第三十五話 普段の技が光るし、鼻高々にもなるし
トチです。前書きは短い方が良いと思ってます。
世の中の忙しさに付いていくのがやっとです。
流行り廃りの忙しさも似たりと、変わらずの喜ばしい事この上なしです。
ネコってやっぱり可愛いのネコの日投稿です。
それでは 第三十五話です。
隠れ家の周囲には、白骨化した動物の骨が散らばっている。
返事がないどころか断末魔すら聞こえない。
なぜ骨があるのか理由が掴めないと、立ち入りたくないと、
ニシキの本能的な危険感知の嗅覚が冴える。
この建物の周囲だけにバリアなのかトラップなのか、
それを感じさせる何かがここにはある。
「ここヤバいんじゃないか? 近づいたら即死しそうだぞ?」
「魔術師の館ですからね、なんかありますよ~」
案外軽く言うんだな、俺より理解が早いな。
館っていうより山小屋だけどな。
「これ入って平気かな? 家主いるし」
「試しに石投げてみます?」
「まっ試しにな」
メイはコンリーを抱えたまましゃがみ込み、
路傍の石を見つけ軽くヒョイと館の方向に投げてみた。
石は木の板に当たった様な音がし地面に転がる。
落ちた周囲に細く青白い光が走った。
「コレたぶん結界があると思う、ます
入るのには術者の許可が必要かなって、です」
「俺たちが来ることはきっと予想してただろ?
警戒せずに入ってみるのが正解かもよ」
「コンリーさんを先頭にして入る? ます?」
「なかなかエグイな」
一蓮托生って事も含めて全員で一緒に感電かな。
ミシンさんも巻き込んじゃってごめんね。
って言うのはジョーダン俺だけ入るのが得策だな?
結局まだまだ俺が足引っ張りそうだし。
電気柵みたいな感じだし感電したら助けて貰えるかな?
「俺が先に入るよ、なんかあったらヨロシクね」
「うぅ~ん、三人は持ち上がらないかも、です」
人が帯電物に触る時は確か手の甲を当てるんだよな?
手の平で触ると筋肉の収縮で掴みに行ってしまうらしい。
離したくても離れなくなるってサバイバルの人が言ってた。
左手はパックリ切れてるし血もガチガチに固まってるし、
右手しかないよな痛かったらヤダな焦げるのもヤダな。
ミシンをメイに預け距離感の分からない透明な壁に近づく、
わざとではないが固唾を飲み込みソロリと手の甲を向ける。
「やるよ、行くよ、、うぉ!」
気合を入れて手の甲を突きだす、
まるでジャ〇キーの酔拳の形みたいだ。
手応えがない、壁があるであろう場所に波紋が広がる。
いつでも手を引けるように構えていたが拍子が抜けた。
試しにもう一度触れるが何も起こらない。
「カッコ良かったです、、うぉ! って」
「カッコ悪いから、止めて、、」
そう言いながらミシンを抱え上げる。
問題なくココには入れるらしい。
結界の中に揃って入ると外から見た建物がない。
木製のロッジでは無く、しっかりと建築された館である。
周囲の罠だけではなく外観までカモフラージュされている。
館は1メートルほど桁上げされた洋館のようだ。
アテノの店に比べると非常に地味に感じる。
森でこんな洋館を見つけたら魔女を疑って近付かない。
正面には階段があり、その先にテラスと扉が見える。
両脇の窓には黒いカーテンが掛かっておりそれも不気味に見えた。
屋根も黒い魔女の帽子の様な形をしている。
「なんかコンリーさんの憧れが垣間見えるな」
「趣味がたっぷり出てますよね」
そうなんだよな魔術師になったからには、
こんな家に住まなくちゃってのが醸し出てる。
ラーメン屋にはラーメン屋の病院には病院の雰囲気ってのがある。
ココはやっぱり魔女の館に相応しい。
「勝手に入って良いのかな?」
「家主ここにいますし、良いんじゃないですか?」
「そだよな、、」
ニシキは正面の階段に一歩足を掛ける。
すると扉の横のランタンにジリジリと火が灯る。
階段に対しハッキリとした陰影が出来た。
元々薄暗かった周囲に僅かばかりの道が出来た。
道具を使った仕掛けと言うよりも魔術のようだ。
二歩目三歩目と上る度に光量が増していく、
二人はその明るさに安堵を感じる。
扉の付いたテラスに上がると右にはテーブルと椅子が、
左にはロッキングチェアとサイドテーブルが、
用意されており多少の生活感がある。
扉には二羽の鳥が輪を咥えたドアノッカーが付いており、
なんとなくだが二度叩いてみる。
それはニシキのいた世界ではもう珍しい代物だった。
少しだけ楽しく感じるニシキ、メイの背丈では届かないであろう。
メイは羨ましそうにその姿を眺めていた。
ドアノブには触れていないがスゥっと扉が開く。
まるで家主の帰りを迎え入れたかのようだ。
「おっ、自動ドア、、お邪魔しまーす」
「お邪魔しま~す」
室内は少し黴臭く長期間、留守にしていた事が分かる。
中に一歩進むと天井から下がっている明かりに火が灯る。
この明かりは火と言うより電気照明の様に明るい。
釣り下がった照明は中央から四本の足が出ており、
個々の高さが違い先は植物の弦の様にしなっており、
小型のランタンが吊るされている。
部屋の右側には二階へと続く階段とソファセット。
左には暖炉と奥へと続く扉も見える。
一人掛けのソファにミシンを座らせ、
広い多人数掛けのソファにコンリーを運んだ。
ここは冬の避暑地の様に肌寒く館を暖めようと暖炉に向かう。
メイは周囲を見渡し何かを探している。
「メイ? なに探してんの?」
「なにか掛ける物でも無いかなって、、」
「あー止めとけ、たぶん有ったとしても
カビだらけで使いもんにならないから」
「そうですね、、」
「それより、バケツかなんか探してくれ
それ川で洗って水汲んで来てくれないか?」
「ばけつぅー」
「水が溜められれば何でもいいよ」
こっちじゃなんて言うんだ?
