第四十話 水で満たされた盆は、零れたほうが話題になる
トチです。前書きは短い方が良いと思ってます。
毎日暑い日が続きますね、体調など崩してはいませんか?
私はそうめん、そば、冷やし中華のサイクルでスタミナ切れそうです。
と言う爆発力の無い前書きです。スタミナ切れってこういう事ですね。
それでは 第四十話をご覧ください。
俺の頭の中は整理が必要だった。
素粒子の言うところの整理ではない。
繰り返した時間と違った事象を比べてみたくなった。
ただそれに正確さも何もない。まるでイタ飯ファミレスの間違い探しの様だ。
他人から認識されていないのだから確かめる事は不可能だろう。
こんな事が起こるなら周りをよく見ておくんだった。
薪を探しに外に出て戻ってきたら、暖炉の前で火を付けようとした時に戻った。
さすが俺だと、このまま口に出したら意味が分からない。
メイじゃなくても頭がおかしくなったんじゃないかって疑う。
メイを記憶の中で二度目となる水汲みに送り出した。
あの巨大な壺を軽々抱え、戻って来た時の合図も決めて。
メタルマッチの被膜をストライカーで擦りながら考えていると。
両の肩が少し重くなり耳たぶに温もりが伝わる。
重くはないがこういうのはどこか照れ臭いし、何年か連れ添った男女のする事だろう。
手元に集中し知らぬフリでやり過ごす。
「ねねッ? それナニ?」
興味があるのかニシキの肩に顎を乗せ白い息を吐く。
「え、あぁこれは"メタルマッチ"って言って
コレを擦ると火花が散って、乾いた木とかに火が点くんだよ」
女の子はあんまり知らないだろうな、サバイバルキットの中身なんて。
「そこの"カマド"に火を点けるの?」
「うん、まあ、、これは"暖炉"なんだけどね」
笑顔も違うかなって、その表情でボソッと答えた。
「ふーん、、その枯れ葉に火を点けるの?」
「うん、、段々と火を大きくしていくんだよ」
被膜が削られ地金の光った部分が露出してきた。
ほんの少しだが火花も出るようになっている。
でもさっきも同じ事してたんだよな。
そんな当然の事を考えていたら左肩が少し重くなる。
俺の肩口から出た左手はだらんと身体の前に下がっている。
中の良い友達と肩を組んでいるように。
ミシンさんは手持ち無沙汰からか持て余したのか、
紙縒りを作るように指を擦り合わせていた。
「んじゃ擦ってみるから見てて、、」
メタルマッチを擦ろうとしたが、小枝から細い煙が上っている。
消え入りそうなジリとした音が火を灯す。
「まだ擦って無いんだけど、なんかした?」
真横にミシンさんの顔があると横を向けない、空々しく目線だけ上を見る。
「火花が飛んだから掴まえた、、ちくっとした」
俺の苦労さ? 火花さえ出れば良かったって事、、
なんか凄いね魔術。きっかけがあれば良いんだ。
「コンリーなら火花無しで点けれるよ」
上級者はそんなきっかけもいらないんだ、、
「そなんだ、、」
「ほれほれ、はよう消えてしまうぞ」
確かに感心してる場合じゃないよな、せっかくの火種が消えてしまう。
追加の枯れ葉と小枝を弱弱しい火で炙る。
燻された小枝から軽い破裂音がし線香のように赤く熱を出す。
「ミシンさん、その声なに?」
「キン、それ誰のモノマネ?」
気の抜けた声が鉢合った二人は顔を見合わせる。
「寒いんじゃからはよぅ」
声のした方へ目を向けるとそこには、
膝で頬杖を突きヤンキー座りをしたキツネがいた。
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うわっ何か柄悪い、コンビニの前でたむろしてそうな。
"見世物じゃねーぞ"的に絡まれそうな。
ではなく野生動物が館の中にいる、一体どこから入ったのか。
中型犬サイズの生き物は、まさに気怠く人っぽく佇んでいる。
アニメなソレではなく毛並みや息遣いまで動物だ。
こっちを見るなと言わんばかりに前足を上下に払う。
逸らした視線は少しだけ優麗だった。
「何にしても良いが、床を焦がすで無いぞ」
ほんの数秒だろうか、その言葉で火種は失われなかった。
立ち上った煙と共に枝と枯れ葉を暖炉に納める。
次々とくべられる枝と枯れ葉だが、暖炉の良い場所には入っていない。
ニシキの意識はあのキツネに向いていてそれどころではない。
少し長めの枝で熱の中心を薪に近づける。
ニシキは当たり障りの無い言葉を選びつつ口を開いた。
「もしかして神様ですか? 森の精霊とか?」
