第三十七話 美人博識で情に厚い
トチです。前書きは短い方が良いと思ってます。
少しばかりの時間が取れて作品に向き合う事が出来ています。
と同時にこちら側にのめり込むことの怖さも覚えます。
それでは 第三十七話をご覧ください。
今いる広間はそれほど広くはないが、少し異質な感じがあった。
入り口の扉を背にすると左右で非対称な色感?である。
ソファを境に壁の色、床の色が対照的に違っている。
唯一左右を跨ぐ物としての天井の照明がある。
彼の世ではこれが普通なのだろうか、などと考えていると。
トテテとメイがソファの奥の低いキャビネットに近づき、まじまじと棚の様子を探っていた。
本棚の様な建付けの家具に、色様々な厚みの無い本が数十冊収まっている。
こちらでの製本の技術はそこそこ進んでいるのだろうか。
「これって、きっと魔術の本ですよね?」
「ん~分からないけど、魔術の本ってもっと厚みがありそうだよね」
これは俺の勝手な想像だ、なんか魔法使いって
部屋中に分厚い本を無造作に積んであったり。
小脇に抱え片時も手放さなかったり。
豪華な装飾の分厚い本で "3hit"とか物理で殴ったりしそうでしょ。
そうするには何処か頼りない。せめて週刊少年誌ぐらいの厚さは欲しい。
それが部屋中に積んであったなら、映画パンフレットの収拾家か、
折込チラシが重なっているようにしか思えない。
小脇に抱えていてもまるで、テスト用紙を配っているみたいだし。
物理で殴るにしても丸めて叩くぐらいで、ダメージも"0"しか飛び出て来ないだろう。
スパーン!っていい音は出るよな。
暖炉側で周囲を探っていたミシンさんもこちらが気になったようで
俺の視線の外から声がかかる。
「その本?、、の作りって、なんて言うか、アレ
、、私しか理解できないだろうけど、、」
確かに時代が、世界観に質感が合っていないと感じる。
彼の世の産業はまだ知らないが、アテノの文化や民具などを
考えれば、それとは違うのだとも思える。
コンリーさんの店で見たのは紙ではなく羊皮紙に似た、
何か厚みのある皮素材だった気がする。
「、、薄い本よね、、、コレ」
ん?まあ見た目の話をしてるなら、そのままだけど
それって内容の説明になっていないよな?
聞き直すのが正しいか分からないが。
「薄い本ってのは分かるけど、それ魔術の本なの?」
「ある種のマジックアイテムではある」
ミシンさんの口は真一文字に閉じ、薄目に向けられた視線。
やはり"彼の世"の事は予め学習していたのだろう。
異世界に対する、その強みは俺に無かった。
もっとこの世界の事を俺は知らなければならないと痛感した。
薄い本に手を掛けようとするメイ。
それを言葉で制するミシン。
「チビッ子にはまだ早い、萌えるから」
「えぇ!?火が点くんですか?」
「あと、、コンリーが暗黒に落ちる」
「呪いの罠まで、、、」
メイの止まる腕、伸ばした指先が震えていた。
「いつかその時が来るまで、ページをめくるのは留めておいて」
「、、、はい」
神妙な面持ちでミシンの瞳を見つめるメイ。
ミシンは瞬き一つでそれに応えた。
二人のやり取りに俺の緊張が緩んだ。
ミシンさんの知識は俺の緊張を解してくれる。
頼りになるのとは少し違うが自信に満ちている姿が、
"斯の地"での姿となんら変わらず安心した。
冷やかしの客をたしなめている、あの時の姿と重なった。
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ソファ周辺には背の低いランタンや、大小の壺などが置いてはあるが、
これと言って生活に関するものでは無く、なにかしらの説明が必要である。
大きな壺には形成された木製の棒、よく見ると細かい紋様の溝が彫ってある。
長さは様々でまるで土産屋の木刀さながらに乱雑に差し込まれていた。
小さな壺の中身は砂のような粉のような物質で満たされている。
目の細かい土のような粉、赤黒い粉、抹茶のような粉も。
ただそれ自体の意味は皆目見当もつかないが、少なくとも食品では無い様だ。
アテノの店で見た天秤状の器具などもあるが今は必要では無さそうだ。
「そんな事より燃料になりそうな物とか
調理が出来るかとか調べないと、命にかかわりそう」
タイミングよくミシンさんが切り出してくれた。
本能だろうか危機的タイムリミットに気付かせてくれる。
「そだ、それ急がないと、コンリーさんも回復させられない
って事で分担をしよう、思い付きなんだけど聞いて欲しい
まずメイは暖炉を使って持ってきた食材を調理をする
ミシンさんは館の探索をして部屋を把握してと、
俺は外に出て、燃料の調達に出るってのはどうかなと」
少し伸びてきた髭を擦りながら、二人に納得して欲しく伺う。
それを納得出来ないのであろうメイが声より先に口が出る。
「外に出るなら私だと思います、わたし寒さに強いですし
お兄ちゃんより力もある!私に行かせてくださ、」
ニシキは目を瞑りながら首を横に振る。
「その力はココで温存して欲しい、万が一ここが襲われた時に
俺じゃ二人を守れる自信がないんだ、外で何かあった時はメイじゃ連絡取れない
腕輪を使って危機を伝えるのは、俺かミシンさんでしょ?
