を出しながら、声を荒げながら先生にたして罵詈雑言を浴びせる。
『じゃあ!!いいです!てめぇの言う通りになって就職やるよ!それでいいんだろ!貴様は!』
『貴様とはなんだ!!てめぇとはなんだ!、停学にさせるわ!』
『そこまでだ』
暁先生が2人の口論を止めに入った。
『生活指導の暁先生...』
『人の夢を潰す先生が悪い、停学にはしない。停学しないように校長と教頭にも説得する。なぁ、~(お客様の名前)さん、一度先生の言う通りにして失敗したことを証明したらいい。栢原先生、話がありますので校長室に来てください。僕もいきます。』
『あっはい..』
先生は血の気を引いた顔でそういった。
そうかぁ、どれだけ頑張って、成績上げても報われなかったんだな。このままいけばもしかしたら夢に近づく可能性だってあったのか。自力で行くことに意味があるから推薦で行く選択肢なんてない。
先生も先生で”一度先生の言う通りにして失敗したことを証明したらいい”という言葉は違うんだよな、証明してその生徒の人生や人格が壊れたらどうするのだろうか?
ましてや責任は取れるのだろうか?いや、取ってくれないだろう。
この後の社会人生活を見た桜岡。
「夢なんてあきらめなければよかった」と家での口癖があることからも仕事自体が面白くなくなったのはこういうのもあるのか。なるほどな。
つまりは転職どきでもあり、会社の辞め時でもあるのか。
可能性は十分ある。
「なるほど、わかりました」
「なにがですか?」
「お客様は、憧れの職業に対して諦めてきれていないのはでしょうか。高校時代に一度、自分の心を閉ざしてまでも憧れとは別の逆方向に行った。それは、担任の指示に従って別の世界へ行って失敗したということ証明をするために会社に入った。しかし、なんか違うなと思ったのは、今までの憧れの自分が自我として芽生えた。それで仕事をするのにも楽しくなくなった。」
「なぜ、私が高校時代に憧れの職業を我慢してまで心を閉ざしてまでを別の世界に行ったのが分かったんですか?」
お客様は頭を傾けながらに言う。
「なんとなくです」
「でも私...頭が良くな」
お客様に言葉を覆いかぶさるように桜岡は言う。
頭を良くないは言い訳にしかすぎん、諦めきれないなら立ち向かおうよ。
「それは関係ないです。憧れの職業を諦めきれない人は、たとえ頭が良くないだろうとも苦しい場面が来ようとも辛い場面が来ようとも、自分が知らずともコツコツ努力を積み重ねます。努力が報われなくても報われるまで貪欲にやり続けます。頭が良くないだけ憧れの職業から避けるのは、はっきり申し上げて逃げ《《逃げ》》にあたります。言い訳を元に逃げつづけるのは本当の憧れとは言いません。ですから、夢を追いかけてみるはいかがでしょうか?この先、憧れを叶うまでの間、幾度と乗り越えなければならない壁が多数出没致します。お客様ならその幾度とある壁を乗り越えられるはずです」
「.....」
「お客様?」
お客様は涙を流しながら、鼻水をすする音が聞こえる。
ようやく心に刺さったんだな。桜岡はお客様にティッシュを差し出す。
「そうぅ...でしたぁ...わ...たしが...自分の...本当の姿を...本来の生き方を...見失ってましたぁぁ!。私ぁ、諦めきれてなかったんです、なぜ、、店員は、、分かっ、、たん、、ですか?」
お客様は涙ながらに言う。
「なんと」
「またなんとなくって!、そんなのわからないよ....」
カウンターテーブルをたたいて、前のめりで桜岡に言うも、再び泣き出した。
「そうですね、、、私は人の感受性を読み取ることができたり、人の過去を桃源郷、つまりは天国から見ることができるんです。」
困ったなぁ~、なんて言おうかな?これ以上変に言ってもなぁ?というより俺が言い訳してどうするか、正直に言おう。
「店主さんは、この世の人ではないってこと?」
泣きやんだお客様は目元が真っ赤になりながら言った。
「当たり前のようにこの世に存在する人です。そういう特殊能力があるだけって話です」
「あの世の人だったら、私はこの世界にいないのかなって」
「自分の頬をつねってみてください」
「あっ、痛い」
お客様は、自分の手で頬をつねった。
「それが今生きてる証です」
「とりあえず、悩みを話せてよかったです。私も大学へ行くお金が整い次第、憧れの職業へ目指します!そのときはアルバイト雇ってほしいです!」
お客様は、笑顔で言った。
良かったなぁ、スッキリできて、夢に向かって頑張るんだぞ!
「そうですか、それは良かったです。アルバイトの件は...人手足りてるし、僕一人でも十分だから大丈夫かな?」
「そこは、是非って言ってほしかったです」
頬を膨らましながら言う。
「まぁまぁ」
「これから仕事なので行ってきます、お会計お願いします」
「300円になります」
「ちょうどです」
お客様は、ポケットから財布を取り、100円玉3枚を桜岡に渡した。
「300円丁度いただきます」
「貴重なお時間とアドバイスを下さり本当にありがとうございました。これで自分の中で気持ちを整理がつきました。また来ます!」
お客様は桜岡にお礼した後、軽快な動きをしながらこの店を後にしていった。
「は~い、いつでも待ってます。行ってらっしゃい、仕事頑張ってね」
頑張っておくれ、未来を創る若者よ!っていう俺も22歳だから若者なんだけどね。
この店の名前であるGypsophila、日本語でカスミソウ、カスミソウの花言葉は「幸福、感謝」。僕はこの店に来る人々に幸福をお届けするために頑張りますか。
さ~て、今日も一日濃くなりそうだなぁ....
~第1話 完~
最後までご覧いただきましてありがとうございました、作者の無才能です。
新作というわけでもないですが、ぼちぼちとこの物語を描いていくつもりで行こうかなと思います。
主人公の桜岡が何故、過去が見えるようになったのか?ここに来るお客様は、どんな相談ごとをするのか?
続きを楽しみにしてお待ちいただけたらなと思います。
これの応用版でカフェ店主と刑事がタッグを組んで事件解決に挑む物語もまた有りな話です。