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第1話 推しとの初対面

新作です!

短編版の続きは第4話からです!

よろしくお願いします!

 いよいよ推しとの対面だ。


 この日をどれだけ待ち望んだことか。

 この、推しが義妹になる日を。


「……!」


 家の前に馬車が止まり、すらりと足が伸びてくる。

 降りてきた美しい彼女に、俺は手を差し出した。


「は、はじめまして」

「……」


 だけど、ぷいっと目をそらされる。


「────」


 それから言い放たれたのは、なんとも俺に刺さる一言だった──。







「これって推しの服じゃね?」


 飾られていた服を見つめて、俺はふとつぶやいた。

 だけど、自分で言った言葉に自分で驚く。


「ん? ”オシ”ってなんだ?」


 なぜか知らない単語を口走っていたんだ。

 それと同時に、俺は忘れていたものを思い出すように前世の記憶を取り戻した。


「……!」


 自動車、飛行機といった未知の乗り物。

 高層ビルに、アスファルトが敷き詰められた道路。

 今とは似ても似つかない世界の記憶だ。

 

 そして、何より驚くべきなのが、この世界のこと。

 ここは、前世で大好きだった『ブレイブテール』の世界じゃないか!


「まじかよ……」


 ブレイブテール──通称『ブレテ』は、王道の学園RPGだ。

 男主人公が中心となり、学園で起こる数々のイベントをこなしながら、ヒロインや友達と絆を(つむ)いでハッピーエンドを目指す。

 その多彩なシナリオ、個性的なキャラ達を以て、大人気のゲームだった。


 そんな世界に転生していたなんて。

 前世ではよく創作されていたジャンルだけど、まさか俺がそうなるとは。


「なんだか景色も違って見える気がする」


 周りを見渡せば、剣や魔導書、貴族の飾り物がそこら中に置かれている。


 ここは俺の家であり、一応貴族の屋敷だ。

 (だん)(しゃく)家と地位は高くないが、必要最低限の物は揃っている。

 夢にまで見たブレテの世界観が広がる光景に、俺は感動すら覚えていた。


 そんな中で、肝心な事を思い出してみる。

 ブレテにおいて、俺の役割は──


「……モブだ」


 何の変哲もない、ただのモブ貴族だった。


 ──シアン・フォード。

 今年で十二歳になる、フォード家の(ちゃく)(なん)だ。


 原作では、可もなく不可もなく、ほどほどに生きている普通の貴族である。

 立ち絵すら存在せず、本編には文字としてしか登場しない。

 

 だけど俺は、そんなモブの名前を覚えていた。

 ()には、一つだけ重要な事実があったからだ。


「俺って推しの()じゃないか……!」


 ──レニエ・フォード。

 いずれフォード家の養子となり、シアン()と共に学院に通う少女だ。

 年齢は同じだが、少しの差でレニエが義妹となる。


 そんなレニエの立ち位置は、悪役令嬢(・・・・)だ。

 主人公たちの前に何度も立ちはだかり、ことごとくシナリオの邪魔をしてくる。

 一番長く生存した場合は、彼女がラスボスとなるんだ。


「でも、違うんだよなあ」


 誰もが嫌いになりそうなレニエだけど、俺の“推し”だった。

 その秘密は、クリア後に見られる情報にある。


 レニエは、作中で唯一無二の【闇属性】を持っている。

 この世界で【闇】は、不幸や弱体化(デバフ)の象徴と言われる。

 それが起因してか、彼女の周りでは幼少期から次々に不幸が訪れるんだ。

 家族は謎の死を遂げ、次に拾われた家族も不審死し……と続く。


 そうする内に、彼女はいつしか“忌み子”と呼ばれるようになった。


 “忌み子”に対しては、周囲の目はひどく冷たい。

 (さげす)まれ、陰口を叩かれ、さらに噂に尾ひれがついていく。

 そんな環境で、レニエが真っ直ぐに育つはずがなかった。


 そうして、学院編が始まる頃には、悪役令嬢と評されるほど性格が(ゆが)んでしまっていたんだ。


「誰も手を差し伸べてくれなかったんだよな」


 だったら殺せという話だが、その場合も周りに不幸が訪れる。

 前世で言えば、旧神社を工事しようとすると事故が発生するのと同じだ。


 結果、レニエは数々の家系をたらい回しにされる。

 それで最後に行きつくのがフォード家ってわけだ。

 上からの命令には従うしかない男爵家は、嫌々でも了承するしかない。


 要するに、ゴミ箱扱いだな。


「時期的に、もう前の家族も亡くなっているか……」


 レニエが義妹として家にやってくるのは、今から二年後。

 本編である学園編は十五歳で始まり、ちょうどその一年前だったはずだからな。

 だったら、今すぐにでも探しに行きたいところだけど、原作でもレニエの現在地は明記されていない。

 

「ここは我慢か……」


 原作通りに進めば、レニエは確実にやってくる。

 それに、下手な詮索をして何かある方が最悪の事態だ。


 ならば、今の俺ができることは一つ。


「推しの破滅フラグを叩き折れるぐらい強くなってやる!」


 レニエは、ルートによって様々な破滅フラグが存在する。

 大体はラスボスとなる彼女だが、その前に彼女が死ぬルートも多くある。

 だけど、それは俺が全て叩き折ってやる。


「なんたって、お兄ちゃんだからな」


 そして、推しに伝えてあげたい。


 世界は悪い事ばかりじゃないってことを。

 良い事もたくさんあるんだぞってことを。


 何より、俺は推しが幸せを掴む姿を見たい。

 原作では見ることができなかった、彼女が笑っている姿を。


「よし、やるぞー!」


 こうして、何の変哲もないモブだった俺は、この日から猛特訓を始めた──。







 ──そして、二年後。

 ついにその日はやってきた。


「……っ」


 ごくりと固唾(かたず)を飲んで、俺は走ってくる馬車を見つめている。

 

 そこに乗っているからだ。

 夢にまで見た本物の“推し”が。


「……!」


 近づいてきた馬車が、家の前でピタリと止まる。

 同時に、俺の心臓がドキンと高鳴った。

 この瞬間を緊張するなという方が無理だろう。


 そうして、馬車からすらっと足を伸ばし、レニエは現れた。


「……あっ」


 銀色のロングヘアには、所々紫がかっている部分がある。

 作中でも、彼女だけの特徴的な髪色だ。

 ギロリと鋭い眼光は、まるで人を寄せ付けそうにない。


 お世辞にも綺麗な服装とは言えない。

 でもそこには、確かに夢にまで見た推しの姿があった。


「「「……」」」


 案内の者は嫌そうな顔をしている。

 少しでも近づきたくないといった雰囲気だ。

 隣に立つ両親も同じくである。


 けど、そんなのは関係ない。

 俺は「おい!」という両親の声を振り切って、一人で前に出た。

 そのまま、レニエへすっと手を差し伸ばす。


「は、はじめまして。今日から兄となるシアンだよ」

「……」


 返事はない。

 周囲を凍らせるような冷たい視線は、チラリと僕を覗いて逸らされる。


 でも、これは思っていた通りの反応だ。

 これこそが“推し”レニエなんだよなあ。

 

「レニエって呼んでも、いい?」

「……」


 ただ、計算外があったとすれば二つ(・・)

 一つは、この時点でレニエの毒舌がかなり進行していたこと。


「──キモ」

「……っ!」


 もう一つは、悪役令嬢を推していた俺は、自分でも知らぬ間に目覚めていた(・・・・・・)ことだ。


「よ、よろしくね……フフ」


 推しの()(とう)、染みるぅっ!


安心してください、デレます。

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