32悪 君いらないから
「あいつは信用できない。だからお前が望むなら、俺はお前が宰相になっても良いと思っている。……どうだ?」
俺はまっすぐにシンユーの瞳を見つめ、問いかける。シンユーの瞳は何度か揺れそうになったが、必死に俺の瞳を捉え続けた。
ここでの決断は、今後に大きな変化をもたらす。かなりの覚悟が必要だろう。だがそれでも、
「私は…………私は、宰相になります!」
「……そうか。よく言った。ならば、俺もそれが実現するよう最大限の努力をしよう」
「宜しくお願いします」
シンユーが頭を下げる。
その後、俺からそのことをスネールに説明。最初こそ渋った様子を見せたが、イヤミーとエレクスの関わりを告げるとあっさり許可された。流石に皇帝に押している者をいじめたやつを宰相にはさせられないよな。
そして、イヤミーの方にはシンユーから伝えてもらっている。将来のことを話すために俺の家に行ったという言い訳にするつもりのようだ。シンユーもイヤミーの機嫌が戻るように色々考えていたわけだな。天才の名は伊達ではない。
「しかし、王族の宰相か」
「今までにも例がないから、どう貴族達が意見するかは不明だな」
「ああ。それに将来、継承戦や派閥争いへどう関わってくるのかも気になるところだ」
今だけでなく、将来の継承戦のことまでスネールは考える。公爵はこういう所まで気を配る必要があるんだな。今後も家を発展させていくために。
そしてそういう踏まえた根回しが終わった後日。イヤミー派閥に、正式にそのことが発表された。
「ふむ。天才と呼ばれるシンユー様なら上手くやりそうですな」
「ええ。私たちと宰相のやりとりがスムーズに行くようになるのは素晴らしいですね」
「実に良いお考えかと」
基本的には肯定的に受け止められた。口では色々言っているが、ほとんどの貴族は元シンユー派への配慮だと考えているものと思われる。元シンユー派閥のモノたちにはこの派閥へ入るに当たって色々搾り取ったからな。それの影響で関係が悪化しすぎないようシンユーが使われたと捉えられたようだ。
が、それを面白くなく感じる者だっている。それが、
「どういうことでしょうか?次期宰相に私の息子を使わないという風に聞こえたのですが」
「おや。これはこれは宰相閣下。ご機嫌よう」
現宰相様だ。息子を使わないと言われれば、文句も言いたくもなるだろう。一緒に連れてきた息子のエレクスも不満そうな顔をしているな。他の派閥の貴族たちもそれに加勢しようと機会をうかがっている様子。
だが、そうであるからこそ、俺の攻撃は効くだろう。
「では理由を説明しよう」
「おや。アーク殿。あなたが説明されるのですか」
俺が前に出る。3歳児が説明に立つとは思っていなかったのか。冷ややかな目で宰相は俺たちを見てきたな。
だが、すぐにその表情を変えることとなるだろう。
「まず、これには俺と婚約者達との出会いが関係している」
「ほぅ?イヤミー様とシンユー様が関係している、と」
「ああ。その通りだ。ではまずは、俺とイヤミーとの出会いを説明しよう」
俺はそう言って、エレクスに何度か視線を送りながら説明を始める。エレクスはなんとなく察したものがあるのか、少し後ずさりそうになってるな。背中を宰相の手で押さえられてそうもいかない状況のようだが。
「イヤミーを初めて見たとき、彼女は中庭で泣いていた。そこへ声をかけてみて事情を聞いたのだが、どうやら誰かに暴言を吐かれ暴力を受けたのだという。実にそれは許せないよな?」
「……ええ。そうですね。それで、その者の名前は?」
「なんと、エレクスというのだそうだぞ。……俺が知る限り、エレクスという名の者は1人しかいなくてな」
俺は今度は、がっつりとエレクスへ視線を送る。エレクスはあからさまに狼狽えた様子で引き下がろうとするが、相も変わらず宰相がその背中を押さえているため逃れることもできない。実に滑稽だな。
俺はその様子を見て笑みを深めつつ、
「そして次にシンユーだ。シンユーも同じく中庭で一人寂しく座っていた。あのときは、姉妹とは似るものなのだと感じたな。そして、彼女にその事情を聞くと宰相の息子であるエレクスに暴言を吐かれ、ドレスを汚されたと言うのだよ。俺としてもそれだけなら宰相の息子とあろう者がそんなことをするはずがないと否定したいところだったのだが……いかんせんイヤミーの件があって、否定するに否定しきれなかったのだ」
「なるほど。……エレクス」
俺がシンユーのことまで語ってやると、宰相は冷たい目をエレクスへと向けた。エレクスは俺や宰相から逃れたいのか足に力を入れているが、宰相が強く掴んでいるためそれを実現させることはできない。宰相はそんなエレクスへ冷たい視線を向け、
「エレクス。説明しなさい」
「ひぃ!……お、俺はそんなことしてない!!」




