25悪 他人の不幸は
「あの速さで敵が来ても、公爵家の方々をお守りできるようにするのが目標です!」
「この陣形にすれば……」
「しかしそれだと他に対応が……」
兵士たちは狼たちが敵になることを想定した戦い方の模索をしているらしい。
うん。向上心があって素晴らしいな。自分たちは操れなくとも、それに対応するための策は考えるとは。俺も日々成長できるように頑張るとしよう。
……因みに、と言うか。俺も1度隠れてこっそり狼に乗せてもらったのだが、数秒もしないうちに振り落とされてしまった。数メートル吹き飛んだぞ。まずは乗馬から始めようと思ったな。
「クゥン(ヤバいよあの人。あの速度で落ちたのに、傷一つ無いんだけど⁉)」
「ク~ン(頭から落ちたはずなのにな。どれだけ防御力が高いんだ……やっぱり俺たちのご主人様はあの人だな。逆らわないようにしよう)」
そんなことも経験して。俺も成長したとまでは言わなくても、成長の幅は広がった気がする。変化の時は近いかもしれないな。
が、それでも俺には変わらないこともあった。それが、
「アーク!これ美味しいよぉ」
「うむ。そうだな。俺もそれは気に入っている。……あと、これも良かったぞ。ほら。口を開けろ」
「あぁ~ん」
バカップルみたいなイヤミーとの関係性だ。パーティー会場の真ん中でいちゃつける俺たちである。頻繁に2人でパーティーに出て、いちゃついて過ごす。そして、パーティーがない日はない日で、どちらかの家や部屋に行ったり、適当な場所でデートしたり。良く2人で遊んでもいる。イヤミーに新しい婚約者をなんて考えるバカもいたようだが、さすがに見せつけるとそれもなくなった。
そうして遊ぶときの1度。俺の部屋へイヤミーが来たときのこと。
「そういえば、アークの魔力鑑定ももうすぐだね!」
魔力鑑定の話が出た。これでイヤミーの人生も大きく変わったからな。印象深いだろう。俺も誕生日が近づいてるし、そろそろと言えば確かにそろそろだ。
「そうだな。だが、その前にお前の妹も魔力鑑定を受けるだろう?」
「あっ。そういえばそうだね。……えへへ。アークのことで頭がいっぱいで、すっかりそのこと忘れてたよぉ」
俺より少しだけ誕生日が早い第5皇女。女主人公の場合の友人キャラだ。そいつの魔力鑑定の日が近い。今は天才と言われて大きな派閥を作っている彼女だが、彼女もまた人生を大きく変えることになるだろう。
そんな俺の予想通り。数日後、
「アーク!やったぞぉ!第5皇女派閥が潰れそうだ!」
第5皇女の魔力鑑定の日。屋敷にスネールが帰って来るなり、そんなことを叫んだ。気持ちは分かるが、他人の不幸を喜ぶなと言いたい。
その程度で喜んでいては悪役としての品が落ちる。
「第5皇女の結果はひどかったのか?」
「ああ!ひどかったぞ!魔力量200だそうだ!イヤミー様とは大違いだな!ハハハッ!!」
上機嫌に笑うスネール。
確かに、200という数値はかなり少ない。元々魔力量が多いはずの王族なのに、平均以下だからな。これでは次期皇帝などなる事はできない。だからこそ第5皇女の派閥は潰れるというわけだ。
「……そうか。次のパーティーから居心地は悪そうだな」
「そうだな!元第5皇女派閥にいた者たちがすり寄ってくるだろうから、煩わしいと思うぞぉ」
俺が言いたかったのはそうではないが、特に訂正しないでおく。煩わしいと言うわりにはスネールも嬉しそうだからな。
俺が言いたかったのは、第5皇女の居心地が悪いだろうと言うことだ。派閥から急に見捨てられて、おそらくしばらくはすり寄ってくる者もいないだろうからな。このままだとぼっち生活になるだろう。しかも、皇帝などからはパーティーへ出席するように言われるだろうし。昔のいじめられていたイヤミーのように。
「……暫くパーティーに通うことにしよう」
「はははっ。アークは毎回イヤミー様に会うために行っているだろ。……まあ、気持ちは分かるけどな。今が稼ぎ時だろうし」
少し俺の目的とは違うが、あながち言葉の選び方は間違いでは無いと思う。色々と稼げるときでもあるからな。派閥の人数も稼げるし、金銭も巻き上げられるだろうし。派閥に入りたい者は金銭を献上したりしてくるから。
そして何度かパーティーで利益を出していく中、俺はイヤミーと2人になるタイミングで、
「イヤミー。少し相談があるんだが、良いか?」
「え?うん。勿論良いけど」
俺の考えを聞かせる。内容を聞いてイヤミーは少し理解がまだ足りていないような表情はしていたが、
「うん。分かった。アークがそうしたいならそれで良いよ!」
それでも頷いた。基本的に俺の意見にはイヤミーは全肯定だからな。俺への依存度が高いのが原因だとは思うが、もう少し俺にも反論するように教えるべきだろうか……難しいな。
ただ、とりあえず今は俺の考えが受け入れられたということで良しとしておこう。もっと考えるのはこれが上手くいってからで良い。




