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短編・その他(コメディ多め)

王立学園に騎馬戦を持ち込んだ結果、俺は遅い青春を謳歌した話

作者: 二角ゆう

「余はメタボっぽい」


 俺は目が飛び出るほど開いて王様の真意を汲み取ろうとする。


 失敗した。何も分からない。


「聞いているのか? メ・タ・ボ。メタボリックシンドローム」

「⋯⋯えぇ、存じております」

「ちょっと運動しようかと思ってな。狩りには飽きたし何か知っているか?」


 俺は全力で脱力した。

 あぁ、びっくりした。そのおなかのだるだるを取りたかったのか。そのおなかで出来るスポーツ何かあったっけ⋯⋯隣国ではサッカーなるものが流行っているそうだが、そんな全身を使って、前半45分、後半45分も運動させるなんて試合終了の前に俺の人生が終了してしまう⋯⋯


「残念ながら、私は存じあげませんが、少しお時間をいただければ探してまいります」


 俺は王城の統括長をしている。伯爵という身分でここまでのし上がるのはそれはもう過酷なことだった。


 そこで身についたのが、“お断り”と“代替案”をセットで間髪入れず提案することだ。


 “存じあげません”で終われば“もう良い”と言われて2度とチャンスはない。


 ひと呼吸つく前に“存じあげませんが――”で繋げば、相手は聞かざるを得ない。


「そうか。じゃあ後で報告しろ」

「有り難に幸せにございます!」


 そしてここはオーバーに喜ぶ、これが俺流王城生存方法だ。


 さて、スポーツなぞどこでやっているんだろう。

 そうだ、リラ王女の執事が知っているかもしれないな。

 噂ではこの執事は情報通のようだ。ちょうどいい機会だから親交を深めよう。


「良いっすよ」


 見た目は茶色のツンツン頭で姿勢はものすごく良い。

 でもなんだが軽いノリだな。


「そうか、それは助かる。王女様の方は大丈夫なのか?」

「ええ、それはバッチリっすよ。スポーツですよね⋯⋯学園とかどうっすか?」


 何が一体どうっすかなんだ? 仕事が出来るのか出来ないのか良くわからん奴だな。


 ハボックが言うには、スポーツは比較的若い人が好むものなのでその流行を作るのは若者のたまり場である学園で始まりやすいそうだ。


 なるほど、それは納得だ。それに隣国のサッカーも学園で流行り始めたなんて初耳だ。


「王女様が通うロッソ学園に行ってみましょう」


 学園に着くと、ちょうどお昼の時間だった。


 カフェテリアに行くとハボックが集まっている学生たちにこう言った。


「皆様、こんにちは。私はリラ王女様の執事のハボックです。今日はスポーツの祭典の調査にやって来ました。活躍した人は王様の耳にも入るかもしれないです」


 その言葉に学生たちが集まってきた。その人だかりから眼鏡をかけたさえない男子生徒が出てきた。


「僭越ながら、私は平民ですが、転生者です。体育祭を開いてはどうでしょうか?」


 テンセイシャ? 

 タイイク祭?

 いきなり気になるワードが出てきたぞ。


「テンセイシャとはどういう意味だ? それにタイイク祭とは何だ?」

「あっ意味は知られると困りますので、テンセイとお呼びください。体育祭と言うのは皆でスポーツをして競う祭典です」

「⋯⋯なるほど⋯⋯?」


 学生たちと広場にやってきた。


 テンセイによると、基本的に走って順位を競うそうだ。

 身体能力だけか⋯⋯貴族の子息たちは大丈夫だろうか?


 ハボックはテンセイと話している。


「良いっすね。借り物競争ってやつをやってみましょう」


 もう話が進んでいる。さすがハボックは仕事が早いな。


 借り物競争とは箱の中にあるキーワードのものを誰かから借りて、それと共にあらかじめ決められたところまで走るというものらしい。


 それなら身体能力だけに頼らないから大丈夫か。


「そうだな、やってみよう」


 テンセイが用意したキーワードの箱をスタートから100メートル先に置いて、10人くらいハボックが指名した子息たちが走り始める。


 それぞれキーワードを見て探し始める。


 1人の子息がキョロキョロと周りを見て、誰かに狙いを定めると1人の令嬢の目の前に立ち騎士のように跪くと令嬢の手を取った。


「美しいお嬢様、あなたのハンカチを貸していただけませんか?」

「まあ、いいわよ」


 ほうほう、中々見ている方も面白いな。


「ああ、お優しいお嬢様、あなたごと借りてしまいたい」

「まぁ、いけませんわ⋯⋯」


 おい、いきなり風紀が乱れたぞ⋯⋯。


「ぎゃははははは」


 隣のハボックは大笑いしている。この男、酒の席では絶対笑い上戸だな?


