5悪 運命なんて紡ぎたくない
「あっ!アーク様!騎士様の髪を三つ編みにしてはいけません!」
「えっ⁉私の髪三つ編みにされてるんですか⁉」
腹いせに俺は騎士の髪を三つ編みにしてやった。短かったから少ししかできなかったが、それでも十分な腹いせになった。
メイドがその三つ編みを解くのを手伝って、更に親密度が増していそうだったとかはなかった。決してそんなことでムカついてはいない!
「ありがとうございます。今度お礼にお茶でも」
「ふふっ。是非!」
決してムカついてなどいない!……そして数日後に、
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・恋のきっかけを作る
報酬:称号『運命の紡ぎ人』
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なんていう年齢制限ミッションをクリアなんてしていない!
もちろん称号の効果で恋心が分かるようになって、数人を恋人にさせたりなんてしてないぞ。してないったらしてない!
……と、そんなやってないことを挟みつつも、順調に俺はミッションを薦めていく。途中で、
「お父さんだぞぉ~。アークは可愛いなぁ~」
「あぅ~」
暑苦しいおっさんの頭を撫でたりもした。……おい!そこ!前世の俺よりもスネールの方が若いとか言うんじゃない!俺は前世でもおっさんじゃなかったんだ!!
「ア、アークに頭を撫でられた⁉これは、お父さんにお仕事頑張ってと言うことなのだな!見ていろアーク!俺はやるぞ!うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!」
こいつの方がよっぽどおっさんだ。まだ20代くらいだけど!!
なんてこともありつつ。結果数週間で、
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達成済み
・50人の頭を撫でる
報酬:スキル『天使の愛撫1』
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ミッション達成だ。達成後にミッションが増えたりすることは残念ながら無かった。更に強化したかったんだがな。無い物は諦めるしかないだろう。
それよりも、有るものを活用した方が良い。早速クララのところに連れられていったときに、
「あぅ~」
「ん~?アークちゃん、お母さんの髪が気になるのねぇ?触らせてあげるわ。…………あら?何かしら?体が軽くなった気がするわ」
母親であるクララは、目を丸くして手を開いて閉じて。そして、少し体を起き上がらせた。本当に体が軽く感じるんだろうな。ただ、メイドが慌てるから立とうとするのはやめて欲しい。体は軽くなっても筋肉は落ちてるんだから、体は支えられないぞ。
そして、そんな元気そうな母親と違って、俺は少し疲れてる。天使の愛撫は所謂魔力というものを使うスキルなのだが、赤子の俺には使う量が多すぎたようだ。俺は元気なクララの声が遠ざかるように感じながら、深いところへと落ちていく。
少しして、
「……あぅ~」
「あっ!起きたのねアークちゃん。おはよう!」
起きると、元気そうな母親の顔が映り込んできた。朝っぱらから元気だなと一瞬思うが、よく考えてみると朝っぱらではないな。天使の愛撫を使用した後眠くなったんだった。
「あぅ」
俺は挨拶を返しておく。それから、自分の体を確認。魔力を使いすぎて眠ってしまったようだが、特に不調は感じない。せいぜい、
「あぅ~」
「あっ。お腹が空いたのね?ちょっと待ってねぇ」
強い空腹感を憶えたくらいだ。クララに必要なものを飲ませてもらう。……うん。満足。
おっとそうだ。こういうときはアレも使おう。『母乳鑑定』!
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クララの母乳
・混合物:なし
・新鮮度:優
・味:並
・母体の状態:体力低下
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俺の前に現れるウインドウ。おそらく他の誰も見えていないこのウインドウが、母乳鑑定の効果である。その母乳の状態が分かるようだな。取得時に試しで使ってみたときには混合物と新鮮度しか表示されていなかったが、味と母体の状態も分かるようになっていた。
ここで大事なのは、母体の状態だな。表示されているのは体力低下のみ。きっと俺が天使の愛撫を使用する前には病気への感染なども書かれていたはずだ。……まあ、実際に見たわけでは分からんが。
だが、今見た中に病気への感染がなかっただけでも大きい。そこまで危険度は高くないということだと思うからな。
「あら。今日はアークちゃんいっぱい飲むわね」
「あ、あぅ~」
おっと。考え事に夢中で飲み過ぎた。この辺で満足しておいてやろう!
満足した俺はメイドに連れられ、クララの部屋を去った。クララが今までに見たことないくらいに元気に腕を振っていたのが印象的だったな。
それからの話だが、俺が帰った後の数日クララは強い熱で寝込んだらしい。心配したスネールは、仕事を休んでつきっきりの看病をしたとか。……おい公爵。妻が大事なのは良いが仕事も少しはしろよ。
と、それは良いとしてクララの状態だな。熱は下がって現在は落ち着いているらしい。逆に、今は異常に元気だ。俺がこの前見に行ったときには、大量のおかゆの器が置かれていた。食欲が湧いたそうだ。……太るとか言ってはいけない。
「あぅあぅ~」
「ご機嫌ですね。アーク様」
そんなこともあって、俺は上機嫌。このまま行けば、俺の計画通りクララは救えるだろうからな。なんて思っていた最中、
「アーク様。ご飯をお持ちしました」