18悪 私は○○と結婚する
「俺の邪魔をするよりも真面目に働いた方が利益が出るんだぞ。それが理解できないバカには怒りが湧く」
「お、おぉ~。凄い自信ニャ」
俺の発言は自信ではなく事実だ。
何せ俺は、更に上に行くからな。その証拠として示せるのがもうすぐ行われるイヤミーの魔力鑑定だ。イヤミーの魔力意が示され、その後にイヤミーが今のまま行動すれば……クフフフフッ!
「ひっ⁉アーク様が怖い顔してるニャ!」
おっと。先ほど目標にしたのに、俺はもうネトを怖がらせることに成功してしまったらしい。もう少し悪として成長してからやりたかったのだがな。
俺が悪として偉大過ぎたか。
※※※
5歳の誕生日。それは貴族、あるいは王族にとって、非常に重要な日だ。全ての王族と貴族に定められた、魔力鑑定の日なのである。これによって転落した者も、成り上がった者も多くいる。
そしてまた、5歳となった第4皇女イヤミー・エーライも、そんな人生を大きく変える結果を出そうとしていた。
「イヤミー。その水晶に手をかざしなさい」
「は、はい」
沢山の貴族に見守られる中、イヤミーは母親に促され、ゆっくりと水晶に近づいていく。そして、その手が水晶に触れた瞬間、一瞬にして辺りは白い光に包まれた。
「きゃあっ⁉」
「な、なんだっ⁉」
「これだけの魔力が⁉」
「バカな⁉」
イヤミーは驚きで手を引き戻し、貴族達は驚愕の声を上げた。そして残るのは、その計測の結果を表した水晶。
そこに書いてあるのは、計測した数値であり、
「け、計測結果を発布置いたします。……イヤミー・エーライ。魔力量、15万2700です」
「15万⁉」
「ろ,6桁越えだと⁉」
「馬鹿なっ!それほどの魔力をその年齢で⁉」
通常、この年齢であれば魔力量は平均が2000程度だと言われている。時たまに現れる才能の持ち主が、1万や2万を持つ程度だ。10万を超える者など、この年齢では誰も聞いたことがない。
通常、魔力を増やしていくことは可能だ。だからこそ、イヤミーに近い数値やそれを超える数値の者も存在する。が、そういった者も世界でもほんのわずかしかいない。
この世界では、魔力を増やすことができるのは、せいぜい10倍くらいだとされているからだ。イヤミーを超える魔力の持ち主は、大抵が何十年もかけて魔力を増やしてきた猛者たちである。才能と努力の両方があったからこその力なのだ。
だが、イヤミーは才能だけでその域に達している。もしこれから努力をすることとなれば……
「イヤミー様!是非我が家からご支援をさせて頂きたく!」
「私と共に次期皇帝を目指しませんか⁉」
圧倒的な才能と将来性。そういった莫大な利益を感じた貴族は、イヤミーへとすり寄ってくる。最初こそ今までとあまりにも違い過ぎる貴族たちの様子に困惑していたイヤミーだったが、
「我が子と結婚を!!」
お近づきになりたかった貴族のこの言葉を聞いた瞬間、頭のスイッチが切り替わった。そして、
「いや!私はアークと結婚するの!」
叫ぶ。
そのたった少しの言葉で貴族達の動きが止まり、
「「「「……え?」」」」
困惑の声を漏らした。
今までイヤミーはどの貴族もマークしてこなかった。大して目立たず、いつもパーティーにも出てこない。だからこそ困惑したのだ。彼女が結婚したいというような相手が、すでに存在していることに。
多くの者がどこの家だ、アークとはいったい誰だと考える中、スネールという名の公爵が、
「え?アーク?うちの子ですか?」
と、呟いたという。
その日、ワール公爵家の派閥が支援につき、イヤミー派閥ができあがった。まだどこの派閥へ着くか決めていなかった者が参加したり他派閥の貴族達も一部が派閥を移ったりしたため、1日にして最大派閥へと成り上がる。彼女の持って生まれた才能は莫大な価値を彼らに感じさせたのだ。
そしてそれを聞いたどこかの悪が、
「……計算通り」
と、呟き微笑んだとか。
父親とは違い、余裕を持った非常に悪らしい表情で。