「アルマさん、この競技面白いっすね」

「これは風紀が乱れて駄目だ」

「アルマさん見てください! あっちでは令嬢をお姫様抱っこしていますよ。ぎゃははは」


「テンセイ、次の競技はないか?」


 俺は慌ててテンセイに話を振る。

 テンセイは腕組みして考えているようだった。


「そうですね、あのお姫様抱っこはどうですか? 令嬢をお姫様抱っこしてゴールまで行くんです」

「それはちょっと⋯⋯」


 反射的に話し始めると、令嬢たちの期待の目が俺にぐさぐさと刺さる。


 あぁ、令嬢たちもロマンチックに飢えているのか⋯⋯。


「良いっすね!」


 俺は軽く返事をしたハボックに丸投げした。ハボックはランダムにペアを組ませて試しにスタートさせた。


 貴族の子息たちは魔法使いに何倍もの重力をかけられているかのように令嬢を抱き上げたまま地面へと沈んでいく。


 子息たちは息もできないのか苦しそうな顔をしている。

 一方、令嬢たちの目線はどんどん冷たくなる。


 そこへ軽々と持ち上げて走るのは騎士候補生たちだった。


「アマルさん見てください。ラフマン伯爵子息は人気のようです。ほら、令嬢たちが列をなしてますよ!」


 ハボックは楽しそうに俺に声をかけてくる。


 俺はラフマンを見ると令嬢たちに囲まれていた。


「それにしてもあんな軟弱じゃあ令嬢も100年の恋から冷めますよ。王女様だったら、“あなた、アウト〜”って言いますよ。ぎゃはは」


 他の子息たちはひいひい言いながら地面に沈む者、諦めて令嬢を下ろして恨めしそうにラフマンを見ている者、それぞれだった。


「ハボック⋯⋯左を見てみろ。地獄絵図じゃないか。早くやめさせよう。このままじゃ貴族間で軋轢が生じてしまう⋯⋯」


「そうですか? 王女様ならハッパをかけますよ。ちょっと見ててください」

「ちょっと⋯⋯」


 発破をかける??


 ハボックは地獄絵図の中に入ると誰かに手を挙げている。


「レイン令嬢!」

「まぁ、ハボックさん。王女様はお元気ですか?」


 なんともおしとやかなこの令嬢は王女様の仲の良いご友人。


「さん付けなんていらないっすよ。レイン嬢、俺にお姫様抱っこされません?」

「まあ、王女様に悪いわ」

「王女様と1番仲の良いあなた以外をお姫様抱っこしたら、王女様が怒こりそうなのでレイン嬢にしか頼めないんです」

「ふふっ、分かりました」


 レイン嬢は手で口元を隠しながら上品に笑った。

 その直後にふわっとレイン嬢を抱き上げると軽々と走っていく。


 まるで時が止まったかのようにそこにいた学生は2人の姿を追った。


 ゴールするとハボックはふらりとレイン嬢を地面へと下ろした。


「一介の執事だってこれくらい出来るんです。王女様がこんなの見たらがっかりしちゃいますよ」

「ハボック⋯⋯すごいな」


「そりゃあ避難訓練の一環として少なくとも王女様の部屋から外まではお姫様抱っこで走れるように鍛えています。でも王女様は王城の敷地を出るまで走れって言うんすよ。王城の敷地内を出るまでどれくらいの距離があるか知ってますか? 最短距離で2キロメートル。俺スパルタ反対」


 この男、脱いだらすごいんです系の男だったのか。でもハボック、気がついていないかもしれないが、他の令嬢にもロックオンされたぞ。たぶん、数十単位で。


「王城でも避難訓練に取り入れるか」


 でもハボックの言う通り何かあった場合は体力次第の部分があるのは否定できん。


「それから凄いのはレイン嬢っす。走っている俺に負担がかからないように身体を硬くして腕でしっかり首元を握っておいてもらわないとあれは出来ないんです。王女様もそのためにカテーシーと腕立伏せは毎朝やっているんです」


