まん丸のクッキーを一口かじって「こうしたら三日月だね」と言ったのが、妻との馴れ初めでした
高校生の光太は、休み時間にふと、同じクラスの女子である天音を見た。
天音は丸いクッキーを持ってきており、それを眺めていた。
光太が話しかけると天音は、
「まん丸のクッキーってまるで満月みたいだなって思って」
と返す。
すると光太は天音のクッキーを取り上げ、一口かじり、こう言った。
「こうしたら三日月だね」
光太がかじったクッキーは一部が欠け、三日月のようになっている。
しかし、光太はすぐに後悔した。
人のクッキーを勝手にかじって、何を言ってるんだ俺は。
最近見た恋愛ドラマで、男がキザなことを言うシーンがあったので、それに影響されてついとんでもないことをしてしまった。
気持ち悪いと思われてもおかしくない。
ところが、天音はにっこり笑って、
「じゃあこうしたら新月よね」
と残ったクッキーを食べた。
「そ、そうだね……」
光太と天音の顔がほのかに赤くなる。
これをきっかけに二人は付き合うようになり、デートを重ね、時には喧嘩もしつつ、愛情を深めていった。
大人になり、二人は見事ゴールインを果たす。
やがて、娘が生まれ、星菜と名付けられたその子はすくすく育ち、立派な小学生になった。
「これがお父さんとお母さんの出会いってやつだな」
「ふうん、クッキーのおかげで私は生まれたのか」
おやつのクッキーを食べながら、星菜は父の話を聞いていた。
天音は照れ臭そうにする。
「お父さんったら、そんな昔のことを……恥ずかしいわ」
「いいじゃないか。これも歴史の勉強ってやつだ」
すると、星菜が言った。
「あ、そうだ! このクッキーも丸いし、お父さんとお母さんでもう一回やってよ!」
この提案に夫婦はぎょっとする。
「いや、さすがにそれは恥ずかしいよ。なあ、お母さん」
「そうよねえ。あんなの一回だけでいいわ」
断られてしまい、星菜が膨れる。
「ふうん、娘の頼みを聞いてくれないんだね……。二人は私のこと愛してくれてないんだね……」
あからさまな泣き真似まで始めてしまい、光太が折れる。
「分かったよ、やればいいんだろ。さ、お母さん」
天音がクッキーを手に取る。
「まん丸のクッキーってまるで満月みたいね」
「こうしたら三日月だね」
光太がそのクッキーをかじる。
「じゃあこうしたら新月ね」
天音が光太からクッキーを受け取って食べる。
当時の記憶がよみがえる。
このやり取りを見ていた星菜は、ニヤニヤと笑った。
「あーあ、二人とも顔がまっかっか。お月様どころかお日様みたい」
完
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