第5話「光になった感謝」
まさかランキングに載るとは思ってもみませんでした('ω')
もっとゆっくり書くだろうとホゲーと思っていたら、皆様のおかげです!!
ありがとうございます!!
急ピッチで書き上げたので、後々改稿するかもしれませんがとりあえず!これで!
鏡池での出来事から三日が経った。
蓮は朝の通学路で、いつものようにおばあさんの霊に挨拶をしていた。
「おはよう、おばあちゃん」
「おはよう。顔色が良いわね」
おばあさんの霊は嬉しそうに微笑んだ。
「何か良いことでもあったの?」
「うん、まあ……」
蓮は頬を掻いた。
確かに、ここ数日は気持ちが軽い。
長い間一人で抱えてきた秘密を、結愛に打ち明けることができた。
しかも、彼女はそれを受け入れてくれた。
「何か心のつっかえ棒が取れたのね」
おばあさんは察したように言った。
「どうして分かるんですか?」
「オーラが明るくなってるもの。一人で抱え込んでいた重荷が軽くなった証拠よ」
蓮は微笑み返し、恥ずかしそうに「うん」と小さく言ってうなずく。
霊感があることで、今まで多くの人との距離を感じていた。
でも結愛となら、本当の意味で心を通わせることができる。
学校に着くと、結愛が既に教室にいた。
蓮の姿を見つけると、嬉しそうに手を振る。
「蓮、おはよう!」
「おはよう、結愛」
蓮が席に着くと、結愛は興奮した様子で話しかけてきた。
「見て見て!」
結愛はスマホの画面を蓮に向けた。
鏡池の動画の再生回数が5万回を突破していた。
チャンネル登録者数も500人になっている。
着実に伸びている再生数とチャンネル登録者数に二人は純粋に喜んだ。
「すごいね」
蓮は素直に感動した。
「コメントもいっぱい来てるの」
結愛は嬉しそうにコメント欄をスクロールした。
『これ本物じゃない?』
『水の動きが自然すぎる』
『続きが見たい!』
『どこの池ですか?』
『YUAちゃんの反応がリアル』
「でも、場所を聞かれるのは困るね」
蓮は心配そうに言った。
「大丈夫」
結愛は頷いた。
「場所は絶対に公開しないって決めてるから。真似して事故でも起きたら大変だし」
蓮は安心した。
結愛は単に注目を集めたいだけじゃない。
再生回数のために誰かを犠牲にするのは鏡池から決めていたこと。
生き死にの危険な場所なら尚更、責任を持って活動している。
「それに」
結愛は声を小さくした。
「蓮の秘密も守らなきゃいけないしね」
蓮の胸が温かくなった。
結愛の笑みが、秘密を話す前と後で変わるなんて思ってもいなかった。
蓮の頬が火照る。
昼休み、二人は屋上でお菓子を食べていた。
他に人がいない静かな場所で、結愛は蓮に質問した。
「ねえ、霊感があるって、どんな感じなの?」
「どんな感じって?」
「例えば、今ここに霊はいる?」
結愛は周りを見回した。
「いないよ」
蓮は答えた。
「……」
蓮が校庭の桜の木の下に、小さな子どもの霊を探すけれど最近は見かけない。
(成仏したのかな)
「そうなんだ」
結愛は興味深そうに聞いていた。
「霊って、どんな人……じゃなくて、どんな存在なの?」
「色々だよ。人もいるし、妖怪みたいな怖い存在もいる」
蓮は言葉を選んだ。
鏡池の美冴さんは、あれは水を操っていたし……半妖のような存在だったのかも。
「おばあちゃんみたいに優しい霊もいれば、鏡池の美冴さんみたいに複雑な霊もいる」
「美冴さんって、やっぱりあの時蓮が話してた相手?」
「うん」
蓮は頷いた。
「最初は結愛を誘惑しようとしたけど、最後は理解してくれたんだよ」
「私には全然見えなかったなあ」
結愛は少し寂しそうに言った。
「見えない方がいいよ」
蓮は慌てて言った。
「霊が見えるって、楽しいことばかりじゃないから」
「そうなの?」
「うん。悪い霊に遭遇することもあるし、誰にも理解してもらえない孤独感もある」
結愛は蓮を見つめた。
「でも、もう一人じゃないよね」
「……うん」
照れた顔を隠すように背中を向けて、お菓子の空袋を片付ける。
(結愛ことをこんなに意識したのは初めてだ……なんだろう……)
