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第1話「登録者1人のホラー実況者」

YA小説を意識して書きました。

最近のトレンドってユーチューバーだったので、真似したいなぁと。

ただ真似するのもあれだったので、ホラー系にしてみました。

短いですが、ぜひ読んで欲しいです。

良ければ評価とブクマ!お願いします!!!

 6月の朝は、もう暑い。

 

 田中蓮は通学路を歩きながら、大きくあくびをした。

 昨夜は結愛と遅くまで電話していたし蒸し暑さも手伝って、ほとんど眠れなかった。

 

 角の電柱のそばで、蓮は足を止める。

 人目につかないよう、そっと振り返った。

 

「おはよう、おばあちゃん」

 

 誰もいない空間に向かって挨拶する。

 でも本当は誰もいないわけじゃない。

 白い着物を着たおばあさんの霊が、優しく微笑んでいる。

 

「今日も暑くなりそうですね」

 

「そうだねえ。気をつけて学校に行きなさい」

 

 おばあさんの霊は手を振った。

 蓮にだけ見える、いつもの光景。

 蓮は歩きながら考えた。

 

 クラスメイトに「霊が見える」なんて言えるはずがない。

 でも、霊だからって無視するのはもっと嫌だった。

(優しい霊だっていっぱいいるのに)

 水原中学校の校門が見えてきた。

 今日もまた、凡人を演じる一日が始まる。


「蓮くん、おはよー!」

 元気な声が後ろから聞こえた。

 振り返ると、茶色のセミロングを揺らしながら、佐藤結愛が走ってくる。

「おはよう、結愛」

 蓮の表情が、ぱあっと明るくなった。

 眠気が一気に覚める。

 幼馴染の結愛は、蓮にとって特別で大切な存在だ。

 

「今日もいい天気だね!」

 結愛は蓮の隣に並んで歩き始めた。

 彼女の明るさは、朝の陽射しみたいに眩しい。

 

「そうだね」

 蓮は花が咲いたような笑顔で返事した。

 結愛を見ていると、自然と背筋が伸びる。

 少しでもかっこよく見られたいと——。

 

 ふと振り返ると、さっきのおばあさんの霊はもういなかった。

 霊たちは、普通の人が近づくと姿を消すことが多い。

 

「何見てるの?」

 結愛が首をかしげた。

 

「何でもないよ」

 蓮はごまかすように前を向いた。

 

 霊感のことだけは、結愛にも言えない。

 この秘密がバレたら、今の関係が壊れてしまう。


 教室に入ると、いつもの日常が始まった。

 授業中、蓮は窓の外をぼんやり見ていた。

 校庭の桜の木の下に、小さな子どもの霊がいる。

 僕たちが着ている体操服とはデザインが違う格好をして、一人で遊んでいた。

(あの子は、いつもいるな)

 あの霊も無害だ。

 ただそこで遊んでいるだけ。

 話しかけると逃げちゃうから話したことはない。

「田中くん」

 先生の声で、蓮は現実に戻った。

「え?」

 素っ頓狂な声が出た。

「ちゃんと聞いてる?」

「あっ……すみません」

 クラスメイトがクスクス笑った。

 蓮は頬を掻きながら教科書に目を落とした。

(またやっちゃった……)

 

 

 放課後、蓮は結愛と一緒に自分の家に向かった。

 妹のさくらは学童に行っているし、両親はまだ仕事中。

 静かな家は、YouTube撮影には都合が良い。

 それを知っている結愛の提案だった。

 

「お疲れさま!」

 結愛は蓮の部屋に入ると、整頓されていた撮影機材を慣れた手つきで準備し始めた。

 スマホとちょっとした照明、それに小さなマイク。

 決して高価な機材ではない。

 

「今日は何やるの?」

 蓮はベッドに腰かけて聞いた。

 

「うーん、『呪巣 -呪いの巣窟-』っていうホラーゲーム」

 結愛はスマホの画面を確認しながら答えた。

 

「怖そうな名前だね」

 

「でしょ?でも……」

 結愛の表情が少し曇った。

 

「でも?」

「どんなに怖いゲームやっても、全然怖くならないんだよね」

 蓮は黙って聞いていた。

 結愛のこの悩みは、昨夜の電話でも聞いていた。

 

「よし、撮影開始!」

 結愛は無理やり明るい声を出した。

 スマホのカメラが回り始める。

 

「えーっと、皆さんこんにちは!ゆあです!」

 結愛の声は、いつもより少しだけ高い。

 画角はゲーム画面を写していた。

 

「今日もホラーゲーム実況をやっていきたいと思います!今回やるのは『呪巣 -呪いの巣窟-』です!」

 画面の中で、不気味な和風の屋敷が映し出される。

 確かに見た目は怖そうだ。

 