これは失礼じゃないだろうか? 神様以上って事も無いだろうし。
ケモナーならこれほどのシチュエーション大喜びなんだろうな。
「そなたらが崇め奉るならそれも良いが、我はただのキツネじゃ
じゃからとて不遜な扱いは不満じゃがの」
翻訳が正しいか分からないが、それなりの年齢なのだろうか。
動物としてソレなりなのかとも考えた。
「館に勝手に入ったから祟られたのかと、、」
自らキツネと名乗ったソレは、しゃがんだまま辺りを見回す。
「なんじゃ? コンリーは居らんのか?」
違和感なく二足歩行に立ち上がると足音も無くソファに近づく。
蓄えられた胸元の淡い白、尾の先まで艶やかで話し方との差異がある。
ただ体躯が人に近い訳でもなく前足は胸元で合わさっていた。
「お主ほどのものが、此の体たらく、、」
動物に表情を求めるのは違和感しかないが、
痛々しい視線は、弱者を憐れんでいるかのようだ。
直立はバランスが悪いのだろうかソファに寄り掛かる。
「放って置かんでも癒してやればよかろぅ?」
「癒すったって薬も何も持っていなくて」
「魔術で良かろう? 薬学は我もよう知らぬ
ほれ、そっちの耳長、そうじゃお主じゃ、やってみぃ」
前足をミシンへ向けると前後に振る、どこか癖になる身振り手振り。
「無理無理無理! コンリー幼稚園あじさい組だし」
火の扱いも未熟で、癒しの術も経験がない。
これもまた何かしらのきっかけが必要だろう。
「なんじゃ癒しも使えんのか、、仕方ないのぅ」
モフっとした前足をコンリーへ伸ばすが、
ミシンは両手を振りながら制止しようとする。
「まって待って、、エキノコックスとか大丈夫ですか?」
「バッチく無いわ! れでーに失礼じゃぞ!」
ちょっと可愛いと思ってしまった。
「女性だったんですね、なんかごめんなさい」
「いやまず不浄に思った事を、、ってもう良いわ
其処に直って見て居れ」
ニシキが丁寧に包んだエマージェンシーシートは懇切雑に剥かれ、
両の前足で器用に鎖骨の下が見えるように服を捲る。
捲られた服と下着の間からは血色の悪い青白い肌が覗く。
下着の腹部の辺りは未だ生々しい血液の痕と、下着の裂けも伺えた。
その下着もヘソの上まで捲られる。
この表現は正しいが良くない、遺体安置所の見分だ。
「戯けは差ほど変わっておらんな
男は易々と見るものでは無いぞ」
メイよりも小柄な狐は露わになった肌を2・3度触れながら確かめる。
見間違えではないだろう、薄い霧で出来た漏斗の様な何かがコンリーの上に浮かんだ。
「肉体と精神の繋がりを正したもう
堰は無用、期は実雪、落水を持て命流に浸す、
清はリンイ草、命は浅水藻を頂き
いづれも彼の世の糧とならん事を誓い」
漏斗の中に濃い緑と黄緑がマーブルのように渦を巻きながら満たされていく。
―リバジェネーション―
漏斗から零れ落ちる新緑色の何かは、コンリーの全身に満たされ色を無くす。
「どうじゃ? コレが癒しの術じゃ」
鼻先を仰ぐように前足を揺らすと、尻尾を箒のように揺らす。
正直凄いと思った呪文みたいなの唱えてたし。
ただ俺が見て来た魔術とは少し違うなって。
グライデルの毒抜き魔術は体の中の紐を引き抜くみたいな感じだった。
それに呪文? も唱えていなかったし、この違いはいったいなんだ。
「凄いです、全く理解できなかったけど見直しました!
ただの喋るキツネじゃなかったよ、キン!」
ワザと俺を巻き込んだな。
「当り前じゃ! そもそも何じゃお主は
オドが良いのに魔術は使えんとは、どうゆう事じゃ!」
ソファの生地がこすれる音、それに合わせて額をひと撫でするコンリー。
「、、カラメル、、ありがと、私から説明させて、、」
白く細い指は、カラメルと呼ばれた狐の二回り以上小さい腕を包んだ。
「説明なんて面倒は御免じゃ」
感謝の言葉に照れたのか、俯き顔を背ける。
「お力をお貸しください、詩聖の賢者」
逆手で削ぎ落とすようにコンリーの手を解く。
「その名は捨てた」
カラメルはまた優麗な視線を作ると、何処へでもなく瞳の光を散らした。
いかがでしたか?
キツネです、ずる賢かったり化かしたりとあまりイメージが良くないのですが。
私は結構好きなんです、だってお稲荷様ですよ。
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二章 第四十一話 サブタイのサブタイ「昔日寛大」
また皆さんとお会いできるのを楽しみにしております。
誠意執筆中です。




