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チョキンとミシン ~パラドックスは足元が見えない~  作者: トチ
第二章 背けた目先に芯が見えた
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第四十二話 アイデンティティは自ら示して行くほかはない

トチです。前書きは短い方が良いと思ってます。

キーボードの調子が悪いです、、だまし騙し使ってきたのですが、

言う事が聞かなくなってきたので、替え時かななんて思ってます。

有線キーボードの時代じゃなくなってきた昨今に少し寂しさを感じます。


それでは 第四十二話をご覧ください。


 空気の詰まった鈍い閉鎖音(へいさおん)、さほど軽快ではない車輪の(いびつ)な不快音。

その音はココでは聞きなれたものだ。

小さな車輪と並走する機械音のする大きな車輪、これもココで作られた音だ。


 濃紺(のうこん)の個人タクシーは電気で運行していることが明瞭(めいりょう)に書かれている。

既に辺りは暗く、走り去ったタクシーのテールランプですら(まぶ)しい。

彼女の引きずっている大きめのキャスター付きのトランクは(いちじる)しい使用感。

引き手のグリップを(つか)むその腕には不思議な(がら)のブレスレット。

逆の手には似つかわしくない大きさのスマートフォン。

その光量から足元が見えない(はず)だが、構わず足を止めない慣れた風だ。

好みの情報を(なが)めながらの足取りは軽い、ほんの数秒前まで軽かった。

グレーチングの隙間に車輪を()られるまでは。


「ちょ、あっ!」


 誰かに手首を掴まれるような感覚、アスファルトと軽量な素材の擦れ合う音。

カラカラ回る金具と車輪は、グレーチングの隙間に()われてしまった。

驚きで手を口元に持って行こうとするも、引き手の棒が彼女の腹部に触れ当たる。

握りしめた黒いグリップが顎にも触れる。

その一連を観終(みお)え満足したのか、息を引き取るように倒れ込むトランク。

慌てて子を救うように車輪を掴むが、上手く掴めず食い込んだ(みぞ)からは外れない。

片手に残った引き手の棒はその役目を(テコ)に変え、車輪と金属の(あみ)の間に差し込まれた。

彼女はえいと一息つくと金属の棒を()みつける。

痛々しく(しいた)げられる金属の棒、その行為が効果的だと信じる事は大事だ。


 固持(こじ)られた車輪はその力に(あらが)えなかったのだろう、勢いよく()を描いて跳ね上がる。

暗闇の中で変則的な輝きを放ちながら落ちていく。

への字に(ひしゃ)げる金属の棒、弧を描いた車輪は一度アスファルトを叩いた後、側溝(そっこう)に向かう。

そこには車輪が滑り込むのにも丁度よい穴が空いていた、ゴミなどが雨水の流れを阻害(そがい)しない為の仕組みであろう。

その仄暗(ほのぐら)い水の底へと落ち着く車輪、追いかけた先でピエロと目が合わなければ良いなどと考え。

消えた車輪、(ひしゃ)げた引き手、シンプルになったトランク、ストッキングの伝線した女。


 暗転したスマートフォンが再び眩しく光る。


 ―庭の青い鳥@夢見るGさんは跳ねたい が新しいツイートを発信しました―

 ―マリトッツオのクリーム全部抜いて、タピオカ詰めたらキモかったwww(閲覧注意)―


 無言でサイドボタンを押し画面を消す、ついでに今の記憶も消したい。

冷静さを()くには十分すぎる状況を作ってしまった。

自宅は目の前、両手でトランクの手提(てさ)げを掴みエントランスの光を目指す。

オールドスタイルの旅行者がポーターを探す様だ。

この時間だと管理窓口に人はいない、寂しくも感じるが都合は都合。

6011号室の投函(とうかん)ポストには地味な公共機関の封書(ふうしょ)、廃棄を待つカラフルなチラシ類。

それらを鷲掴(わしづか)みにし上着のポケットに()じ込む。


 閉じたポストの名札は"nagaoka"