「うわー、もう最初から雰囲気ありますね……って、あ」

 結愛は操作を間違えて、いきなり主人公が屋敷の中に入ってしまった。

 

「あー、もう入っちゃった。まあいいか」

 蓮から見ても、結愛は本当に怖がっていないのが分かる。

 

 ゲームの中では血まみれの霊が出現しているのに、結愛は「あ、出た出た」と冷静に操作している。

 約30分後、ゲームをクリアした結愛は撮影を終了した。


「お疲れさま」

 

「うん……お疲れさま」

 結愛は力なく答えた。

 

 スマホを見つめながら、動画のタイトルを考えている。

「『本当に怖い!呪巣 -呪いの巣窟- 実況』……嘘だよね」

 

「嘘って?」

 

「なんていうか、全体を通して全然怖くなかった」

 結愛は膝を抱えて座り込んだ。

 

「でも、怖がらないのが結愛の持ち味じゃない?」

 蓮は慰めるように言った。

 

「持ち味って言うけどさ……」

 結愛はスマホの画面を蓮に見せた。

 

 チャンネル登録者数:1人。

 最新動画の再生回数:3回。

 

「見て。登録してくれてるのって蓮だけだよ。再生回数も全然伸びない」

 蓮は何と言っていいか分からなかった。

 

 確かに結愛の動画は、客観的に見て「怖がっていない」。

 でも、それが結愛なのだ。

 

「この前、他の実況者の動画見たんだ」

 結愛は続けた。

 

「みんなすごい怖がって、叫んだり、椅子から転げ落ちたり……」

「うん」

「コメントも『面白い!』『続き待ってます!』って盛り上がって」

 結愛の声が小さくなっていく。

 

「私の動画のコメントって……」

 結愛は過去の動画を開いた。

 

 数少ないコメントの中に、蓮の目に留まったものがあった。

 

『全然怖がってないから面白くない』

 

『これじゃあホラー実況じゃなくて攻略動画』

 

『反応薄すぎ』

 

「結愛……」

 蓮は胸が痛くなった。

 結愛がこんなコメントを見ていたなんて知らなかった。

 

「お母さんのことも心配なんだ」

 結愛は突然、話題を変えた。

 

「お母さん?」

 結愛の心配に自分まで心配な気持ちになる。

 

「パートの仕事、すごく大変そうで。私がYouTuberでお金稼いで、少しでもお母さんを楽にしてあげたいのに……」

 結愛の目が潤んでいた。

 

「この調子じゃ、全然稼げない。というか、稼ぐどころか再生されてない」

 蓮は結愛の肩に手を置いた。

 

「大丈夫だよ、結愛の真っ直ぐなところ、その行動にファンは必ずつくよ」

 蓮は自分なりの気持ちで結愛を慰める。

 

「大丈夫じゃないよ!」

 結愛は初めて声を荒げた。

 

「私、本当の怖いって分からないんだよ。どうやったら怖がれるの?どうやったら面白い反応できる?」

 蓮は答えに困った。

 彼にとって「怖い」は日常だった。

 良い霊と悪い霊も関係なしに今まで見てきたから、本当の恐怖を知っている。

 悪い霊は人の生き死にを快楽として、ただ楽しいからと呪いをかける存在もいる。

 

 でも、それを結愛に言うわけにはいかない。

 知らなくても良い世界だ、もし本当に悪霊から呪われそうになったら陰ながら助ければ良い。

 

「ねえ、蓮」

 結愛は涙を拭いながら、蓮をまっすぐ見つめた。

 

「本当の怖いって、何?」

 結愛の真剣な眼差しに、蓮は言葉を失った。

 僕なりの答えは分かっている。でも言えない。

 

「えーっと……」

 蓮は視線を逸らした。

 どう答えていいか分からない。

 

「やっぱり分からないよね」

 結愛は小さくため息をついた。

 

「ゲームの中の怖さって、作り物でしょ?血が出たり、急に何かが出てきたり……でも、それって本当に怖いのかな」

 蓮は黙って聞いていた。

 

「本当の怖さって、もっと違うところにあるような気がするんだ」

 結愛は窓の外を見つめながら続けた。

 

「例えば……本物の霊とか」

 蓮の心臓が跳ね上がった。

 飲もうとしていたコップに入っていたジュースに波紋が起きる。

 

「本物の霊?」

 結愛の言葉の続きが聞きたくないと思ったのは初めてだった。

 それでも、僕は結愛の真剣な表情に聞くしか出来なかった。

 

「うん。実際に霊スポットに行って、本当の怖さを体験してみたいんだ」

 真剣だった結愛の目が輝いた。

 何かを思いついたような表情だった。

 

「霊スポット……」

 蓮は繰り返した。

 