 ほう、それは凄いな⋯⋯どちらも筋力がないと出来ないものなのか⋯⋯っと感心している場合ではない。この勢いで地獄絵図を取り払うぞ


「テンセイ、他には何ないか? ここに合った競技だ」

「あー⋯⋯ありますが⋯⋯ちょっと問題もありますね」

「どんな競技か教えてくれ」


 俺はこの雰囲気を打開したくてテンセイの言葉を待った。


「騎馬戦――」


 前1人、後ろ2人で三角を作るようなフォーメーションで馬役をやるそうだ。前と後ろの人は手の平が上に向くように手を握る。三角の中央辺りの上に人が乗るそうだ。上の人は下の馬役の人の手に足を置く。


 ⋯⋯ほうほう、騎乗での戦いを模した人版なんだな。面白そう、だが⋯⋯


「アルマさん、これは荒れそうですね」

「だな」


 こんなことやったら誰が誰を攻撃しただのと始まり、憎悪と嫉妬が飛び交い遊びから本当の戦争になりかねない。


 俺とハボックの心は1つになった。


「ハボック、そろそろおいとましよう」

「そうっすね」


 よし帰ろう。時にはワークライフバランスも大切だ。


「ちょっと待った」


 人だかりの奥から第4王子が出てきた。


 いや、もう俺は帰りたいんだが⋯⋯今日は定時で帰りたいから早く戻って報告をあげたいな⋯⋯。


「騎馬戦において一切の家門を無視する」


 王子の一声は運動場に響き渡る。


 それを聞いた俺はハボックに顔を近づけた。


『おい王子、こんな時だけ協力してくれるなよ』と小声の俺。

『王子やる気満々じゃないっすか。令嬢たちにいいところ見せたいんですよ、ぷくく』と小声で返すハボック。


 仕方がなく騎馬戦を行うことにした。


「本当は上に乗った人が帽子をかぶって、その帽子を取り合うんですが、それだと絵にならないので胸ポケットに赤いハンカチを入れてそれを取り合えば良いんじゃないでしょうか?」


 テンセイは気の利く提案をする。


「さらに公平になるように馬になる人は騎士候補生から、上の人の人は貴族の子息様で選んで、組み合わせをくじにするのはどうでしょう?」


 おぉ、気が利くなあ。帰ったら絶対テンセイを調べ上げて学園を卒業したら王城の統括部に引き入れよう。


 くじで組んだ結果、20組ほど出来た。


 そこへ王子は自分の近衛兵に馬をさせてやって来た。


『あっ王子ずるいっすよ。周りはくじで公平に決めたのに自分だけ近衛兵使うなんて、反則っす。王女様だったら“王子、アウト〜”って言いますよ』と小声で不満を言うハボック。


 ハボックの話を聞いていると、俺のイメージする王女様とどんどんかけ離れているんだが、親しい人だとこんなフランクなのか?


『確かにあれはずるい。報告に入れよう』と小声で同意する俺。

『報告は俺にさせてください。きっちりズルは書きますよ。王女様はそう言うの大っ嫌いですから、目の前にいたら王女様から肩パンチの刑っすよ』と小声で素晴らしい提案をするハボック。


 ハボック⋯⋯報告までやってくれるのか⋯⋯今度、慰労会を絶対にやろう。それで俺の一番好きな焼肉屋に連れて行こう。


『そうか、そうしたら報告はぜひ頼む』と嬉しさのあまりにやにやしながら小声で返す俺。


 ハボックは俺とそんな会話をしながら騎馬戦の運動場全体を見ている。ずっと目を離さないで俺と会話をしていた。


 運動場の奥の方では“家門を無視”と言う開放的な条件に楽しんでいる子息も多い。


 だが前からじわじわと王子が後方へと近づ。向かっていく。


 そこへ王子の正面に颯爽と現れた子息は王子と胸元のハンカチを取り合う。


 俊敏な動きで王子の胸元からハンカチを奪おうと子息の手が伸びる。しかし既のところで王子は上体を仰け反らせて避けた。


 そしてバランスを崩した子息が体勢を整えているうちに王子が子息の胸元からすっとハンカチを取った。


『王子はなかなか上手いな』

『いえ、上手いのはハンカチを取られたケイン公爵子息です。いやあ、彼はノーチェックでした。

 開始直後から広場全体を見渡して状況を把握した後、下の馬役の学生に作戦を伝えて王子にインパクトのある出会い方をする。そしてあたかも王子と必死に取り合うかのように見せかけてぎりぎりのところで王子に取らせる。彼はものすごく優秀です。

