39悪 逃した魚(暗殺者)は大きい
「眠れないわけじゃないぞ。……ただ、暗殺者が来ないかとちょっとワクワクしてるだけだ」
「そんなことでワクワクしないでほしいのニャ」
ネトが呆れたような目を向けてくる。部下達も同じような目をしていた。暗殺者の女を侍らすなんて悪にはよくあることだと思うんだがな。期待して何が悪いというのだ。ハニトラも必要だから、きっと美女美少女が揃っていると思うぞ。
「貴族ですから裏の方面に手を回したいのも分かります。が、だからといって襲ってくる暗殺者を雇おうとしないで下さいよ」
「そうなのニャ。子飼いの暗殺者が欲しいのは分かるけど、もうちょっと安全なところで探して欲しいのニャ」
何を勘違いしたのか、ネトや部下はそんなことを言ってくる。べつに子飼いの暗殺者が欲しいわけではなく、美少女が欲しいだけなんだが。
「分かってないな。俺が気になっているのは暗殺者ではなく、その中身だ」
俺はそう言って笑い、肩をすくめる。それを聞いたネトや部下たちはよく分からないという顔をしていた。
………ある1人を除いては。
※※※
(バ、バレてる⁉)
部屋にいるメイドの1人が驚愕していた。先程のアークの言葉である、
「分かってないな。俺が気になっているのは暗殺者ではなく、その中身だ」
で、メイドは全てを悟った(と勘違いしている)のである。
彼女が実は暗殺者でありアークを殺す隙をうかがっていたことが、アークに気付かれていたということを。
(……気になるのは中身、つまり私が暗殺者というという皮を被ったメイドであることが気になるんだと思う。いや、もしかしたらどこの家の依頼で来たものかまで知りたいと考えているのかもしれない。そして、私が実際はどこの家に仕えるべき存在なのか、そこまで探るつもりかも……でも、あの暗殺者からの転職者が多いというワール家のメイドにすらバレてこなかったのよ!なぜバレたというの!!)
彼女はアークの思考を読む。それはもう読んで読んで深読みして、勝手にどツボにはまっていく。
(これがアーク・ワール。一部では天才と呼ばれる公爵家の長男……私では無理ね。手を引きましょう)
そして、メイドに紛れていた美少女暗殺者は、アークの知らないところで消えてしまった。折角美少女だったのに。
「……ん?」
「どうかしましたか?アーク様」
「いや、最近メイドで見なくなったやつがいるなと思っただけだ。勘違いかもしれないし気にするな」
「そうですか。……まあ、公爵家ですからメイドの数も多いですし、見かけない方も出てくるものでしょう」
「そうだな」
※※※
結局数日間夜にしばらく起きていたのだが、暗殺者は来なかった。現在は普通に寝ている。睡眠をしっかりすると次の日を頑張れるというのを改めて思い知ったばかりだ。
だが、それはそれとして暗殺者が来ないのは悲しい。折角美少女暗殺者を期待していたというのに。ついでに捕まえたときのくっころ展開も期待していたというのに。俺の期待を返して欲しい。
なんて思っていたら、ドーエムに、
「お兄様。機嫌が悪そうです」
などと言われてしまった。俺は平然とした表情で、
「む?そうか?睡眠時間を延ばしたから機嫌はよくなるはずなのだが」
とは言いつつも、暗殺者をゲットできないことで機嫌が悪くなっているとは思う。ドーエムには見透かされてしまったのかもしれない。
そんなことを考える俺の顔を見上げながら、
「あ、あのぉ~。機嫌が悪いのならば是非それを私にぶつけて頂けないかと……」
期待した瞳をするドーエム。
なるほど。そういうことだったか。そういうのを期待しているからこそ、俺の機嫌が見分けられるようになったわけだな。順調に変態として成長してしまっている。
少し将来が心配になりつつも、俺はドエームを俺の部屋に連れ込み、
パシイィィィンッ!
「あふううぅぅぅ!!!!!!」
俺の心を落ち着かせる作業を行なった。こいつの相手をしてやるときには心を無にするのが習慣になってるからな。
不機嫌なのを落ち着かせるときにもこいつの相手をしてやるのは良いかも知れない。新たな発見だ。
「「……ふぅ~」」
数分後、俺たちは揃ってスッキリした表情で部屋を出る。さっきまで叩かれて液体を色んな場所から出していたやつとは思えないくらい爽やかな表情だ。
「それではお兄様。またお願いします」
「ふん。気が向いたらな」
次をねだってドーエムは俺から離れていった。実に欲望な忠実であるとは思うが、お陰で俺も気持ちを切り替えられた。叩くのは嫌いだが、無心になる機会が作れて気分を切り替えるにはよかったんだ。また頑張っていこうと思う。
と言うことでまずは、
「そろそろこの迷惑な手紙を送ってくるやつを特定して処分したいところではあるな」




