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チョキンとミシン ~パラドックスは足元が見えない~  作者: トチ
第二章 背けた目先に芯が見えた
35/43

第三十五話 普段の技が光るし、鼻高々にもなるし

トチです。前書きは短い方が良いと思ってます。

世の中の忙しさに付いていくのがやっとです。

流行り廃りの忙しさも似たりと、変わらずの喜ばしい事この上なしです。

ネコってやっぱり可愛いのネコの日投稿です。


それでは 第三十五話です。


 隠れ家の周囲には、白骨化(はっこつか)した動物の骨が散らばっている。

返事がないどころか断末魔(だんまつま)すら聞こえない。

なぜ骨があるのか理由が掴めないと、立ち入りたくないと、

ニシキの本能的な危険感知の嗅覚(きゅうかく)()える。

この建物の周囲だけにバリアなのかトラップなのか、

それを感じさせる何かがここにはある。


「ここヤバいんじゃないか? 近づいたら即死(そくし)しそうだぞ?」


「魔術師の(やかた)ですからね、なんかありますよ~」


 案外軽く言うんだな、俺より理解が早いな。

館っていうより山小屋だけどな。


「これ入って平気かな? 家主(やぬし)いるし」


(ため)しに石投げてみます?」


「まっ試しにな」


 メイはコンリーを抱えたまましゃがみ込み、

路傍(ろぼう)の石を見つけ軽くヒョイと館の方向に投げてみた。

石は木の板に当たった様な音がし地面に転がる。

落ちた周囲に細く青白(あおじろ)い光が走った。


「コレたぶん結界(けっかい)があると思う、ます

 入るのには術者の許可が必要かなって、です」


「俺たちが来ることはきっと予想してただろ?

 警戒(けいかい)せずに入ってみるのが正解かもよ」


「コンリーさんを先頭(せんとう)にして入る? ます?」


「なかなかエグイな」


 一蓮托生(いちれんたくしょう)って事も(ふく)めて全員で一緒に感電(かんでん)かな。

ミシンさんも巻き込んじゃってごめんね。

って言うのはジョーダン俺だけ入るのが得策(とくさく)だな?

結局まだまだ俺が足引っ張りそうだし。

電気柵(でんきさく)みたいな感じだし感電したら助けて貰えるかな?


「俺が先に入るよ、なんかあったらヨロシクね」


「うぅ~ん、三人は持ち上がらないかも、です」


 人が帯電物(たいでんぶつ)に触る時は確か手の甲を当てるんだよな?