放課後、二人は一緒に帰宅していた。
商店街を歩いている時、蓮は足を止めた。
「どうしたの?」
結愛が振り返る。
「ちょっと待って」
蓮は中華料理店の前で立ち止まっていた。
店の入り口に、年配の男性の霊が立っている。
料理人の格好をした、穏やかそうな霊だった。
『やぁ、良かったらどうだい?』
霊が蓮に話しかけてきた。
『昔はにぎやかだったのになあ……なんでだろうなぁ』
蓮は店の中を見た。
確かに客は一人もいない。
店主らしい中年男性が、カウンターで寂しそうに座っていた。
「蓮?」
結愛が心配そうに声をかけた。
「あ、ごめん」
蓮は我に返った。
「ちょっと、あの店が気になって」
「中華料理店?」
結愛が店の看板を見る。
「うん。なんか……お客さんが少なそうで」
結愛は店内を見た。
「確かに。でも、お昼時じゃないからかな?」
結愛は気にしていなそうだ。
「そうかもね」
蓮は霊にもう一度目を向けた。
霊はただ店内を見つめている。
微動だにせず、店を守っているようにも見える。
(おばあさんと初めて会った時みたいな悲しい顔だ……何か助けられるかな)
でも、今は何も思いつかなかった。
家に着くと、妹のさくらが玄関で待っていた。
「お帰り、お兄ちゃん!結愛お姉ちゃんも!」
「ただいま、さくら」
結愛は優しく微笑んだ。
「お兄ちゃん、最近元気だね」
さくらは蓮を見上げた。
妹のさくらは活発で、ツインテールがよく似合う元気な子だ。
「そう?」
「うん。前はなんか暗かったけど、最近は笑顔が多いよ」
蓮は少し驚いた。
さくらにまで変化が伝わっているとは。
「結愛お姉ちゃんのおかげかな?」
さくらはにっこり笑った。
「そ、そんなことないよ」
結愛は慌てて手を振った。
(だめだ……意識するだけで身体が熱くなる)
「でも、確かに蓮は変わったよ!」
結愛までも蓮の変化を感じていたことに驚く蓮。
「変わった?」
心が軽くなっただけと思ったけれど、何か目に見えての変化に見当がつかなかった蓮は聞き返す。
「前より自然になったというか……肩の力が抜けたみたい」
蓮は結愛の言葉に考え込んだ。
確かに、秘密を打ち明けてから楽になったのもあるけれど、結愛と一緒にいると霊感があることも含めて自分を受け入れられる気がする。
「結愛のおかげだよ。さっ!次の動画の話をしようよ」
思ったことをそのまま伝える。
蓮の部屋で、二人は次の動画の企画を考えていた。
「次はどうしようかな~」
結愛はノートに案を書きながら呟いた。
何となく、結愛の言葉に余裕を感じさせる。
(頼むから、また危ないところに行かないでくれよ……)
心の中で蓮は願うけれど、何だかんだ言って最後まで付き合う気でいる蓮。
「また霊スポット?」
蓮は心配そうに聞いた。
「うーん、連続で行くのは危険かも」
結愛は首を振った。
ほっと胸をなでおろす蓮。
「蓮に負担をかけちゃうし」
「負担って?」
「霊感を使うの、疲れるでしょ?」
結愛は蓮を気遣うように言った。
「鏡池の後、すごく疲れてたもん」
蓮は驚いた。
結愛は蓮の変化をよく見ていてくれる。
「ありがとう。でも、結愛が危険な目に遭わないなら大丈夫」
それが結愛の足枷になるのは、嫌だった蓮。
「でもね」
結愛は振り返った。
「私、考えたんだ。ホラー実況だけじゃなくて、もっと色んなことに挑戦してみたい」
「色んなこと?」
「例えば、町の紹介とか、美味しいお店の紹介とか」
結愛の目が輝いた。
「さっきの中華料理店みたいに、お客さんが少なくて困ってるお店を応援できたらいいなって」
蓮は感動した。
結愛は自分の成功だけじゃなく、他の人の役に立ちたいと思っている。
しかし、今方向転換したら今まで見てくれた人の期待を裏切るんじゃないかという不安があった。
「それ、大丈夫なの?再生数とか」
「毎回ホラーじゃあ飽きちゃうでしょ」
結愛は嬉しそうに笑った。
「『YUAちゃんねる☆町おこし』みたいなタイトルで!」
「町おこし、か」
蓮は考えた。
もしかしたら、霊感を使って困っている人を助けることもできるかな。
(霊感と町おこしって結びつくのかな?)