 この町には確かに、霊スポットと呼ばれる場所がいくつかある。

 旧校舎、石神神社、鏡池、そしてトンネル。

 蓮は全部知っていた。というより、通学途中で会ったあばあさんが教えてくれた。

 それによると、噂ではなく本当に霊がいることを知っていた。

 しかも、悪霊。


 「そうだよ!」

 結愛は勢いよく立ち上がった。

 

「ゲームじゃなくて、本当の霊スポットで撮影するの!そうすれば、本物の怖さが分かる!」

 蓮は慌てた。

 結愛一人で霊スポットに行かせるわけにはいかない。

 特に鏡池やトンネルは危険すぎる。

 生きて帰れる保証がない。

 

「でも、一人じゃ怖いし……」

 結愛は蓮の方を振り返った。

 

「蓮、一緒に来てくれる?」

 蓮の頭の中で、警告音が鳴り響いた。

 霊スポットに結愛を連れて行くなんて、とんでもない。

 でも、断ったら結愛は一人で行ってしまいそうだ。

 母親に対しての想いを僕は応援したい気持ちもある。

 

「結愛……危ないから……」

 それでも、結愛のことが大切で特別な存在に感じている僕は止める。

 

「お願い!」

 結愛は蓮の手を両手で握った。

 

「私、本当に困ってるの。このままじゃ、YouTuberとして成功できない。お母さんも助けられない」

 結愛の手が震えていた。

 

「でも、一人で霊スポット行くのは怖い。蓮と一緒なら、きっと大丈夫」

 蓮は結愛の手の温かさを感じていた。

 彼女は本気だった。

 本当に困っていた。

 

「蓮は物知りだし、冷静だし……私の一番の理解者だと思ってる」

 結愛の言葉が、蓮の胸に響いた。

 理解者。

 でも、蓮の一番大きな秘密は、結愛に理解してもらえるだろうか。

 

「ねえ、お願い」

 結愛は蓮を見上げた。

 

「これが駄目だったら、もうYouTube諦める。だから……」

 結愛の声が震えた。

 

「一生のお願い。霊スポット巡り、付き合って」

 蓮は結愛の涙を見つめていた。

 

 彼女の夢、母親への思い、全てが詰まった願いだった。

 頑張りたいことを見つけた彼女を見て、僕の中で考えが変わった。

 

 霊感がバレるリスクなんてどうでもいい。

 結愛が危険な目に遭う?僕が守れば良い。

 彼女のやりたいことを応援できないで僕は、胸張って生きられない。

 蓮は結愛の手を握り返した。

 

「……分かった」

 結愛の顔がぱあっと明るくなった。

 

「本当?」

 まだ不安そうな顔をしている結愛に優しく、それでいて簡単には離さない意思を持って答える。

「付き合うよ」

 蓮は小さく微笑んだ。

 

「ありがとう、蓮!」

 結愛は蓮に抱きついた。

 蓮の頬が赤くなる。

 

「じゃあ、まずはどこから行く?」

 結愛は早速計画を立て始めた。

 

「えーっと……旧校舎とか?」

 蓮は考えた。

 旧校舎なら、まだ安全な方だ。

 音楽教師の霊がいるが、基本的に無害。

 

「うん、旧校舎から始めよう」

 おばあさんから詳しく旧校舎や比較的安全な心霊スポットを教えてもらうことにしよう。

 あとは、悪霊に効果のあるアイテムも事前にリサーチしよう。

 徹底的に身の安全を重視した対策を持ってやろう。

 やると決めたからには。

 

「やった!明日の放課後、行こうよ!」

 結愛は興奮していた。

 蓮は複雑な心境だった。

 

 結愛を助けたい気持ちと、危険から守りたい気持ち。

 霊感を隠し続ける不安と、いつかバレてしまい周りと同じ冷めた目で見られる恐怖。

 でも、結愛の笑顔を見ていると、全部どうでもよくなった。

 ただ、彼女の笑顔が守れればそれでいいと思えた。

 

「そうだ……僕が守るんだ」

 蓮は心の中で決意した。


「ん?……何か言った?」

 

「いや、何でもないよ」

 心の声が漏れていた蓮は、ごまかして撮影機材を片付けるのを手伝う。

 

「蓮、ありがとう」

 結愛は改めて蓮に向かって頭を下げた。

 

「こんなわがまま聞いてくれて、本当にありがとう」

 

「いいよ」

 蓮は頬を掻きながら答えた。

 

「幼馴染だから」

 幼馴染。

 

 その言葉を口にしながら、蓮の胸は少し痛んだ。

 夕日が部屋を染めていた。

 

 明日から、二人の関係が変化する可能性もある。

 蓮の秘密が暴かれる可能性もある。

 答えがもうすぐそこまで来ているのを二人は、まだ知らない。

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