 オートロックの前で四桁の数字を打ち込む。

いつも通りの自動と書かれたガラスドアが開く、そこに張られた"お知らせ"は人に読ませる気もない。

もうエレベーター前までトランクを引きずるのも億劫(おっくう)だった。

(かかと)で蹴り飛ばして押し進める、衝撃音と破片が飛び散る。

七輪(しちりん)で暖められたハマグリのように中身見せるトランク、高さを(たが)えるお気に入りのヒール。

三台並んだエレベーターのドア、呼び出しボタンを癇癪(かんしゃく)で連打。

呆然(ぼうぜん)とすると同時にエレベーターが軽快な電子音を鳴らし1Fへの到着を知らせる。

もう何もかも面倒だ、このまま蹴り続けて部屋まで押し込んでやろうと足を掛け待った。


 エレベーターのドアが開く、と同時に(すべ)るようにトランクを蹴り込む。

しかしその奥にいたのは20代くらいの男性。

彼も彼女と同じようにスマートフォンを眺めながら1Fに降りようとする。

蹴り込まれたトランクは足元から彼の顔を目がけて迷う事無く飛んで行った。

ただ蹴っただけのトランクが男性の顔の高さまで上昇する法則は物理で習わなかった。

殺人的な勢いで彼の顎を(とら)える角、やってしまったという彼女。


 そこにロマンスは無く、刺客(しかく)を送り込まれた狭い空間の数秒の一幕。

何時(いつ)もならすれ違い入れ替わるだけの瞬間。


 顎から(ゆが)む男性の顔、エレベーターの内部でピンボールのように点数を稼ぐトランク。


 洗濯を待つ衣類と舞う下着、飛沫(しぶき)()く化粧品の(たぐい)

最後にふわりと落ちるストッキング。

彼の目を隠すように落ちたストッキングは快傑(かいけつ)ゾロの様だ。

落ち着きを取り戻したトランクは彼の腹の上で見事に花開いた。


 とんでもない事をしてしまった、全ての始まりは私の歩きスマホだ。


 あれをしなければ、こんな結末に至らなかっただろう。


 震え出した手をもう片方の震えた手で押さえる。

手繰(たぐ)り出したスマートフォンを握ると少し落ち着く。


 庭の青い鳥@の、バカバカしさで助けられる。


 その手で110番、、いや119番通報を探すも見つけられない。

119番は何番だったかとド忘れした、ボイスコントロールで消防署を呼んだ。


「緊急通報119番です、火事ですか、救急ですか?」


 落ち着いた声で(まく)し立てられ慌ててしまう。

彼女からすれば事故であるが、彼からすれば事件ではないかと。

見知らぬ女に密室(密室ではない)で命を狙われたのだから事件かと。


「救急です、でもこれは事故で!」


「落ち着いてください、事故でよろしいですか?」


 息が止りそうなほど自分の呼吸が痛い。


「私がやりました、これは自首で減刑されますか?」


「落ち着いてください、こちら119番です」


「きっと禁錮(きんこ)15年執行猶予(しっこうゆうよ)3年で異議なし! なんですよね?」


 数回のやり取りで酔っ払いでない事は理解してもらえた。

なぜか執行猶予のフレーズで、トイレに行きたくなった。

でもこのままだと洋弓誤射(ようきゅうごしゃ)(要救護者)がなんたらかんたらで罪になるとかで、

急いでココの住所と、エレベーターの遺体の鮮度(せんど)を教えてとか言ってる。


「いまは私のストッキング越しに呼吸をしてて、なんていうか、、そう! とんでもない変態!

