17悪 他人の脚を引っ張ることしかできない
2話目
「では、これらは回収していく。ボーナスには期待しておけ」
「はいですニャ!」
回収したものの中にはやはり奴隷もあった。そして、売買契約書も。発見されて失脚した者も多いというのに、学習しないな。
その後契約書と奴隷と財宝の一部をスネールに献上しておいた。スネールも前回と同じくほくほく顔。そして、傭兵達もボーナスを受け取りほくほく顔である。更にそれに加えて、
「合格だ。今日から俺が貴様らを雇ってやろう」
「「「「ありがとうございます!!!」」」」
頭を下げる傭兵達。俺が雇ってやることにしたのだ。流石に日常的な護衛にするにはまだ信用度が足りないが、奴隷狩り退治などで積極的に活用していこうと思う。
「あぁ。そうだ。お前の名前、そしてお前達の名は何だ?」
「おお。ついに聞いて下さるのですかニャ!私の名前はネト。そして傭兵団の名はニャンダフルですニャ!今後とも宜しくお願いしますニャ!!」
「うむ。期待している」
ニャンダフルか。それらしい名前だな。
と、こんなこともあって、俺は戦力も獲得したのであった。それから更に何度か土地へ行っては奴隷狩りのアジトへ襲撃させていると次第に治安は回復。俺の懐も潤い、二重に美味しくなった。
ただ治安が良くなっても、土地自体が廃れている。そうして悩んだ末に、
「いらっしゃいませ~。エルフが種から育てた野菜です!おいしいですよぉ~」
「エルフが取った獣の肉ですよぉ!」
俺は奴隷になっていたエルフを使うことにした。まだ精神が壊れきっていないモノたちに商売をさせているのだ。
人間への恨みが強い者も多いが、どうにか説得してある。ついでに俺にかなり懐いてくれた者も出てきたぞ。数人は将来、俺のメイドとなる事を希望しているらしい。……うん。説得(意味深)した甲斐があったというものだ。
「マンドラゴラ2つお願いします!!」
「肉1つ下さい!」
「俺にも!」
売り上げに関しては上々の結果である。
1番の理由は顔だ。エルフは全員美形ということもあり、店頭に立たせるとそれ目当ての客が押し寄せてくる。イケメンと美女って、それだけでもう強いよな。
そして2つ目の理由として、他と差別化をしているところがある。それが、エルフ達が自分たちで育てた野菜を売ったり自分で狩った肉を売ったりしているということだ。イメージしてもらいたいのは、生産者はこの人ですというので美人が載っているヤツだ。美形が作ったもの最高!となるわけだな。
「うむ。実に儲かっているな」
「そうですね。奴隷狩りが減り、各地の違法奴隷商人や貴族が摘発されたことで、少しずつエルフ達との歩み寄りも行えています。そろそろ小規模な交易も始められそうですね」
向こうとの交渉の末、数人の奴隷は解放されて故郷へと帰っている。お陰で少しずつではあるが交渉の席なども設けられるようになり、交易も可能になり始めたのだ。あと、話によるとこちらへ来てみたいというエルフも現れ始めたらしい。
……また犯罪が増えそうだ、というのが正直な感想だ。
「お陰で奴隷狩りも増えてるニャ!」
経済が回復し、人が増えればどうなるか。それはそれで、奴隷狩りや盗賊が増えるのだ。
狙いは俺が働かせているエルフ達だったり、金の匂いにつられてやってくる商人だったり若者だったり。そのお陰で、継続的に俺たちも収入が得られているのだ。盗賊達が出るお陰で。
「そうだな。もう少し襲撃の回数を増やしても良いかもしれない……あとネト。もう少し教わった敬語を使おうという気にはならないのか?」
「あっ。忘れてたニャ!じゃなくて、忘れていましたニャ!申し訳ございませんニャ」
ネト達ニャンダフルのメンバーには、俺がメイド達に頼んで敬語を教えさせている。
が、あまり今のところその成果は見られないな。日常的に使うのは崩れた言葉遣いばかりで、敬語は一切出てこない。例え相手が俺であってもだ。
……というより、最初の頃よりも俺に対して崩した言葉遣いになっている。絶対に俺のことをなめてるよな。
「……しかし、人出が減って儲けも出ていて忙しくなったはずなのに、作業がスムーズに進むのはなぜなんでしょう」
俺たちの会話を聞いていた部下が、ぽつりとそんな言葉を。俺はそれに冷たい笑みを浮かべ、
「それだけ今までいたバカが無能だったという話だろう。他人の足を引っ張ることしかできない脳のないやつらだからな」
「ハ、ハハッ」
乾いた笑みが返ってくる。
こいつが言うように、実は人手が減っているのだ。勿論作業量が増えたのも確かだな。
だが、今回俺が文句を言っているのは人手が減った方だ。実は、と言うほど意外でもないが、今まで仕事をしてきていた者たちの多くが奴隷狩りなどとつながっていた。奴隷狩りとの契約書が見つかった者たちを処分するとあっという間に人員は半分以下に。ただそのはずなのに作業効率は上がり、何も問題なく仕事はできている。
つまりそれは、処分された者たちが今まで足を引っ張っていたということなのだ。それに俺は怒りを覚えているのである。
「アーク様は不正が許せないのニャ?」
そんな俺に、ネトは的外れな質問をしてくる。
「そんなわけが無いだろう。不正くらいある程度目をつむる。まあ、証拠が見つかればすぐに首を切るがな。……問題はそこではなく、俺の邪魔をした者が居たということだ。万死に値する」
「ひぇ~。怖いニャ」
そこまで怯えている様子もなくネトはそう口走る。……いつか、本当に恐怖を感じさせてやるとしよう。俺は悪だからな。
「俺の邪魔をするよりも真面目に働いた方が利益が出るんだぞ。それが理解できないバカには怒りが湧く」