第三十八話 思い出はモノクローム
トチです。前書きは短い方が良いと思ってます。
やかんにお湯をためコンロにかけ、沸くまで眺めてしまう。
コーヒーを淹れて暖まろうとするのですが、眺めてる間に益々体が冷えてしまいます。
ティ〇ァール買おうかな~なんて、穏やかな時間を切り詰める事を考えてしまいました。
それでは 第三十八話をご覧ください。
手袋があると多少は寒さも和らぐかと。
そんなものは無いのだけれど、軍手とか革手袋とかね。
玄関の階段を下りながら足元を見る。
木製の階段は白く霜を被っており、いかにも滑りそうだ。
外套越しに手すりを掴み慎重に下りる。
爪先に刺さるように冷気が伝わる、それもそのはず砂漠仕様のサンダルだ。
靴下さえ履いていないのだから、まともに考えれば異常事態である。
風呂上がりにコンビニへ行くのだって靴下ぐらいは履くし、冬にサンダルって事もない。
館の周囲では焚き付け用の小枝は簡単に見つかる。
ただ暖炉でしっかりと燃やすような太い薪は見つからない。
集めた小枝も資源は資源、館の階段下まで運ぶ。
ニシキには少し気になっている事がある。
この寒気だと雪でも降るのではと感じている。
今は冬の初めなのだろうか終わりなのだろうかと。
俺たちがこっちに来なければ、コンリーが冬支度として、
薪集めやら保存食の準備などをしていたのだろうか?
このジリ貧な状況が改善されなければ、数日で非常事態に格上げされるだろう。
かじかんだ指を擦り合わせながら立ち上がると、目線の先に人工物を感じた。
高床の桁上げされた館の下部分、暗がりの先に何かがある。
サバイバルキットのミニライトを取り出しそちらを照らす。
「なんだ? 木箱か?」
それほど高くない床部分に頭をぶつけないように中腰で潜る。
ホラーゲームの様に逃げ場のない感じがして少し不気味だ。
薄暗い床下はミニライトでは心許なく、左右に振る事でそれを補った。
階段がある位置から7、8歩進んだろうか全容が見えた。
大きな犬小屋の様で、簡単な扉も付いている。
留め具や錠前のような物はなく、容易く開きそうだ。
薪が見つからなければ、最悪これを壊して燃やすのも手か?と思っていた。
扉に手を掛け引き開けると中には待望のそれがあった。
恥ずかしながらガッツポーズが出てしまう。
三畳ぐらいの小屋の中には当然のように当たり前のように、
整然と積み上げられた薪の束、しっかりと乾燥まで済んでいるようだ。
しかし下の方の薪は地面と同化し始めており、色の淡い木屑も散らばっている。
その反対側には薄汚れた布に包まれた何かがある。
「こっちも、、薪かな、」
その布はあまり綺麗な様子ではなく、汚物でも触るかのように端を摘まみ捲った。
「え、、えぇ!! これって」
そこにあったのは、側車付のバイクだ。
見覚えがある形、いつかこんなので日本一周したいなって。
細かい傷や錆はあるが、最近まで現役で走っていたかのような保存状態だ。
部分部分年代の違うパーツが使われているようで、
ピカピカなクロムメッキのパーツも有るかと思えばミラーは曇っているし。
ステップ部分には乾いた土が付いていたりと使用感がある。
不用心に鍵まで挿しっぱなしだ。
ただこちらではガソリンやらオイルなんかは手に入らないだろうし。
きっとガソリンタンクの中は錆びだらけだろう。
少しの勿体なさと、あちら側の懐かしさも。
と同時に何故ここにコレがあるのかも不思議に感じていた。
その答えは恐らくコンリーが握っているのだろう。
やはりと言うか彼女の回復こそが、今の状況を良く出来るのだと思える。
布のカバーを元に戻し、両脇に持てるだけの薪を抱え扉を閉めた。
-------------------------------------------------------
館の床下からジリジリと蟹が這い出るように出てきた。
この体勢は少しだけ腰に来る、薪を抱え過ぎたせいだ。
燃料のありかが分かったのだからマメに取りに行けば良かったなと。
先ほどより寒さが和らいでいる、せっかく外套を作ったのに。
それほど外にいなかったのは不幸中の幸いだろうか。
いつまでも薪を両脇に抱えているのは辛いと感じ、
そそくさと階段を上がる木で組み上げられた階段は、