 それはもう興奮でビックビクに痙攣(けいれん)してて、すでに死んでる、と言うかすでに()ってる」


「お願いです、主観(しゅかん)は入れずに話して下さい」


「そうでした、、やり手のドⅯです」


 彼を仕留(しと)めるのに弓もボウガンも使っていない事を伝えると、

私を逃がさない為だろうか、緊急通報(あちら)さんは電話を切るなと言ってきた、、もうダメだ。

ソロでも良いからK室KみたいにNYへGETWILD(ゲッワイ)したい。

もう私の人生はもう終わりだ、もっと"あたし"とか使っておくんだった。

裁判所でそんな風な口調で喋ったら印象悪いし惡即死刑だ。

真面目な会社員の時に使っておくべきだった、後悔先に立たずってコレの事か。

あたしはあたしの知識力にキョウガクなので、字は後で調べる。


 鳴り響く救急車の音、戸袋(とぶくろ)部分の硝子(ガラス)に寄り掛かる彼女。

エレベーターからは鳴りやまない(はさ)み込み注意の警告音、その隙間から見えるスニーカー。

そのドアが閉まるたびに揺れる爪先が不気味だ、彼女の青ざめた顔は意に反して朱く染まる。

最大までサイレンが鳴った所で赤色灯(せきしょくとう)が辺りを照らした。


 停止した救急車は、その騒がしいサイレンを止める。


 泣きそうな彼女は大きく救急隊に手を振る、私が大変ですと言わんばかりに。


 水色の救護服を着た隊員が二人小走りでやって来た。


「けが人は何処(ドコ)ですか?」


 彼女は呆然とエレベーターを指し硝子を(ささ)えにへたり込んでしまった。

しばらくすると救急からの要請でパトカーも到着した。

救急隊員の一人は彼女に付き添い(なだ)めている。

そこへ警察官が入れ替わるように彼女のもとにしゃがむ。


「大変でしょうが、いくつか質問させて下さいね」


「、は、、い」


 彼女の身元確認を行ったあと、それは始まる。


「いったい何があったのですか?」


 これまでの経緯を感情の(たか)ぶりなどを含め淡々と話す。

長くなるだろうか、全てを話し終えると私の罪は決まるのだろうか。

エレベーター前にトランクを蹴り込む辺りまで話を進めると、

一人の救急隊員がこちらへ近づいて来る。

あゝきっと彼は天寿(てんじゅ)を全うしたのだろう合掌(がっしょう)


 しかし警察官に用事があったようで私は放置される。

私に聞こえないほどの小声で交わされる会話。

また目線を合せるようにしゃがむ警察官の圧力が怖い、逃げたい。


「あなた、"長岡 海"さんですよね?」


「は、い、、」


「あの男性とはお知り合いですか?」


「いいえ、、海外が多いもので、この辺は管理さんぐらいしか、、」


「あの男性のポケットからコレが」


 警察官が見せて来たのは"長岡 海"名義の預金通帳が4冊と(おび)でまとめられた現金。

裸の印鑑(いんかん)も5本出てきた。次から次へと出てくるブランド物の私の時計。


「あなたおそらく空き巣にあってますよ」


 間髪を入れずに返答する。


「だと思って、倒しておきました」


 警察官の愕然(がくぜん)驚愕(きょうがく)の表情が印象的だが、私は勝訴(かちかく)だろ?


「、、あの男は軽い脳しんとうで、救急車で病院に運びますが

 長岡さんはもう少し署でお話を(うかが)いますね」


「へい、、、、」


 その日は結局、警察署にお泊りとなりました。


 クサイ飯は食べなくてすんだけど、カツ丼を頼んだら自腹(じばら)でと言われました。

被疑者(ひぎしゃ)がカツ丼を頼んで説伏(ときふ)せられる事はあるらしいです、

でも事情聴取(じじょうちょうしゅ)でカツ丼を頼んだのは私が初めてらしいです。

"深夜にてんやもんは頼めないからね"って誤魔化(ごまか)されました。


 次からは落ち着いた大人の行動をするようにと注意されました。


 あいつら上手くやってるかなぁ。


 あと歩きスマホは絶対にやめましょう。下手すれば無期懲役(むきちょうえき)です。


 ウソです。



いかがでしたか?

覚えていますか海さんです、大事なポジションなのに

あまり活躍出来ていないって意味で今回登場させたわけではありません

悪しからず、、アシカのラズなんてキャラクターも出しません 多分

評価など頂けると今後の励みになります。

宜しければブックマークの登録もお願い致します。


二章 第四十三話 サブタイのサブタイ「帰家穏座」

また皆さんとお会いできるのを楽しみにしております。

誠意執筆中です。

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