さっきの中華料理店の霊も、何か伝えたいことがあるのかもしれないけれど、役に立つ保証もない。
でも、気になる蓮。
「結愛」
「何?」
「もし僕に何か手伝えることがあったら、遠慮しないで言って」
「蓮……」
結愛は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。蓮も遠慮なく話してよね!」
「うん、分かった」
二人は向かい合って微笑んだ。
新しい関係、新しい挑戦。
全てが変わり始めていた。
その夜、蓮は一人で街を歩いていた。
さっきの中華料理店が気になって、もう一度見に来たのだ。
店はまだ開いていたが、やはり客はいない。
店主が一人で片付けをしている。
店の前に立つと、昼間の霊が再び現れた。
『また来てくれたのか』
霊は嬉しそうに言った。
蓮の目を見て話す。
『あんた、霊が見えるんだね』
「はい」
蓮も店の霊の顔を見て小声で答えた。
『実はな、息子にどうしても伝えたいことがあるんだ』
「息子さん?」
『あの子だよ。俺の一人息子なんだ』
蓮は店内を見た。
店主は50代くらいの男性だった。
『俺の秘密のレシピがあるんだ。それを使えば、きっと客が戻ってくる』
「レシピ?」
『冷凍庫の奥にしまってある。でも、息子は気づいていないんだ』
霊は悲しそうに続けた。
『息子に渡そうとしてしたんだが、その前に死んじまってな。どうしても伝えたいんだ』
『本当に美味しい……昔ながらのレシピなんだ』
蓮は考えた。
これは霊感を使って人を助けるチャンスだ。
でも、どうやって店主に伝えればいいのだろう。
「分かりました」
蓮は霊に向かって言った。
「何とか息子さんに伝えてみます」
『本当か?!ありがとう!』
霊の表情が明るくなった。
『息子の名前は村田 トオルで、俺は村田 秀樹だ』
「僕は田中 蓮です。出来るだけ頑張ります」
『よろしくな!蓮!』
蓮は微笑んだ。
結愛も巻き込めば、きっと何かできる。
翌日の昼休み、さっそく蓮は結愛を巻き込むことにした。
「え、中華料理店に霊がいるの?」
結愛は驚いた。
「うん。店主のお父さんらしい」
「それで、レシピを息子さんに伝えたいって?」
「そう。でも、どうやって伝えればいいか分からなくて」
結愛は考え込んだ。
「それって……動画のネタになるかも」
「えぇ……?」
「『町の隠れた名店を探す』みたいな企画で、その中華料理店を紹介するの」
結愛の目が輝いた。
「取材という形で店主さんと話して、自然にレシピの話を振り向けるとか」
「でも、霊のことは言えないよ」
「言わなくても大丈夫」
結愛は自信満々に言った。
「『昔のメニューとか、お父さんから受け継いだレシピとかありませんか?』って聞けばいいのよ」
蓮は感心した。
結愛のアイデアは素晴らしい。
これなら自然に話を切り出せる。
「やってみたいな」
「じゃあ、決まりね!」
結愛は嬉しそうに頷いた。
「新しい企画の第一弾!気合い入れて行くよ!」
放課後、二人は中華料理店に向かった。
結愛は撮影機材を持参している。
「実際にやると……緊張するね」
結愛は呟いた。
「うん、霊スポットとは違う緊張感だね」
同感する蓮。
「でも、大丈夫だよ」
蓮は励ました。
「結愛の明るさなら、きっと店主さんも話してくれる」
店に入ると、昼間と同じように客はいなかった。
店主が奥から出てきて、驚いた表情を見せた。
「いらっしゃいませ。学生さん?」
「はい」
結愛は元気よく答えた。
「私、YouTubeで町の紹介をしてるんです。このお店を紹介させてもらえませんか?」
店主の顔がぱあっと明るくなった。
「本当ですか?ありがたい!」
結愛は撮影を始めながら、店主と話を進めた。