少しだけ霧を吹きつけた様な湿り方をしている。
そこは土で汚れ足跡が転々と上へ続いており、他者の訪れも否定した。
入り口の前まで来るとタイミング良く扉が開いた。
大きな壺を抱えて出てきたメイは腰で扉閉める。
「おっ! 待っててくれたのか! ありがとぉ」
瞼も瞳もまん丸だけど輝きがない、どころか暗く怯えている。
何か言おうと口が開くが、発する言葉が出来こない。
少し白く煙る息と、唾を飲み込んだであろう喉が鳴る。
ニシキと扉をゆっくりと見返す。
「水足らなかった? そんなに料理頑張らなくて良いって」
メイは短くヒュっと息を吸い込み、やっと声を出す。
「あ、あなたダレ、ですか?」
サプライズ?存外それ自体は嫌いじゃない。
ビックリさせて喜ばそうなんてのは好きな方だ。
フラッシュモブの当事者は恥ずかしいが、それを恥ずかしがる姿は好ましい。
こちらを凝視しながら、そろっと抱えていた壺を下す。
その影からメイは全容を現すと同時に、ジリっと後ずさりした。
目線が外せないのか後ろ手にドアノブを掴もうとするが空を切る。
「ヤダ!! お兄ちゃんがいる!!!」
「はい? お兄ちゃんです、ここにいますが?」
ニシキの返答に我を無くしたのか、メイの金切り声が扉の前にけただましく響く。
もうヒステリックなそれだ、いまにも過呼吸になりそうなほど。
ニシキが一歩近づこうとすると、ストンと腰が落ち踵で逃げようとする。
バッタが地面を蹴るような勢いで後ずさりをした。
既に閉じられている扉がその行く手を遮り逃げられない。
その演技はやりすぎだな、などと思いながらも腕が怠く限界だった。
階段上のデッキに抱えていた薪をバラバラと撒くと、
凝った両肩を解すように首を竦ませ、また一歩メイに近付く。
「ごめんなさい ごめんなさい ごめ、、、、許して!」
「もう十分ビックリしたし楽しかったし そろそろ中入るよ」
ニシキはやれやれと言った感じでドアノブに手を掛けようとする。
「だめ! お兄ちゃんがいるの連れてかないで!」
「、、、ねね? これって何なの?」
尻もちで扉を死守するメイ、しゃがみ目線を合せるニシキ。
ほんの数秒だろうか互いの瞳孔が離せない。
怯え方が尋常ではない、瞳に貯まった涙がジワッと頬に滲む。
深く息を吸い込み目線を上に外す、ふうと一息吐き両手を上げる。
どの世界でもホールドアップは敵意が無い事を示すのには有効だろう。
普通は怯えている側が両手を上げるのだが。
メイは少し落ち着いただろうか。
「だって、だってお兄ちゃんは中にいて
こっちにもお兄ちゃんがいて、、誰なんですか?」
そう言われると少しだけ頭痛がする。
この痛みは寒さからだろうか、寝不足だからか。
理解を急ぐと言うより、実際に中を見れば良いのではと考える。
「んじゃあ中を見てみれば、分かるよね?」
「でも貴方が"死之神"だったら連れて行かれちゃう」
「シノガミ?って死神? 俺の身体はここに有るし生きてるし」
難しく考えなければそれだろうと思い。
メイの前に人差し指を突きだした。
「さわってみて?」
メイは震えながら人差し指の腹を寄せる。
こそばゆい感触が互いの指紋に触れたかのように伝わった。
宇宙人と遭遇した少年の様な場面だった。
この場合ニシキが異質なエイリアンなのだろうが。
信用して貰えたのか、メイは手首で滲んだ涙を拭い立ち上がる。
その姿を見て安堵と別の不安が押し寄せる。
もしも中に自分がいたらどんな反応したら良いのかと。
普段のニシキを見せようと無理に作り笑顔を出す。
「んじゃあ中の俺? に挨拶しに行くか」
小気味よくドアノッカーを二回叩くと、
扉がロックされ中に入れなくなった。
いかがでしたか?
猫派や犬派の方がおられるかと思いますが、私はヒツジ派です。
メイのイメージは、ラムチョップというアメリカのハンドパペットです。
"ラムチョップ"だけで検索すると、お腹が減るので"ラムチョップ ハンドパペット"で気になった方は検索してみてくださいね。
評価など頂けると今後の励みになります。
宜しければブックマークの登録もお願い致します。
二章 第三十九話 サブタイのサブタイ「殊塗同帰」
また皆さんとお会いできるのを楽しみにしております。
誠意執筆中です。




