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ショートショート12月~2回目

黄金ジェット

作者: たかさば

「おぅい!唯!こっちもついでに縛ってくれぇ!」

「ええー?!ヤダよ!お父さん自分のは自分でやってよ、すぐに人にやらせるんだから!」


「父さんはな!毎日仕事に行っていて疲れているんだ!お前はすねかじりじゃないか!学生のうちは…働け!」


 大学が冬休みに入った日曜日、私は朝から全く動かない父親と言い争っていた。

 実家の大掃除に行ってしまった母親から、今日中にリビングの片づけをするよう指令を下されていたのだが…いかんせん父親が動いてくれないのである。

 人が一生懸命掃除機をかけ、荷物をどかし、テーブルを水拭きしているというのに、父親ときたら…大きな体でソファに沈み込み、完全に他人事を貫いている。

 新聞を読みながら…コーヒー飲んでる場合じゃ…ないでしょう!


 お母さんが帰ってきた時に片付いてなかったらどんなことになるか!

 怒り心頭大爆発ののちに晩御飯が激辛料理とか、お風呂の入浴剤がどぎついゴージャスフレグランスのやつになるとか、寝る前に安眠ドリンクという名のおぞましい物体を飲まされるとか、朝あっちんちんのおしぼり顔にのせられて起こされるとか、朝ごはんにニンニクマシマシまぜそば出されるとか、お弁当のごはんに海苔ででっかくデブって書かれるとか…あああ!!考えただけでも恐ろしい!


「自分の分はやってます!この服の山全部お父さんのじゃないの!なんでこんなに片方の靴下が山のようにあるのよ!どうして食べかけのお菓子がこんなにあるのよ!雑誌もめちゃめちゃ積んであるし!」

「働いて家に帰ると疲れちまうんだよ!甘いもんも食いたくなるし、素足になって寛ぎたいの!趣味ぐらい唯にもあるだろう、…あ、捨てるなよ!部屋に持ってっといて!あとで回転寿司連れってってやるからさ!」


「100円じゃなくて高級なとこ連れてってよ!もう!」


 イライラするものの……美味しいお寿司には、目がないというか。うん、私って結構、ちょろいよね……。


 カー雑誌を紐で結んでまとめ、二階の父親の部屋に向かう。


 小さい頃よくお邪魔しては、机の上の地球儀を眺めさせてもらったり、チェスを教えてもらったりしていたけれど、ここ最近…そうだなあ、中学に入ったあたりからこの部屋に行くことはほとんどなくなっていた。勉強に部活、受験…あまり父親とコミュニケーションをとる余裕がなかったっていうか、ちょっとした反抗期?みたいなのもあったっていうか。


「うわ!!何この部屋!!」


 久しぶりに父親の部屋のドアを開けると、そこは……魔窟となっていた。

 ベッドに行くまでの道ができていて、その周りはものが山積しており、机の上は脱いだ服やレジ袋に入った何かがいっぱい乗っていて…地球儀が崩壊してる!

 チェス盤の上にはホコリが積もってるし、昔読んだ百科事典の上に飲みかけのペットボトル…うわ!!中身腐ってるじゃない!!


 ばさ、ばささっ!!!


 余りの部屋の中の惨状に驚いてしまった私は…手に持っていた雑誌をベッドの端にぶつけた。紐がほぐれてまとめていた雑誌が散乱し、ベッドまでの通路を塞いでしまった…。このままにしておいたらお父さんが怒りそうだなあ、…怒らせたら回転寿司がなくなるかも、それは…困る!


 足元に散らばった雑誌をまとめて、紐で結び直そうと…ムム、堅結びになっちゃって…紐が伸ばせない……。切るしかないか。


 辺りを見回すけど、はさみが見当たらない。下に取りに行くのもめんどくさいな、そう思って、何の気なしに机の引き出しを開けた。確か一段目の引き出しには、文房具がたくさん入っていて…子どもの頃はよく鉛筆や定規などを借りていたんだよね。たまにおはじきとかビー玉なんかも入ってて…幼い頃の私にとっては、宝物みたいな引き出しだったんだ。郵便屋さんごっこと称して手紙を入れてみたりさあ…。


 そうだ、あの頃の手紙とか、あるかも?


 私ははさみを探すことを忘れて、引き出しの中の宝物を探し始めた。


 ごちゃごちゃとした文房具の中に、小銭やネジ、小さな豆電球…なんで歯形があるんだろう、はさみが4つもあるってどういうこと、ええとこれは…ロウソク?タバコを吸わないのにライターが入ってる、ああ、蚊取り線香用かも?古いメガネだなあ、これ、私が保育園の時に踏んで壊したやつだ!飴玉が入ってる…うわ!賞味期限が五年前!!!ちょっと待って、何で蛇の抜け殻が?!こんなの几帳面なお母さんが見たら…ブチ切れる!!


