15悪 手を組むとでも思ったか?
「あんたたちがアークとその一行だな?」
数人の男がやってきた。話を聞いてみると案内人らしく、護衛達と共に俺は奴隷狩りのボスのところまで連れて行かれた。俺が仲良くしたいと言ったくらいで、随分とガードが緩くなったものだ。
「よく来たな坊主。俺様はここのボスをし」「やれ」
ボスが自己紹介する間もなく、俺は命令を下す。すると瞬時に護衛が動き、あっさりとボスを捕縛。そして、その周りにいた他の奴隷狩りにも斬りかかり、捕縛していった。生死は問わないことにしてあるので、死人やケガ人が多いな。
「こ、こんなことをして許されると思って」「思っているぞ。俺は次期公爵だからな」
捉えられたボスの問いかけに、俺は余裕の表情で応える。真の悪である俺が、この程度の三下を恐れるわけがない。というか、こんなにあっさりと姿を現した時点で、ここのボスだとは思っていないからな。
俺としてはここまでこの地域に被害を出している集団のボスが、この程度だとは思えないし思いたくない。
「アーク様。全て片付け終わりました」
「うむ。ご苦労」
護衛の代表のようなヤツが終わった報告をしてくるので、それだけ言葉をかけてやる。感謝は口にしない。俺の指示に従って行動するのは当然のことだからな。
というか、護衛だけで全て片付けてしまった。一緒に連れてきたメイドを活躍はさせられなかったな。……まあ、メイド達としては強さを隠しているつもりなのかもしれないが。顔を青くしたりして怯える演技をしている者もいるしな。俺としては、またあの強烈な蹴りを見たかったんだが。
「さて、早速アジトをあさるぞ。良いモノが出てきたら、父様にボーナスを出すよう交渉してやろう」
「「「「すぐに探します!!」」」」
ボーナスの言葉が聞こえた瞬間に敬礼して、護衛達はアジトを漁りに行った。俺もメイドを引き連れてアジトの内部を歩いて行く。盗賊のアジトなだけあって、あまり綺麗な場所ではない。
捜索した結果として、
「大量の金銭、財宝、違法な品……そして奴隷か」
色々と見つかった。俺が呟いたものの他にも、奴隷の売買履歴なども残っていた。こういうのを残しておくべきではないと思うんだが、俺たち公爵家があまり対策してこなかったから油断していたんだろうな。お陰で良いモノが得られて嬉しい限りなんだが。
そんな感じで得た戦利品を含めてスネールに報告すると、
「あ、ああ。うん。そんなことをしてたのか。危ないから次からは」「は?俺の護衛はその程度なのか?」
注意されそうになったので、答えづらい返答をしてやった。そう言われると、
「……そ、そういうことではないんだが、万が一が起こっては、その、なんと言うんだ?」
しどろもどろに。結局その辺はうやむやになったぞ。やったな。次も同じようなことができるだろう。
それと共に、
「一部を公爵家に回すから、それを使って俺に着いた護衛とメイドにボーナスを出してやれ」
「わ、分かった。そうしよう」
ボーナスも約束された。きっと、あいつらも俺に感謝することとなるだろう。金も儲かって護衛の心も掴めて、実に素晴らしいことが起きたな。
あと、俺が渡した違法奴隷の売買の書類を使って、
「あそこも失脚、ここも失脚……うぅん。他派閥の求心力を大きく削れる!素晴らしいぞアーク!」
「ふっ。俺ならば当然だ。……へまをするなよ」
「当然だ!アークに手伝ってもらって、俺がへまをするわけないだろう!」
その言葉通り一切ミスすることなく、スネールはいくつもの家を失脚させた。違法に売買された奴隷は王家によって確保され、折を見てエルフの方に返せるようにするらしい。ただ、かなり多くの者が精神を壊していて、戻すことは不可能なようだがな。
だが、これで俺が任された土地も多くの奴隷狩りが捕まったことで治安は回復する、……なんて訳もなく。
「小さい犯罪が多発しているようです。多くの者を捕らえることに成功していますが、人数が少ない分尻尾を積みにくい事例も多いようです」
「なるほど。分かった」
治安も経済状況も大して変わらない。土地の経済状況は悪いまま、俺の懐だけが肥えた形だ。もう少し何かできれば良いんだが、なんて思いながら暫く過ごす。そんな時だった。
「む?父様に面会要請?」
「はい。アポなしでの訪問でして」
スネールに面会したいという集団がやってきた。公爵にそんなに簡単に会えるわけがないだろうと思いながら、
「どこの無礼者だ?」
誰が来たのか聞いてみる。もしかするとどこかの貴族の使者が急ぎの用事で来たのかもしれないし。などと思ったが、そういうわけでもないようで、
「どうやら傭兵団のようなのですが……」
「傭兵団?」
その単語で俺は表情を変える。今までなかった興味が急に湧いてきた。
考えてもみて欲しい。俺は悪だぞ。悪が戦うときはどうやって戦うだろうか。
自分で戦って、追い詰められたら第2形態になる?それはどこのラスボスだ。俺はそんな人外のようなラスボスになるつもりはない。だが、悪であるから武力は欲しい。
だから、俺は欲しいのだ。悪として、自分自身の保有できる戦力が。
ゲームの中のアークも、俺と同じように考えたのかもしれない。あいつはいつも取り巻きと共に戦い、自身は大して攻撃を出していなかった。それに、強くもなかったしな。アークは強くなくとも取り巻きたちが強かったため俺はそいつらが欲しかったのだが、今のところ似た様な者を見ていない。と言うことで、今は代替品となる別の強い集団が欲しい。
そんなことを考えていた時に傭兵団が来たのだ。
「……俺が面会することならできる、と伝えろ」
「え?」
「早くしろ」
「は、はい!」