10悪 悪役との遭遇!?
「まあ良い。お前、次のパーティーにも出るのか?」
「で、出るよ。お父様に、出なさいって言われてるし」
「そうか」
次もパーティには出てくるらしい。凄く嫌そうな顔をしているな。またそのバカにいじめられる可能性もあるわけだし、気持ちは分かるぞ。
ただそれなら、
「お前、次のパーティーもここに来い。俺が話し相手になってやろう」
「ほ、本当?」
パーティーとは、貴族との繋がりを作る場でもある。父親は、他の貴族とこいつが繋がりを作ることを期待したんだろう。
それなら、俺という公爵家の人間との繋がりは非常に大きなものだ。文句は言えないだろう。
「ああ。……ただ、条件がある」
「じょ、条件⁉」
条件という言葉に大きく反応する幼女。俺はそれに何も返答せず、笑顔を浮かべる。
それからゆっくりと近づいていき、俺が幼女へ手を伸ばすと、
「……な、何?殴っちゃ嫌!」
幼女は怯えたように縮こまった。殴られると勘違いしたようだな。
ただ、俺は悪だぞ。
「そんなことはしない。殴るなんて、何の意味も無い。……そんな事よりもお前、俺のものになれよ」
俺は耳元で囁く。
「は、はぇ?」
幼女は俺の言葉が予想外だったのか、ガバッと顔を上げた。危うく俺の顔面に頭突きされるところだったな。危ない。
が、それよりも大事なことがある。
「で?どうなんだ?俺のものになるのか?」
俺は再度問いかける。この幼女はその意味を理解しているのか不明だったが、
「そ、それって、私と結婚したいって事?」
どうやら理解できていたようだ。さすがは貴族とでも言うべきか?そういうことは教育されてるのかもしれないな。いつ口説かれても良いように。
「端的に言えばそうなるな。……ただ、俺はお前以外にも沢山女を囲って、ハーレムを作るぞ。返答はそれが分かった上ですることだな」
「わ、分かった」
俺の言葉に幼女は頷く。そしてすぐに、
「私、結婚する!」
お、おう。そう来たか。確かに間違ってないんだが、この年齢だとまだ結婚って難しいと思うんだよな。まずは婚約じゃないか?
と、色々考えることはあるが、とりあえず1人目のハーレム要員ゲットだ。
「そうか。それならば、これからよろしく。……俺はアークだ。お前は?」
「わ、私はイヤミーだよ。第4皇女、だったかな?よろしくね!アーク!」
そう言って抱きついてくる幼女。いや、イヤミー。
イヤミーって皇女だったのか。びっくりだな。俺より身分高いじゃん。
「ああ。よろしくな。イヤミー」
俺は再度よろしくしておく。
……ん~。何だったか。イヤミーって名前、どこかで聞き覚えがあるんだよな。男主人公の場合のヒロインだったかと思ったが、そんな名前は聞いたことないし。というか、皇族のヒロインなんて1人だけだったはずだ。誰かの友人キャラだったりしたか?いおや、もしかしたら女主人公にしたときにモブとして出てきた可能性もあ…………あぁ?イヤミー?ちょっと待て。それって確か。
「悪役、令嬢……」
思わず口からこぼれる言葉。俺の頬が引きつるのを感じる。
「へ?どうしたの?アーク」
「い、いや。何でも無い」
俺は慌てて誤魔化すが、内心では非常に混乱していた。俺の予定ではこんなことになるはずではなかったのだ。
感覚的には、身分が低くていじめられていた男爵家の令嬢にでも話しかけたつもりだった。ただ、それが皇族だったことでも驚いた。色々不都合があるからな。だが、1番驚いたのはこいつが悪役令嬢なことだ。確かに悪役令嬢として目覚める前、いじめられていたという話は聞いたことがあったが。まさかそれに俺が声をかけて恋仲になってしまうとは……。
悪役と悪役は、中身が変わっても惹かれ合うものなのかもしれない。……ゲームではあまり関わっている様子は描かれてなかったが。
「ただ婚約するとしても、しばらくは2人でいるところを他のヤツに見られたらマズいな」
「え?な、なんで?」
「イヤミーは今まで誰の支援も受けてこなかっただろう?それが急に公爵家の子息と一緒にいることがバレたら……王位継承戦に出ようとしてると思われて、暗殺されるかもしれないぞ」
「っ⁉そ、そんな⁉」
驚愕すると共に顔を青くするイヤミー。こういう表情を見ていると、悪役令嬢になるとは到底思えないな。ゲームの中のイヤミーは、自身の支援者となる貴族に親子で殺し合いをさせるガチヤバ令嬢だったんだが。それに、当たり前のように敵の暗殺もするやつだったんだが。
今はその片鱗が一切見えない。
「安心しろ。イヤミー。バレなければいい話だ。……数年時間をかけて護衛を出すように親を説得していきたいし、それまではこっそりと会おう」
「わ、分かった。皆に言えないのは寂しいけど、私内緒にする!」
イヤミーは拳をぎゅっとにぎって宣言した。
「そうか。なら、約束をしようか」
「約束?」
俺の言葉に首をかしげるイヤミー。俺はその疑問に答えず、またイヤミーに手を伸ばす。イヤミーは少し怯えた様子を見せたが、今度は俺を信用したのか目を閉じるだけにとどめる。体もこわばってはいるがな。だが、それの方がこちらとしても都合が良い。
俺はゆっくりと顔を近づけ、
「んっ」
唇を塞いだ。そして、すぐに離す。
深いキスはもう少し大人になってからだな。俺としても幼女に舌を入れるのは、ちょっと気分的にな……。俺はロリコンじゃないんだ。
「約束、だからな」
「……うん!」