でもミシンさんも病み上がりって事で、外は俺が適任」
「ん、、んん」
納得してもらうつもりだが、心配されていることも嬉しい。
「心配すんなって、館が見える範囲で回収してくるし
目的はあくまでも燃料になりそうな薪とか枝で
それ以上の無理はしないから」
「、分かりました、、ちゃんと帰って来てね」
そういうフラグは怖いんだけど。
"帰ってきたら一緒にサラダ食べよう"とか言えない。
口に出した途端、色んなフラグ立ちそう。
「キン、心許ないだろうけどコレを持って行って?」
そう言うとミシンは窓辺の黒いカーテンを引き千切った。
それは一瞬の出来事でニシキとメイは言葉も瞬きもない。
ミシンの行動に迷いはなく、カーテン=防寒具の図式である。
羽織って外套がわりにすれば多少は違うと思います。
でもやる事が荒いです、覚醒た鉄男ぐらい乱暴です。
そもそもこの世界にはカーテンの"シャー!"ってヤツが無いから、
ブチブチッ!引き剥がしてるし、世紀末の荒くれ者ですよ。
アレ?ミシンさんってこんな脳筋だった?
俺の中のモンサンミシンが瓦解していく。
「あ、、ありがと、大事にする」
「うん!いざとなったら燃やして暖まってね!」
ソファで寝ているはずのコンリーさんの眉間に、
溝が入ったのは気のせいだと思いたい。
このまま羽織るのも良いが、片手が塞がってしまうので細工しよう。
サバイバルキットの中に解すとロープになるキーホルダーがあるので、
それを解き、カーテンを羽織った時に首の辺りに来る位置に、
ナイフでグルッと等間隔で穴を空けていく。
表から裏、裏から表へとロープを通していけば、
雑だけど肩からずり落ちないギャザーの完成。襟が立つので多少の防風になる。
襟にした前の部分を安全ピンで留めれば、不格好だが尚良くなった。
俺の身長でも裾を引きずってしまうので、ここも安全ピンで数か所裾上げ。
フードが欲しいと思ったが、今はこれが限界。
「どう?似合う?」
「良いと思います、まだ仮縫いって感じですが」
「ル〇ーシュが良かったのに、ボン〇ルド感にガッカリ」
"おやおや、メイは、かわいいですね"とか言わないからね。
「んじゃ帰ってきたら、本縫いで直してね」
「キン、なんか冷たい」
「ん、、なんだその、ツッコみはマズいなって」
薄々感じているって事か、まぁここで暴走して欲しくないし。
冷たいって思われても仕方ないか、聖者の資質ってコレの事なのか?
魔術を使う者に負荷を掛けて暴走させる。
ツッコミは優しさだと思ってた。皆を楽しませようとしてる人への、
合いの手だと思ってやってた。ある種のコミュニケーションだと。
―楽しいのが良かった―
出来れば、出来るならばミシンさん以外で負荷の素質があるか試したい。
ミシンさんじゃなければ多少の事も目を瞑れる。
ミシンさん以外なら善悪に囚われないかも知れない。
ズルイかも知れない、身近な人だから傷付いて欲しくない。
ポーンはさほど重要じゃない、クイーンは危険に晒さない、
俺はキングにはなれないが、ポーンとしての捨て駒には成れるだろう。
こんな風に考えては駄目だろうか、、、盤に乗る俺だけで良かった。
―それで良かった―
「それじゃあ、各々作戦開始って感じで!
あまり豪勢な料理は作らないで、先を見据えてな
食料調達も今後は考えなくちゃだし」
「分かりました~」
「、、うん、キンも気を付けて、、分かった?」
あえて目線を逸らしたが、右手の親指を立てて応えた。
いかがでしたか?
ボケたがるミシン、おいそれと突っ込めないニシキ
痒い所を掛けない辛さは皆さんで自由に突っ込んで下さいね。
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二章 第三十八話 サブタイのサブタイ「灯台下てらう」
また皆さんとお会いできるのを楽しみにしております。
熱意執筆中です。