手の平で触ると筋肉の収縮(しゅうしゅく)で掴みに行ってしまうらしい。

離したくても離れなくなるってサバイバルの人が言ってた。

左手はパックリ切れてるし血もガチガチに固まってるし、

右手しかないよな痛かったらヤダな焦げるのもヤダな。


 ミシンをメイに預け距離感の分からない透明な壁に近づく、

わざとではないが固唾(かたず)を飲み込みソロリと手の甲を向ける。


「やるよ、行くよ、、うぉ!」


 気合を入れて手の甲を突きだす、

まるでジャ〇キーの酔拳の形みたいだ。

手応(てごた)えがない、壁があるであろう場所に波紋(はもん)が広がる。

いつでも手を引けるように構えていたが拍子(ひょうし)が抜けた。

試しにもう一度触れるが何も起こらない。


「カッコ良かったです、、うぉ! って」


「カッコ悪いから、止めて、、」


 そう言いながらミシンを抱え上げる。

問題なくココには入れるらしい。

結界の中に(そろ)って入ると外から見た建物がない。

木製のロッジでは無く、しっかりと建築された館である。

周囲の罠だけではなく外観(がいかん)までカモフラージュされている。

館は1メートルほど桁上(けたあ)げされた洋館(ようかん)のようだ。

アテノの店に(くら)べると非常に地味(じみ)に感じる。

森でこんな洋館を見つけたら魔女を(うたが)って近付かない。

正面には階段(かいだん)があり、その先にテラスと扉が見える。

両脇の(まど)には黒いカーテンが掛かっておりそれも不気味に見えた。

屋根も黒い魔女の帽子の様な形をしている。


「なんかコンリーさんの(あこが)れが垣間(かいま)見えるな」


趣味(しゅみ)がたっぷり出てますよね」


 そうなんだよな魔術師になったからには、

こんな家に住まなくちゃってのが(かも)し出てる。

ラーメン屋にはラーメン屋の病院には病院の雰囲気(ふんいき)ってのがある。

ココはやっぱり魔女の館に相応(ふさわ)しい。


「勝手に入って良いのかな?」


「家主ここにいますし、良いんじゃないですか?」


「そだよな、、」


 ニシキは正面の階段に一歩足を掛ける。

すると扉の横のランタンにジリジリと火が灯る。

階段に対しハッキリとした陰影(いんえい)が出来た。

元々薄暗(うすぐら)かった周囲に(わず)かばかりの道が出来た。

道具を使った仕掛(しか)けと言うよりも魔術のようだ。

二歩目三歩目と上る度に光量(こうりょう)が増していく、

二人はその明るさに安堵(あんど)を感じる。

扉の付いたテラスに上がると右にはテーブルと椅子が、

左にはロッキングチェアとサイドテーブルが、

用意されており多少の生活感がある。

扉には二羽の鳥が輪を(くわ)えたドアノッカーが付いており、

なんとなくだが二度叩いてみる。

それはニシキのいた世界ではもう(めずら)しい代物(しろもの)だった。

少しだけ楽しく感じるニシキ、メイの背丈(せたけ)では届かないであろう。

メイは(うらや)ましそうにその姿を(なが)めていた。

ドアノブには触れていないがスゥっと扉が開く。

まるで家主の帰りを(むか)え入れたかのようだ。


「おっ、自動ドア、、お邪魔しまーす」


「お邪魔しま~す」


 室内は少し黴臭(かびくさ)く長期間、留守(るす)にしていた事が分かる。

中に一歩進むと天井から下がっている明かりに火が(とも)る。

この明かりは火と言うより電気照明(ライト)の様に明るい。

()り下がった照明は中央から四本の足が出ており、

個々の高さが違い先は植物の(つる)の様にしなっており、

小型のランタンが(つる)るされている。

部屋の右側には二階へと続く階段とソファセット。

左には暖炉(だんろ)と奥へと続く扉も見える。

一人掛けのソファにミシンを座らせ、

広い多人数掛けのソファにコンリーを運んだ。

ここは冬の避暑地(ひしょち)の様に肌寒く館を(あたた)めようと暖炉に向かう。

メイは周囲を見渡(みわた)し何かを探している。


「メイ? なに探してんの?」


「なにか掛ける物でも無いかなって、、」


「あー止めとけ、たぶん有ったとしても

 カビだらけで使いもんにならないから」


「そうですね、、」


「それより、バケツかなんか探してくれ

 それ川で洗って水()んで来てくれないか?」


「ばけつぅー」


「水が()められれば何でもいいよ」


 こっちじゃなんて言うんだ?

水桶(みずおけ)か? 水嚢(すいのう)か? 何でも良いか。


 メイは頭がすっぽりと入りそうな口の大きな壺を見つけ出し、

両手で軽々と持ち上げ館を出て行った。


「さて、、こっちは暖炉に火を付けなきゃだけど

 マッチもライターもない」


 (まき)自体は暖炉のわきに山積みになっているが、

こんな太い薪、(じか)に火なんか付かないしな。

やっぱアレ使うか。


 ニシキは腰の辺りを探ると離受盤と預金通帳を取り出す。

数ページ(めく)り指差し間違いがない事を確認して通帳を閉じる。

床に通帳を置くとその上に離受盤を乗せた。


 使う事は無いだろうと思ってたけどな、

何となくいつか役に立つかな? ってぐらいだったけど、

ホントに使う日が来るなんてな。


 数分後にじわりじわりと黒い箱状の物が浮かび上がる。

プラスチック製の箱で二か所に()()が付いており、

箱に光沢(こうたく)は無くペンのような物も刺さっている。


「ちゃらららっちゃちゃ~! サバイバルキット!」


 なんて言いたくなるよな秘密道具(アレなヤツ)ゲットだぜ!

中にはナイフとかファイヤースターターとか、

ミニ懐中電灯(ライト)なんか入ってる、ただ中身がイマイチなんだよな、

級品(きゅうひん)のセットだから(しつ)が悪い、まぁコレは使える方かな。

エマージェンシーシート、いわゆる銀シート。

保温力(ほおんりょく)が高くて寒い時なんかこれ一枚あると大分(だいぶ)違う。

NASAで開発された的な事も書いてあるし。

この状況だもんな、ここはコンリーさんに巻いとこう。

見た目が焚火(たきび)に突っ込む前の()(いも)みたいだ笑


 それから薪だな流石(さすが)にこのナイフで薪は割れない、

薪の表面をナイフで毛羽立(けばだ)たせて、そこに着火(ちゃっか)が良いか?

ロックが固いし使いづらいナイフだ。

下手(ヘタ)したら指を怪我しそう、肥後(ひご)(かみ)の方が使えるかも。

木の皮がバリっと(はが)がれたからコレに着火出来そうだ。

数枚は取れたし(もみ)みこんで(ほぐ)し、、、これで良いかな?

暖炉の薪なんて使った事ないが(よう)は焚火と変わらないかな?

組んだ薪の下側に空間を空けて空気の流れを作り、

そのやぐらの下で種火(たねび)を付ける、で合ってるか。


 ファイヤースターターの使い始めは(まく)()ってて火花が()らない、

表面の黒く酸化(さんか)している部分をストライカーで(みが)く。

マグネシウムの地金(じがね)が出てきたらストライカーを固定(こてい)して、

ファイヤースターターを引いてやると火花が散る。

解した木の皮の上で何度か着火させると容易(ようい)に火が点いた。

小枝はないが木の油でパチパチ音がする。

それをそぉっと暖炉に組んだ薪の下に入れた。

残念な事にこのキットには火吹(ひふ)(ぼう)が付いていない、

仕方がないから息を吹きかけ種火に燃焼(ねんしょう)(うなが)した。


 外からちょっとした叫び声と何かが水に落ちる音がした。

川の音もするがもっと近い場所だ。

ニシキはメイの事もあって不安になり様子を見に行く、

開けた扉の外には壺にハマったメイの姿があった。


「どうした? なんかあったのか?」


「、、コンコンしたかったの、、」


 どうやらドアノッカーを触りたかったらしい、

水の入った壺を()み台にして足を(すべ)らした。

お尻だけが壺にハマっており出られそうにない。

仕方なしにメイを抱き上げ扉に近づく。


「ほら、コンコンしてみて?」


「うん!」


 ドアノッカーを元気よく叩くと、


 扉がロックされ中に入れなくなった。


いかがでしたか?

コンリーの隠れ家でちょっと休息です。

ニシキとメイだと沈黙が多く感じますね。

二人の過ごしてきた世界があまりにも違うからですね。

評価など頂けると今後の励みになります。

宜しければブックマークの登録もお願いします。


二章 第三十六話 サブタイのサブタイ「大寒索裘」

また皆さんとお会いできるのを楽しみにしております。

創意執筆中です。

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