ジュークボックス転生
誰かが先にやってるかもしれないアイデアですが、いっぺん書いてみたかったので。https://www.amazon.co.jp/dp/B0B7F5F7FT/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_70YRR8X8BCADY98NFSA7
「タイムマシンにお願い 気軽に読めるショートショート集2号」からの一篇抜粋です。
俺はミュージシャン。洋楽を5歳上の兄から叩き込まれ、ギターを買い高校の時にバンドを組み、20代でファンの女の子達に養われながらアンダーグラウンドで演奏してきた。30代でファンの看護師と結婚して、主夫兼ギタリストとして活動を続けてきたが、40代になるとさすがにバンドやってる仲間は居なくなり、ヒモとして生きている最中。50代でまた趣味でバンド始める連中に指導することが多くなった。
でも、さすがにウンザリした妻から刺されて気がついたら転生していた。
ジュークボックスに。
――えぇ? なんで?
俺は思ったが、好きな音楽がいつでも聴けるのでそれはそれで幸せだ。
ただ、転生地点が良くなかった。魔王城の地下宝庫の片隅だったのだ。財宝に埋もれて誰も気づいてくれない。
100年ほど無為の時を過ごしていたら、若者たちが、キョロキョロしながら入ってきた。
よし、ここで、一発気を引こう! まずは、ヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」からだ!
イントロが流れ始めると、若者達はなんだなんだと、近寄ってきた。
――この機械はなんだ。魔具か?
「ジュークボックスさ。音楽を演奏するんだ。数千曲はあるぞ」エディのイカレたギターソロが始まる。
――喋るぞ、この機械。持って帰って王様に献上しよう。
次に流す曲をアース・ウィンド・アンド・ファイアーか、渋くダイアー・ストレイツにするか考えていた俺はビックリして訊いた。
「魔王様じゃないのか? 君たちは誰?」
――魔王は倒した。俺たちは勇者のパーティーだ。
そうか、と納得しながらジャクソン5の「帰ってほしいの」を掛ける。おっとっと、曲名だから、ここで帰られたら困るのは俺。
「ここから連れ出して欲しい。あまりにも退屈で死にそうだったんだ。みんなをハッピーにしてやるぜ」
――踊りたくなるような曲だな。なんて歌っているんだ?
ああ、「ここ」の言葉じゃないからな。日本語でもない。昔のDJみたいに解説入れた方がいいかもしれないと思った。
「恋人に去って欲しくない男の子の曲さ」
でも、俺はボーカルでもないし、メロディさえ理解できれば演奏できていたので、英語の内容はよく分からないんだよね。
――これ、私たち吟遊詩人にとっては宝の山よ。こんな良い曲がいっぱい詰まっているなんてすばらしいわ!
なんか見慣れない楽器を背負った少女が叫んだ。わかる、音楽ってすばらしいよね。ニルバーナの「Smells Like Teen Spirit」を掛けながら思う。
――とりあえず、これとか宝関係はアイテムボックスに入れてしまおう。
「? 何、アイテムボックスって?」
――金貨最大65535ゴールドのほかにアイテム255個入る箱さ。
ああ、昔のゲームはそういうのあったよね。と、思っていたら、異空間に放り込まれた。即座に魔力を断ち切られ停止。
次に目覚めたのは、王座の前だった。高そうな玉座に王様と思われるおっさんがすわっていて、こちらを見ている。
――おい、ジュークボックス、一曲やってくれ。
ああ、もう移動したのか。よしそれじゃ、楽しい曲を一発。カーズの「You Might Think」を掛けてやるぜ。
ポップなイントロが流れ出した途端、王様はキョロキョロ視線を周囲に向けた。
――この曲を弾いてる楽団はどこじゃ?
――この音楽はこの自動演奏機械が流している物です。
――なんと! 珍しいものじゃ。祝勝会に是非置きたい。譲って貰えないか?
交渉を始めだしたのをみて、冷静に議論できるようにアニメピアノ曲集をBGMとして流し始める。どこだっていい、このご機嫌な音楽を流せるところなら。
祝勝会? そうだビートルズは外せないよね。と、曲目リストを作り始める。そうだ、ヒットメドレーにしよう。勇者のパーティが入場するときは、クイーンの「伝説のチャンピオン」だ。オラ、ワクワクしてきたぞ!!!