 これは一言言ってやらねばなるまい、そう思って引き出しを締めようとした時、奥の方に小さな小箱を発見した。


 手作りっぽい箱…もしかして私が作ったものかもしれないな、そんなことを思いつつ、パカリと箱を開けてみる。


「……ペンダント?」


 丸っこいフォルムの金色のペンダントが出てきた。翼のようなものがついている…あんまり見たことがないデザインだ。…私があげたものじゃなさそう。地味にちょっとかわいいかも、欲しいっていったらもらえるかな?私は手早く雑誌をまとめて、箱を片手に一階に向かった。


「…うわ!!それ…どこで見つけたんだ!」

「はさみ借りようと思って引き出し開けたら入ってて…なに、大切なものなの?」


 掃除機をかけているお父さんに箱を見せると、なんかやけに……焦った顔をしている。


「どこに行ったのかと思っていたけど…それ捨てといて良いよ、いらないものだから。」

「こんなに高そうなのに?」


「……もらい物だけど捨てるのを忘れていたんだよ。」


 箱を投げ捨てたお父さんは、やけにきびきびとリビングの掃除を始めて…切りのいいところで美味しいお寿司を食べに行くことになったんだけども。


「おい!!なんで捨てたもんをお前がつけているんだ!」

「いやだって…もったいないじゃないの、奇麗だし。」


 お父さんが投げ捨てた小箱の中から、ペンダントだけ抜いて…ちゃっかり首につけてみたんだよね。

 どうせ捨てるんなら、もらってもいいかなって思ってさ。


「これ、なんなの?珍しい形してるね、誰にもらったの?」

「それは…化学クラブの先輩にもらったんだよ。かあちゃん…ばあちゃんがさ、もったいないから取っとけっていうからさあ。」


 イクラを食べながら、お父さんが渋い顔をしているのはなんでなんだろう。


「ああ、おばあちゃん…ケチだったもんねえ……。」


 数年前に亡くなったおばあちゃんは、それはそれは物持ちがいいというか意地汚いというか…物を捨てないことで有名な人だったんだよね。結婚式の引き出物からバザーでゲットしたもの、親戚から貰った服にお中元…3LDKの古い家に、みっちりぎっちりモノがあふれていてそれはそれは後年大変な目に合ったのだった。


「それもあるけどさ、あの人不思議なものが大好きだったんだよ。それ、黄金ジェットがモチーフになってんだ。知ってる?オーパーツ。だから縁起がいいから捨てんなってうるさくてさ……。」

「何となく知ってるけど、よくわかんない…透明などくろだったっけ?」


 鉄火巻を食べながら、首からかかるペンダントトップをまじまじと見つめる……。

 なんだ、そんなにものすごいもの?だったのか、言われてみれば羽の部分が結構カッコ良くて……あれ。


「なんかこれ、ふたみたいになってるよ……中に、何か入ってるみたい……。」

「……は?何それ、うわ、ホントだ……!!」


 爪楊枝を使って、丸まっているものを取り出してみると…小さく切った顔写真?誰、この清楚系女子……。何の気なしに、写真をひっくり返してみる。


 ―――ずっと大好きだからね。1998年2/14ゆかり


 裏側に……ラブレター!!!!


「ちょ!!!!お父さん何これ!!気が付かなかったの?!やばいよ!!ずっと持ってたって事でしょ?!」

「俺はこんなの知らねえよ!!!!チョコと一緒にもらったけど!!クッキーちゃんと返したし、それっきりだし!!!げえ、マジで?!ちょ、待てよ!!!」


 ああ……ガサツなお父さんに、こんな繊細な手法で気持ちを伝えても……。

 ゆかりさん、心底……乙……。


「うわあ…けっこう美人じゃん……、お父さんがこれに気が付いてたら、あたしは生まれて無かったかもって事かあ……。」

「いや、それはない!!!俺はお母さん一筋だ!!!……唯ちゃん、このこと、絶対にお母さんにはいわないでね?!その写真、ここで捨てていこうね?!」


 お母さんとお父さんはいわゆる恋愛結婚で…ものすごい純愛を貫いて結婚したって話だったような……。


 今でもデートに出かけるようなラブラブぷりでさあ……。

 またお母さんが結構やきもち焼きでさあ……。

 町内会のおばさんとお父さんが話してるだけで、お父さんの晩御飯のおかずが貧弱になったりする有様でさあ……。


 お父さんはこのペンダントの存在を公にしたくないということか。


 なるほど、なるほど。


 おばあちゃんに言われたから取っておいただけって訳でも…なさそうなんだよなあ。

 おそらく、モテていた証として、記念に取っておいたと思われる。

 基本お父さんは人の意見なんか聞くような従順なタイプではないのだ。


 ……これは、使える!!



「ねーねー!唯!お皿洗うの、手伝って!」

「ええー?!今動画がちょうどいいところで!お父さんにやってもらって!」


「ええー?!お父さんだって仕事から帰ってきてつかれ

「ねえねえ、お母さんってさあ、世界七不思議とか知ってる?今、動画で見てるんだけど!」」


「お母さん!たまには俺が皿洗っとくからさ!!唯と一緒に座ってなよ!!」

「あらぁ、最近どういう風の吹き回し?ウフフ、ありがと!」


 このところ、お母さんの機嫌がめちゃめちゃよろしいんだよね。


 今まで全然家事の手伝いをしてくれなかったお父さんが、()()()進んでお手伝いをするようになったもんだからさあ!

 朝ご飯も昼ご飯も晩御飯もおいしいものがたくさん出てくるし、たまにケーキまで焼いてくれるんだ~♡


 いやあ…夫婦円満って、ホントいいよね!!


 私は、胸に輝く黄金ジェットを指でつまみつつ…、フフフと笑ったのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 大掃除の季節ですね……。ふーーー。ふぅーー。 やばいもんが出て来ましたね。 お父さん、乙。
[良い点] 『オーパーツたる一品』と対比して読むとニヨニヨ感マシマシですぬ♪ [気になる点]  一見、唯ちゃんが強かに思えますが、前作同様に「お母さん=先輩」説を取るならば…………  ペンダントの仕…
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