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26悪 負け犬の顔を拝む

「……はぁ~」


幼女が1人。花壇の縁に腰掛けて膝を丸め、ため息をつく。その様子からは疲労と、そして悲壮感が感じられた。5歳程度だと予想される彼女の瞳に光はなく、ただただ虚しく景色を映している。

そんな彼女の頭の中では、


「期待外れですね」

「申し訳ありませんが、あなたをこれ以上支持することは不可能です」

「あまりにも悲惨すぎますね。あなた、私たちの今までの苦労の責任取れるんですか?」


貴族のモノたちからの言葉が反芻されていた。


「……はぁ~」


幼女はもう1度ため息を吐く。彼女に色々言ってきた貴族達に言い返したいことは山ほどあるが、今はその気力が湧かない。いや、今だけでなく、かなり遠い将来まで湧かない可能性の方が高いと思われた。


「……私は期待して欲しいなんて、一言も言ってないんですけどね」


そう呟く彼女の名前は、シンユー・エーライ。エーライ帝国の第5皇女にして、数週間前までは大派閥だった第5皇女派閥のトップでもあった。天才として名高く、非常に大きな期待が寄せられていた存在。

ただ、今となっては1人もそんな彼女の派閥に配下は存在していないが。


「勝手に期待して勝手に失望して……人間とは身勝手ですね」


人より大人びた思考を持つ彼女は、5歳児とは思えない愚痴をこぼす。それから、今いる庭園の出入り口の方向へ目線を向けた。

その先では、少し歩いた場所でパーティーが行なわれている。今もそこから発せられる賑やかな声が彼女の元まで届いていた。本来なら彼女もパーティーへ出席する必要があるのだが、


「…………」


彼女の足は動かない。

勿論その理由の1つに、元々彼女の派閥にいた貴族たちの存在がある。あれだけ周りに集まって天才だと騒いでいた者たちに掌を返されて冷たくされるのは嬉しくはない。気分は当然悪い。

が、理由はそれだけではない。というより、もっと大きな理由が存在する。それが、


「……宰相の息子、エレクス」


エレクスという名の幼児が関係している。彼は派閥の解体が行なわれたシンユーを笑い、罵り、頭から料理をかけた。彼にそんなことをされて以来、シンユーはこの数回のパーティーに顔を出せていない。パーティー用のドレスだって数に限りはあるし、汚されるのは嫌なのだ。


こんな彼女が憎く感じているエレクスだが、実を言うとゲーム通りのシナリオで進んでいればこうはならなかった。なぜならシンユーは積極的にイヤミーの派閥の物がイジメを行ない、エレクスが混ざることはなかったからだ。今はイヤミー派閥のモノたちが手を出さないからこそ、シナリオが変化してこんな形になったのだ。本来敵対することがないはずの、攻略対象と親友キャラが。

因みにイヤミーの派閥のモノたちがシンユーをいじめない理由だが、それは純粋に忙しくてそれどころではなかったからだったりする。例の誰かさんの命令により、その誰かさんの素晴らしさを他の者へ語るのに忙しくて。


「……ふむ。辛気くさい顔をしているな。第5皇女殿下」


そう。3歳児とは思えないほど悪そうで偉そうなどこかの誰かさんを。





※※※





最近、第5皇女であり女主人公の場合の親友キャラであるシンユーがパーティーに出てこない。と言うことでいつぞやのように俺は堂々と城を歩きまわり、シンユーを探していた。

そして見つけたのが、誰かさんが泣いていたのと同じ庭。姉妹はやはり似るものなのかもしれない。


「……ふむ。辛気くさい顔をしているな。第5皇女殿下」


俺はシンユーへ話しかける。花壇の隅へ座ったシンユーは、今にも泣きそうな顔をしていた。こんな顔を見るとは思わなかったな。


「……あなたも、私を笑いに来たんですか?」


シンユーは俺を暫く見つめた後、そんな返答をしてくる。どうやら誰かが以前にシンユーのことを笑ったようだな。その光景を見たわけではないが、この口ぶりから判断するにそうなのだろう。

勿論、俺にそんなつもりはないがな。俺は呆れたように笑いながら、


「何を言ってるんだ?今や最大派閥となったイヤミー派の中心人物である俺が、たかが負け犬を笑いに来るほど暇なわけがないだろう?」


「っ!そ、その言葉がすでに笑いに来てるのと同じものではありませんか!」


俺にそう言い返して出てくる言葉は、5歳児とは思えないほどしっかりしている。さすがは天才と言われていただけはあるな。非常に素晴らしい才能を感じるぞ。

だからこそ、


「なあ。お前、負け犬のままで良いのか?」


「……どういう意味ですか?」


俺の質問にシンユーは首をかしげる。その顔は険しく、俺をまだ警戒している様子だ。俺も煽るようなことを言ったばかりだし、そんな表情にもなるだろう。

だからこそ俺はそれを利用するように、


「天才のくせに俺の言いたいことも分からないのか?」


「……うるさいです」


俺の言葉に顔をしかめるシンユー。こうするのはあえてだ。こいつが煽られても冷静に判断ができるのか。俺はそれが見たい。


「お前は皇帝になる事だけがゴールだと思っているのか?違うだろ?皇帝がダメなら別の道を目指せば良いじゃないか」


「……何が言いたいんですか」


シンユーは苛立ちを含んだ声で俺へ問いかけてくる。俺はそれを煽るように笑みを浮かべ、たっぷりと時間をかけてから、


「お前、俺たちの下に付け」

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