34悪 嫌がらせを悪が受ける
「ん。これもか」
現在俺は手紙を読んでいる最中。仕事関係とか色々あるのだが、その中に最近気になるものが増えてきていて、
「アーク様。また迷惑な手紙が来たんですか?」
部下が問いかけてくる。俺は頷いて、
「ああ。恨み言が大量に書かれている。こういうのを使って黒魔術というのは発動するんだろうな」
手紙には『消えろ』だの『ゴミカス』だの色々と汚い言葉が書かれている。ただ、そういった言葉の内容は小学生レベルだ。ほとんど同じ単語ばかりで見ていてつまらないな。こういうのを書くならばもう少し捻りが欲しいんだが。
「検査に引っかからないんですか?」
「差出人は不明だし、引っかかりはするらしい。ただどうやら随分と高い紙を使っているようで、もし書いたのがどこかの貴族で、そいつからの密書だったらどうしようとか考えたとか」
「あぁ~。そういう可能性が無いわけでもないですから、全部捨てろとも言えませんよねぇ」
こういった手紙も、迷惑な物の防止のために一応チェックをする者たちがいる。が、この手紙は無駄に高い紙を使っていて捨てるに捨てられないのだそうだ。俺も流石にそれを責めることはできない。
そういうことで俺の所にこういった手紙が届いているのだが、
「筆跡を見てみた限り、5人くらい書いてるやつがいそうなんだよな」
「さらっと筆跡を見てみたとか言うのが凄いですね。私には全部違うように見えるんですけど」
部下は苦笑いしながらそう言ってくる。ぱっと見た感じで言えば10人以上に見えるからな。
だが、そこは俺のミッションで得たスキルが活躍する。『筆跡鑑定』なんて言うスキルがあって、それを使うと同じ人間が書いたものかどうか見分けられるのだ。もう少しレベルが高くなると誰が書いたものなのかまで分かるようになるらしいんだがな。残念ながらこのスキルはそこまでレベルが高くない。次があるのかもデイリーミッション次第だからなぁ。
「暇なやつもいるものだ」
「そうですねぇ。そんなに暇ならこちらの仕事を手伝って頂きたいくらいですよ。ハハハッ」
冗談で言ってるんだろうが、目と声色がそこそこ本気である。相当仕事に疲れてるんだろうな。一応全員定時で帰れるようにはなってるんだが。
残業なしの仕事にもっと喜んでほしい。
「手伝わせたところで作業効率は悪くなるだろ。こんなバカそうな奴らに手伝わせたってムダだムダ」
「それもそうなんですけどねぇ。……やっぱり部署としての見栄って欲しいんですよ。人が多い部署で、凄い人気があって目茶苦茶良い部署ですみたいに見せたいと言いますか」
「たわけが。人が多い部署が良い部署とは限らないだろうが。というか、この部署はかなり良い給料が出てるはずだろ?」
というか、俺が出してるからその辺りは分かっているぞ。この俺が運営してるところは利益が溢れ出ているからな。給料だって良い金額が出せるぞ。
あと、少し話は変わるが随分と俺も部下と打ち解けたよな。前は俺に怯えきっていてこんな冗談のようなことは言ってこなかったんだが。……これは良い傾向なのだろうか?人間関係という面で見れば良いのかも知れないが、悪という面で考えると良くない気もする。ただ、この場合悪いのは俺の態度だけでは無いと思うんだよな。やはり1番の原因は、
「ニャハハ!仕事の手紙よりも迷惑な手紙の方が多いのニャ!」
迷惑な手紙を重ね、その横に仕事の手紙を重ねて高さを比べている誰かさんである。一応俺の護衛という立場でいるのだが、遊んでいるようである。ぶん殴りたい。
が、ここは心に余裕を持って我慢だ。悪が暴力を振るうならば、その力は絶大で無ければならない。今の俺が出すパンチでは大して痛くもないだろうし。恐怖も植え付けられないだろう。弱い暴力を使っても威厳が低下してなめられるだけ。こいつを殴るのは強大な力を得てからだ。……まあ、そんな力が手に入るかは不明だが。
「犯人の目星は付いているのですか?」
俺がネトを半目で睨んでいると、部下が手紙について尋ねてくる。俺はネトから視線を外して書類仕事を再開しながら、
「全く付いていないわけではない。が、まだハッキリとしたことは言えないな」
「そうですか。どういう風に予想されてるんですか?」
「1番可能性が高いのは、宰相のせがれやその周りの人間だろう。あいつは俺が原因で宰相の未来を失ったからな。それに今まであいつにすり寄っていた者も、積み上げてきた利益を失ってしまうわけだし」
この前パーティーで恥をかかせたエレクス。そしてその関係者。どちらかが関わっている可能性が高い。だが、だからといってその中の誰かまでの特定は難しいがな。
唯一分かるとすれば、1人は全く違うような筆跡に見せる技術を持っているやつだ。ここまで高い技術を持っているということは優秀であるということだろうし、これがエレクスではないかと思う。あいつも優秀ではあるからな。これくらいできてもおかしくはない。




