31悪 宰相やってみない?
「起きない方が、良かったか?」
俺は笑みを浮かべながら聞いてみる。少し意地の悪い質問だな。ずっと見ていたかったと言っていたので、まるで起きない方が良かったみたいに捉えられかねない。
俺がそう解釈してしまったかのように質問してみたのだが、
「いえ。起きたアーク様も、素敵ですから」
顔を真っ赤にしながらそう言っているシンユー。シンユーとしては余裕があるように見えていると思っているんだろうが、ドキドキしているのがバレバレだ。
だからこそ俺は揶揄う意味も込めて、
「なら、もう少し見つめ合っているか」
シンユーの背中に回していた手を滑らせ、シンユーの顔に触れる。シンユーは恥ずかしそうにしながらも俺の手の上から自身の手をかぶせ、俺の手へ頬擦りを。
そうしながら暫く見つめ合っていると、お互い少しずつ顔が近づいて、
「……んっ」
軽い口づけを交わす。実はシンユーとは初キスだったりするな。ここで済ませることになるとは。
「もう少しロマンチックな場所と場面ですべきだったか?」
「どうでしょうか?私たちがロマンチックな場所に行けることも少ないですし、こういうときに済ませていた方が後々楽な気がするんですけど。雰囲気は悪くなかったですし」
「そうか。まあ、シンユーが納得してるならそれで良い」
俺はそう言って、もう1度口付けを。幼女が相手だから,決して長いキスはしないぞ。そういうのは成長して、大人になってからだ。あと、俺が恋愛的に好きになってから、だな。
今はまだ将来可愛くなる子に種をまいている程度の感覚でしかないし。
「今日の予定はどうするんだ?こっちで過ごすのか?」
「できればそうしたいのですが、あまり長く一緒にいるとお姉様がすねますからね。今日は朝ご飯を一緒に食べてから帰ります」
「そうか」
俺の頭には、「シンユーズルいぃ!私もアークと一緒に寝たかったぁ!」と騒ぐ誰かさんの姿が思い浮かんだ。シンユーの思うように、早く帰った方が良いだろうな。流石に長く過ごしすぎると機嫌を直すのが大変だろう。
それから今日の予定などを一通り話し終わったので、少し話題を変えることに。
「……シンユーは、将来どうなりたい?」
「私の将来ですか?」
将来の話に。俺は将来公爵へ、そしてイヤミーは皇帝になるつもりで努力している。俺の場合は公爵だけでなく皇配にもなるわけだが、今はそこまで深く気にする必要は無いだろう。
で、そんな風に俺たちの将来はある程度決まっているわけだが、シンユーはあまりハッキリとはしていない。
「俺の第2夫人として生きていくのはそれで良いんだが、それだけでは成功とは言い難いだろ?」
「それはそうですね。一般的に見れば成功なんでしょうが」
公爵の第2夫人は、成功も良いところだろう。一般的に見れば、な。
だが、シンユーはそうは思わない。もちろん、俺もそれだけで収まるほどシンユーの器は小さくないと考えている。だからこそ、シンユーに将来への質問をしたのだ。
「将来どうなりたいのかを決めないと、これからどうしていくのかも分からないだろ?」
「そうですね。……私の将来。できればお姉様の配下として働いたりしていきたいところではあるのですが」
「ふむ。イヤミーの配下として、か」
シンユーは現在、イヤミーの派閥の一員である。つまり、イヤミーの部下でもあるわけだ。そこでもっと活躍できるようにしたいということだろう。
ならば、
「シンユー。お前、宰相になる気は無いか?」
「……へ?宰相、ですか?」
俺は提案する。宰相という人生を。
宰相は、皇帝の補佐のような役割だ。つまり、上手くイヤミーを皇帝にできた場合はイヤミーの補佐となるわけである。
貴族達の会議の司会を行なったり、各所から上がってくる報告をまとめたり。様々な重要な仕事を任される。そんな地位には、できれば優秀な人材を置きたい。
だからこそのシンユーだ。天才と言われる彼女なら、きっと宰相だってやれる。
「で、でも、次の宰相って今の宰相の息子さんなのでは?」
シンユーはそんな反論をしてくる。
確かに、宰相は大概その血筋の者が就くことが多い。今も確か5代くらいその家系で続いているはずだ。
が、
「お前だって宰相の息子は知っているだろう?あいつを次期宰相に据えるつもりか?」
「っ!そ、それは……」
現在の宰相の息子。名前はエレクス。
名前だけは今までも何度か出てきたのだが、あまり俺が今は良い印象を持っていないやつだ。イヤミーもシンユーも、それぞれエレクスからいじめられた経験を持つ。そんなやつを宰相に置きたいかと言われれば、当然答えは否だろう。
俺が知る限り、ゲームではそんなことはしないやつだったんだけどな。まだ教育が行き届いていないのだろう。……逆に、攻めて次期宰相の地位を揺らがせられるのは今しかないかもしれない。ここ以外でエレクスが失態を犯す可能性は非常に低いからな。それこそ、女主人公がエレクスのルートに入りでもしない限りは不可能だ。
「あいつは信用できない。だからお前が望むなら、俺はお前が宰相になっても良いと思っている。……どうだ?」




