30悪 頭で分かっていても
「では、帰るか」
「そうするのが良いニャ!私たちは、ボーナスで飲むニャ!」
当初の目的だった女盗賊はゲットできなかったが、俺たちは帰っていく。まだまだ機会はあるし、女盗賊は気長に待てば良いだろう。何度か繰り返せばいつかは会えるはずだ。
今まで捕らえてきた中に女盗賊がいなかったか調べても良いかもな。そいつを俺が囲うことはないにしても、男女比率を調べておくのは良いだろう。なんて思いながら、俺は関連する書類を見てみて、
「……マジか」
膝をついた。
今までは女盗賊が大量にいたから落ち込んでるのかって?……その逆だ。今までもほとんど女盗賊は存在していなかったのだ。比率はほぼほぼ99:1くらいである。勿論、99が男だ。この1の女盗賊の中、高齢者を除外してヤバいやつを除外したら……どれほどの確率になるだろうか。数十年単位で探さないと見つけられないかもしれない。
「はぁ~。……なんと言うことだ」
机に突っ伏する俺。
資料で夢の実現が難しいと知らされることになろうとは思わなかった。年上の婚約者は他で探す必要がありそうだな。
……え?年上と言えばお前にはメイドがいるじゃないかって?
確かにメイド達の中では俺でそういう欲求を発散しているやつもいるが、アレは俺への恋愛感情はないだろう。というかなぜか昔俺が色々働いた所為で、メイド達のほとんどに彼氏ができてしまったんだ。結婚している者も多い。
あのときの俺の行動には今でも後悔している。
「はぁ~」
また俺はため息をついた。次の瞬間、俺の頭にふわりと柔らかい感触が。
あまり感じたことのない感触だ。
「母様?」
俺はクララかと思い声をかける。俺の頭に手を置くなんて、クララくらいだからな。メイド達も流石にそこまではしない。
だが、その声は、
「ふふっ。残念ながらハズレです。アーク様の、愛しい愛しい婚約者ですよ」
「……は?シンユー⁉」
俺は勢いよく顔を上げる。俺の目の前には、確かに婚約者の1人であるシンユーが。
俺は急いで記憶を探るが、今日ここに来る予定は頭にない。
「どうしてここに?」
「婚約者様のお家に行ってみたかったから、ですね。……ダメ、でしたか?」
上目遣いで尋ねてくるシンユー。幼女のくせに、この辺をもう使えるのか。イヤミーにも油断できないが、こちらも侮りがたいな!
「ダメとは言わないが、1人で来るのは危ないだろう?ちゃんと護衛をつけろ」
「ふふっ。大丈夫ですよ。私はお姉様ほど攫う価値もないですから」
シンユーはそう言って笑う。確かにイヤミーと比べると人質としての価値は低いかもしれない。だが、それはイヤミーと比べた場合の話だ。
「皇女ではあるから攫う価値がないわけではないだろうが。国に金を支払うよう要求するやつがいるかもしれないだろう。……はぁ。まあいい。お前は言えば分かるだろうし、次からは気をつけろよ?」
「はい!」
シンユーは大きく頷く。だが、あまり信用できないな。
こいつ頭は良いのだが、それを無視して行動してしまうこともあるんだよな。ゲームではそんなイベントは1度しかなかったが、今のシンユーはそういうことが多い。特に、俺へ会うときとか俺へアピールするときとかは。
ただ、行動力はあっても恥ずかしいのは恥ずかしいようだが。今も俺が抱き寄せるとすぐに顔を赤くしてるし。
「今日は遅いし、一緒に話をしながら寝るか?」
「はい。そうします」
俺たちはベットに入り、2人で眠気に襲われるまで話した。シンユーは目を開けたまま俺の話を聞いていたのだが、
「……ということがあってだな。それで……ん?シンユー?」
「…………すぅ~」
「寝たか」
いつの間にか反応がなくなる。目を開けたまま眠ってしまったようだ。ドライアイになりそうだな。俺はそのまぶたに触れ、そっと閉じさせてやる。こんな若いときからドライアイに悩むなんて嫌だろう?
シンユーは、すぅすぅと静かに寝息を立てている。それを俺は抱き寄せ、
「おやすみ。シンユー」
額に唇を触れさせる。普段だったら真っ赤になって慌てるのだろうが、本当に寝ているようで反応は無い。
シンユーの寝顔を堪能した俺は、その後シンユーに抱きついたまま眠りに落ちるのだった。この腕の中の幼女が、俺に良い夢を見させてくれそうだ……。
「……ん~。ふぁ~」
「…………」
翌朝。俺が目を覚ますと、
「おはようございます」
「お、おう。……おはよう」
シンユーに挨拶された。だが、気になったのはそこではない。今までのことだ。俺が目を覚ますと、シンユーは俺の顔をじっと見つめていたのだ。おそらく俺の寝顔が見られていたのではないかと思うな。どれほど前にシンユーが起きたのかは分からないが、もしかしたら長い間見られていた可能性もあるな。
「すまん。出られなかったか?」
俺が抱きついて寝ていた所為で出られなかったのではないかと推測する。俺を起こしてしまうのではないかと心配してな。
が、
「いえ。出ようと思えば出られましたよ。ただ、アーク様の寝顔が新鮮で、ずっと見ていたかっただけです」
「そうか。……起きない方が、良かったか?」