 それからその30メートル斜め後ろにいるナイザ伯爵子息も良いですね。今の王子とケイン公爵子息のやりとりを見て、すぐ反応しました。見ててください』


「えっ、あれ演技なの?」


 俺は思わず声を上げてしまった。何人かの学生が俺とハボックを見た。俺は口を手で隠した。


 おっとっと、危ない


『アルマさん、次やったら肩パンチっすよ』

『すまない⋯⋯』


 おいおい、ハボックはこの運動場全部を見ているのか⋯⋯ナイザ伯爵子息か⋯⋯王子に近づいてくる彼か⋯⋯


 彼は王子が一息ついた後、隙をついて斜め後ろから取ろうとした。


 あれが演技なのか⋯⋯確かによく見ると動きの間に少し間があるな⋯⋯


 既のところで気がついた王子は仰け反りながらナイザ伯爵子息の胸元からハンカチを取った。


 学生たちから声が上がる。


『ナイザ伯爵子息のポイントはかなり高いっすね。あれは王子の剣の動きを知っている人の動きですよ。王子は不安定な動きの剣さばきが上手いんです。それを上手く使った。これは王女様にしっかりと報告しないとっすね』


 ハボックは嬉しそうに言っている。


『ハボックはそんなことまで知っているのか⋯⋯ここにいる学生は全員知っているのか?』

『当たり前っす。王女様が入園する1カ月前に肖像画付きの貴族名簿を渡されました。中には生い立ちだけでなく趣味趣向まで書いてあるんです。それだけじゃないっすよ。俺が執事になってすぐの時、何冊にも渡る貴族大鑑を渡されて覚えさせられました。

 間違うと“ハボック、アウト〜”って腹にグーパンか肩パンチされるんです。10回間違えるとカテーシー1000回させられるんですよ。俺はカテーシーを人生で使うことないと思うんですけどね。

 それを王女様に言ったら、“騎士の誓いと似出ると思わない?”って言うんすよ』


 ハボックも凄いが王女様の本性が暴露されていく⋯⋯俺が聞いたことは王女様へ絶対に言わないようにしよう。俺がカテーシーやったら、多分足がつる⋯⋯


 その後は2人に続けとばかりに皆は迫真の演技で王子にハンカチを取られていった。


 騎馬戦が終わるとそれはもう満足そうな顔の王子が俺とハボックのところへ近づいてきた。


「この騎馬戦とは素晴らしいな。今度食事会でも話そうと思う」

「王子様の動きは見事でしたよ。令嬢からも運動場中熱い視線が飛び交っていました」


 ハボックは笑顔でそう返す。


 学生たちも楽しそうだった。令嬢たちも何かを思ったのか集まってひそひそとしていた。


 俺とハボックは馬車に乗るとハボックは紙に何かを書き始めた。


「今日は本当にありがとう。ハボックを誘って良かった」

「俺も楽しかったっす。いま報告書を書いちゃうんで、ちょっと待っててくださいね」


 まじで? 報告書って5日以内に書くルールじゃないか? そういうルールがあっても俺は次の日くらいには提出するが、今から書いて提出するのか⋯⋯凄いな⋯⋯


 王城に着く頃にはハボックはペンを置いた。


「ふぅ、間に合ったっす」


 まじ、仕事できすぎて惚れるレベルだな。統括部に来てもらいたいくらいだ。


 その後王城に戻ると、王様に会えるというのでハボックが報告をしてくれた。

 ハボックは「王様はご自身のお腹を気にされていますが、気にすることはないと思います。体育祭を観覧されましたら心拍も運動したように一時的に上がりますので、運動と似た効果があるかもしれないですね。それにリラ様もお喜びになられると思います」とつらつら言うので、王様はにこにこしていた。