蓮は店内を見回しながら、霊の姿を探した。
カウンターの端に、昨夜の霊が立っていた。
息子の様子を嬉しそうに見守っている。
『頼んだよ』
霊が蓮に向かって呟いた。
蓮は小さく頷いた。
「ところで」
結愛が店主に聞いた。
「お父さんから受け継いだレシピとか、昔から作ってる名物料理ってありますか?」
店主の表情が少し曇った。
「父のレシピ、ですか……」
「はい。きっと視聴者の皆さんも興味があると思うんです」
「実は……」
店主は言いにくそうに口を開いた。
「父が亡くなってから、父のやり方じゃなくて、自分なりのやり方でやってきたんです」
「そうなんですね」
「でも、最近お客さんが減って……もしかしたら、父のレシピの方が良かったのかもしれません」
蓮は霊を見た。
霊が大きく頷いている。
「父のレシピ、どこかに残ってませんか?」
結愛が優しく聞いた。
「それが……見つからなくて」
店主は悔しそうに言う。
「あっ!そう言えば冷蔵庫の裏に、そういうのってあると聞いたことがあります!」
蓮は結愛の無理やりな話の持って行くやり方だったけど、結愛を応援する。
「そうなんですよ!僕も聞いたことが……あったんですよぉ~」
結愛よりも下手くそな大根役者に冷房が効いている店の中なのに汗がダラダラ垂れる蓮。
「……ちょっと、探してみます」
店主が冷凍庫に向かった。
しばらくして、古いノートを持って戻ってきた。
「あった!父の手書きのレシピです」
霊の表情が明るくなった。
『それだ!それが俺のレシピだ!』
店主はノートをめくりながら、感慨深そうに呟いた。
「懐かしいな……あっ!この餃子、昔はお客さんに大人気だったんです」
「じゃあ、また作ってみませんか?」
結愛が提案した。
「動画でも紹介させてもらって」
「本当ですか?」
店主の目が輝いた。
「ぜひお願いします!」
蓮は霊を見た。
霊は涙を流しながら、息子を見つめていた。
『ありがとう』
霊が蓮に向かって深くお辞儀をした。
『息子が父の味を思い出してくれて、本当に嬉しい』
蓮は小さく微笑んだ。
霊感があることで、人の役に立てる。
これまでは重荷だと思っていたが、使い方次第では素晴らしい力になる。
結愛と一緒なら、きっともっと多くの人を助けることができるだろう。
撮影が終わった後、二人は店を出た。
「うまくいったね」
結愛は満足そうに言った。
「店主さん、すごく嬉しそうだった」
「うん」
蓮は振り返った。
店の入り口に霊が立っていたが、今度は悲しい表情ではなかった。
穏やかで、満足そうな顔をしている。
少しすると、光の粒子になっていき、消え始める霊。
(あぁ……心残りが、無くなったんだな……)
もう会えない、けれど、それでよかったと胸を張って言える。
あの店主の店はこれで上手くいくはずだ。
もう、悲しまなくて良くなるんだったら、今日のことはとても意味のあることだ。
「これからも、こういう企画続けていこうよ」
蓮が提案した。
「町の人たちの役に立てるような動画」
「そうだね」
結愛は頷いた。
「僕も、できる限り協力する」
二人は並んで歩きながら、新しい可能性について話し続けた。
霊感という特別な力と、YouTubeという現代的なツール。
一見関係のない2つが組み合わさることで、蓮の人生を変えてくれた。
周りの人も良くなる。
(霊感も、良いかもな)
夕日が二人の影を長く伸ばしていた。
変わり始めた日常の中で、二人の絆はさらに深くなっていく。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
良ければ、ぜひ!ブクマ!評価!応援コメントよろしくお願いします!!!
やる気が上がります!!!