28悪 趣味じゃない
「で?シンユー?お話はそれだけじゃないでしょ?」
「え?あ、あの……」
「それだけじゃ、ないでしょ?」
「……はい」
イヤミーの圧に押され、シンユーは頷いた。イヤミーには見抜かれていたようだな。シンユーがまだ隠そうかと思っていたことを。
俺は勿論隠させてやる気は無かったから、イヤミーにナイスだと思っているぞ!
「……わ、私、アーク様とけ、けけけけけけ。結婚します!」
「そっか。……一緒に頑張ろうね」
「は、はい!」
イヤミーはシンユーの手を握り、ともに歩もうと誘う。それにシンユーは大きく頷いた。結婚を宣言したシンユーの顔が赤いところが、初心な印象を大きく受けさせるな。可愛い。そして、姉妹が手を取り合ってるのが尊い。
ただ贅沢を言えば、もう少し年齢が上がってから見たかったな。将来お願いすれば姉妹仲良く俺に押し倒されてくれるだろうか?
「アーク?どうしたの?」
「どうされたんですか?そんなに私たちを見つめて」
俺が見つめていたのに気付いて、2人が不思議そうに尋ねてきた。
「ああ。何でも無い。……結婚はかなり先になるし、シンユーと正式に婚約するのもまた後になるが構わないか?」
俺は誤魔化し、話題を変える。イヤミーとは正式な婚約者だが、シンユーとはまだ口約束の段階だからな。どこかの段階で正式に婚約しなければ。
「そうですね。正式に婚約するのは時間が掛かりますし、我慢します。……でも、早くして貰えると、嬉しいと言いますか」
シンユーは俺の言葉に仕方が無いと頷くが、それでも顔を赤くしながらおねだりを。……くっ!幼女のくせに可愛い!将来までこの可愛さを保って欲しいところだ。
「父様。そういうことだから、準備はよろしく」
「え⁉……お、おう。分かった」
急に話題を振られてスネールが驚いていたが、すぐに落ち着いた表情に取り繕って頷いた。こっちも言質はとったぞ。
で、そんな様子を見て動く者たちがいる。それが、
「シ、シンユー様がそちらに行くというなら私も」
「ええ。元ではありますが主ですし」
「私たちにも義理という者がありますから……」
元シンユー派閥の貴族達だ。彼らは派閥が解散してから他の派閥に入れてもらおうとすり寄ったりしていた。だが、その中にはまだどこの派閥にも所属できていない者が多くいた。
その理由は、貴族としての面子だな。主を見限って他の派閥に就くとなると、かなり見下されることになるわけだ。それが嫌でどこにも頭を下げられなかった貴族が多い。
が、ここで面子を保つ理由ができた。元の主であるシンユーが、イヤミーに頭を下げたからな。まだシンユーへ忠義があるという風にすれば面子を保ちつつイヤミー派閥に頭を下げることができる。
たとえ本心がどうであろうと。たとえ、シンユーに思い入れなど一切なかろうと。
「なるほど。これも狙いでしたか。最大派閥を更に大きくするんですね。このままお兄様達の派閥が手を取り合っても敵わないようになるほど力をつけるつもりですか?」
「はて。何のことか分からんな」
シンユーの質問に、俺は肩をすくめる。
シンユーの派閥にいた者たちの多くをこちらにつければ、ただでさえ最大派閥で大きかった派閥を更に絶対的なものにできる。もう少し大きくなれば、現在イヤミーの敵となり得る可能性のある第1皇子と第2皇子の派閥が手を取り合ったとしても敵わなくなるだろう。
だが、そんなことを俺は考えたわけではないという風に俺は見せるわけだ。
なぜかって?それは、シンユーに、
「俺はただ、お前が欲しかっただけだぞ」
「なぁ⁉ななな、何を言ってるんでしゅかぁ⁉」
慌てたシンユーが甘噛みする。顔を赤くして慌てるシンユーは新鮮で、かわいらしい。ゲームでもここまでの表情は見たことは無かった。
「あぁ~。シンユーだけズルい!私も!」
「ハハハッ。勿論イヤミーも欲しいぞ」
イヤミーがねだっているので、こちらにも言っておく。これはこれで可愛いな。甘えるタイプの悪役令嬢。……良い。
「もぉ~。アークったら欲張りなんだからぁ」
「そ、そそそ、そうですね。欲張りですよ」
すねたような口調ではあるが、イヤミーは満面の笑顔である。シンユーの方はそこまで喜びが全面に出ているわけではないが、恥ずかしそうにしながらも喜んでいるのが分かる。
主人公に転生してたら、こういう悪役と親友キャラの姉妹セットは見ることができなかったわけだよな。……俺、悪で良かった。
「俺が欲張りなのはいつものことだが……お前達が魅力的なのがいけないんだと思うぞ」
「もぉ~。アークったら~」
「み、魅力的……ひゃ、ひゃう~」
イヤミーは嬉しそうにしているが、シンユーの方はもう限界が近そうだな。顔が真っ赤になって、どこか別の方向を向いているぞ。魂が抜けかけているな。
と、まあこんなこともありつつ、俺は2人目の婚約者をゲットしたのだった。
数日後、
「これで私たちも正式な婚約者というわけですね」
「うむ。そうだな」
シンユーとの正式な婚約も決まった。一部では俺のことを女好きという話がもう出てきているようだ。何人か同年代の者が迫ってきたりもしたな。
……ただ、言わせて欲しい。
「俺、幼女趣味じゃないんだよ」