 それが終わると、俺たちは解放された。


「ハボック、報告も本当に助かった。お礼を是非したいのだが⋯⋯」

「後日でも良いっすか? これから王女様向けの報告書を作らないとなんです。王女様への報告書は20枚以上になりそうっすから」


 俺は思わず大きく肩を落とした。


「アルマさん、明後日の夜は空いてますか?」

「空いてるかな? ⋯⋯いや、むしろ空ける!」


 俺はすっかりハボックに懐いてしまった。


 ――――――


 2日後、俺はハボックを焼肉屋に連れて行った。ハボックは嬉しそうに肉を頬張り始める。


 この前やった体育祭とやらは、大好評で褒美がもらえるらしい。それからさっそく2回目の体育祭の開催希望が来ているようだ。


「肉美味いっす。焼いたそばから食べれるとか天国っすね」


 ハボックが肉を頬張り始めた。


 肉の話もしたいのだが、その話の前にハボックに聞きたいことがあった。


「ハボック、肉を頬張ってくれるのはいいんだが、顔が腫れてるぞ。何があったんだ?」

「はあ、この顔の腫れっすよね⋯⋯実はレイラ嬢から王女様へ俺がお姫様抱っこしたことを話したみたいなんです。そしたら王女様の往復ビンタが止まらなくて⋯⋯いつもの“ハボック、アウト〜”じゃなかったんです。あんなに怒ることないのにひどいっすよね」


 ハボック、なんだか恐妻を持って苦労している旦那のような口ぶりだな⋯⋯


「そうだったのか、大変だったな」

「サンキューっす。あとアルマさんのことも王女様にばっちり伝えといたっすよ」

「⋯⋯ばっちり⋯⋯??」


 何がばっちりなんだ? 王女様にばっちり?


「そしたら王女様が“今度お会いしたいわ”って言ってましたよ」

「えっいや⋯⋯いやいや、また〜ハボックくん⋯⋯」

「気持ちは分かるっすよ。不安なんでしょ? 俺もついていきますから」

「⋯⋯頼む。⋯⋯絶対だぞ⋯⋯」


 ハボックは美味しそうに肉を頬張って、新しい肉を鉄板に並べている。


「美味いっす。そうだ、体育祭は大好評だったみたいっすね」

「そうなんだ、すでに2回目の開催の話が持ち上がっているみたいなんだ」


「騎馬戦がかなり人気みたいっすね」

「そうか⋯⋯出来ればやりたくないな⋯⋯」


「あれっアルマさん聞いてないんですか?」


 俺はちょうど肉を口に入れたところだった。


「騎馬戦の上に令嬢たちが乗りたいみたいっすよ」


 ぶっふぉっ!!


「げほっ⋯⋯げほっぐぇ⋯⋯えっ?」

「きゃははは、アルマさんむせ方おじさんっすね。アルマさん、アウト〜」


 俺は涙目になっていた。

 これはむせたからであって決して、それ以外の事はない⋯⋯いや、令嬢たちが騎馬戦の上に乗ったら修羅場になるんじゃないのか?


「ハボック、2回目の体育祭も一緒にやってくれるよな?」

「良いっすよ」


 ハボック、はじめに会った頃は軽いノリだなと思っていたが、今はそのノリが大好きだ!


 後日、とうとう王女様と対面することになったので、ハボックについてきてもらった。


 俺は不安で縮み上がっていた。それを見たハボックは笑い始める。


「ぶぁははっアルマさん、がっちがちっすよ。王女様はアルマさんを取って食ったりしませんから安心して下さい」

「そうか⋯⋯絶対、隣にいてくれよ」

「大丈夫っすよ。ばっちり伝えてあるんで」

「それが心配なんだ」


 ハボックは王女様の部屋の扉を開けると、ソファの真ん中に座っている優美な姿のリラ王女がいた。


 俺は覚悟を決めて挨拶をした。


「リラ王女様、お会い出来て誠に光栄でございます。王城の統括長をしておりますアルマと申します」


 俺は頭を下げた。


 うっわー雰囲気ありすぎ⋯⋯なんだか魔王感半端ないな⋯⋯


「ふふっ、あなたがアルマね。ハボックからよく聞いているわ。頭を上げて頂戴」


 俺はその言葉を聞くやいなや背筋をピンと伸ばした。


「リラ様、アルマさんが怖がっていますよ」

「ふふっ、鍛えがいがありそうね」


 えっ、絶対に死ぬ魔法にロックオンされた気がする⋯⋯でもここは俺流王城生存方法を使うしかない!


「有り難き幸せにございます!」


 ええい、ままよ。


「ええ、アルマの身のこなしはいいよ思うわ。これからよろしくね」

「はい、よろしくお願いいたします」


 俺はリラ様の手をすぐさま取り、握手をした。


 俺はこの時の判断を褒めまくりたい。


 このあと、この国に歴史上初めての女王様が誕生するのである。


 それから俺はハボックと遅い青春を謳歌した。

お読みいただきありがとうございます!

なんか予想しない結末になってしまいました。

私も王女様に“二角、アウト〜”って言われたいな(笑)


誤字脱字がありましたらご連絡ください!

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