取調べ中
俺は連続殺人犯を逮捕し、取り調べ中だった。
犯人は何も話さない。いや、それどころか、ヘラヘラ笑っている。
「人を殺すのがそんなに楽しいか? 一体何を考えているんだ?」
「・・・」
それでも奴は薄笑いを浮かべるだけで、一言も話さない。
「何がおかしいんだ!?」
俺は机を叩いて奴の顔を睨みつけた。
「何熱くなってるんだよ、刑事さん。今時流行んねんよ、そういうのってさ」
「何だと!?」
俺が殴りかかりそうなのを周囲の部下が止めてくれた。
「主任、ダメです。今度の署長は暴力に厳しい人です。始末書じゃすみませんよ!」
「クソッ!」
俺は奴を睨んだまま椅子に戻った。
「現行犯で逮捕されてるんだぞ、貴様は! いくら黙秘したって無駄なんだからな」
「そんな事、関係ねえよ」
奴はそれでも涼しい顔でそう言い返した。
「自白がないと公判維持は難しい。そのくらい知ってるぜ。でもな、俺には他に切り札があるんだよ」
奴の目は虚勢を張っている目には見えなかった。しかし俺はそれを認めなかった。
「いつまでそんな大口が叩けるか、見ものだな。大抵の奴は3日と保たない」
俺はムキになって言い返している自分に気づいた。
これでは奴の挑発に乗せられているも同然だ。
「あんたみたいな無駄に熱いデカが相手だとやり易いぜ」
その一言が俺の理性を吹き飛ばした。
今度は部下が止める間もなかった。俺は奴の顔を思い切り殴り飛ばしていた。
「主任、ダメです! 暴力はダメです!」
部下の声が取調室に響いた。何故か俺は意識が遠のき、その場に倒れた。
「大丈夫か?」
その声に目を覚ました俺は、係長の顔が俺を覗きこんでいるのに気づいた。
「意識を失ったので驚いたよ。医者を呼ぶ前に気がついて良かった。大事にならずにすんだよ」
俺は立ち上がって椅子に座った。
「!?」
我が目を疑うとはこういう事を言うのだろう。目の前に俺がいたのだ。
「さっきはすまなかったな。お前の挑発に乗ってしまって・・・。悪く思わないでくれ」
「?」
俺は自分を見た。着ている服、ズボン、靴。全部犯人のものだ。
何が起こったのか理解不能だ。
「貴様、これはどういう事だ? 俺に何をした? 何で俺と貴様が入れ替わってるんだ!?」
俺は「俺」に掴みかかろうとしたが、部下に、
「騒ぐな、大人しくしてろ!」
と取り押さえられた。係長は「俺」に、
「大丈夫か?」
「大丈夫です。最後の悪あがきですよ。どうやらこれが奴の切り札だったようです」
「俺」は俺を見て薄笑いを浮かべた。