水桶か? 水嚢か? 何でも良いか。
メイは頭がすっぽりと入りそうな口の大きな壺を見つけ出し、
両手で軽々と持ち上げ館を出て行った。
「さて、、こっちは暖炉に火を付けなきゃだけど
マッチもライターもない」
薪自体は暖炉のわきに山積みになっているが、
こんな太い薪、直に火なんか付かないしな。
やっぱアレ使うか。
ニシキは腰の辺りを探ると離受盤と預金通帳を取り出す。
数ページ捲り指差し間違いがない事を確認して通帳を閉じる。
床に通帳を置くとその上に離受盤を乗せた。
使う事は無いだろうと思ってたけどな、
何となくいつか役に立つかな? ってぐらいだったけど、
ホントに使う日が来るなんてな。
数分後にじわりじわりと黒い箱状の物が浮かび上がる。
プラスチック製の箱で二か所に留め具が付いており、
箱に光沢は無くペンのような物も刺さっている。
「ちゃらららっちゃちゃ~! サバイバルキット!」
なんて言いたくなるよな秘密道具ゲットだぜ!
中にはナイフとかファイヤースターターとか、
ミニ懐中電灯なんか入ってる、ただ中身がイマイチなんだよな、
B級品のセットだから質が悪い、まぁコレは使える方かな。
エマージェンシーシート、いわゆる銀シート。
保温力が高くて寒い時なんかこれ一枚あると大分違う。
NASAで開発された的な事も書いてあるし。
この状況だもんな、ここはコンリーさんに巻いとこう。
見た目が焚火に突っ込む前の焼き芋みたいだ笑
それから薪だな流石にこのナイフで薪は割れない、
薪の表面をナイフで毛羽立たせて、そこに着火が良いか?
ロックが固いし使いづらいナイフだ。
下手したら指を怪我しそう、肥後の守の方が使えるかも。
木の皮がバリっと剥がれたからコレに着火出来そうだ。
数枚は取れたし揉みこんで解し、、、これで良いかな?
暖炉の薪なんて使った事ないが要は焚火と変わらないかな?
組んだ薪の下側に空間を空けて空気の流れを作り、
そのやぐらの下で種火を付ける、で合ってるか。
ファイヤースターターの使い始めは膜が張ってて火花が散らない、
表面の黒く酸化している部分をストライカーで磨く。
マグネシウムの地金が出てきたらストライカーを固定して、
ファイヤースターターを引いてやると火花が散る。
解した木の皮の上で何度か着火させると容易に火が点いた。
小枝はないが木の油でパチパチ音がする。
それをそぉっと暖炉に組んだ薪の下に入れた。
残念な事にこのキットには火吹き棒が付いていない、
仕方がないから息を吹きかけ種火に燃焼を促した。
外からちょっとした叫び声と何かが水に落ちる音がした。
川の音もするがもっと近い場所だ。
ニシキはメイの事もあって不安になり様子を見に行く、
開けた扉の外には壺にハマったメイの姿があった。
「どうした? なんかあったのか?」
「、、コンコンしたかったの、、」
どうやらドアノッカーを触りたかったらしい、
水の入った壺を踏み台にして足を滑らした。
お尻だけが壺にハマっており出られそうにない。
仕方なしにメイを抱き上げ扉に近づく。
「ほら、コンコンしてみて?」
「うん!」
ドアノッカーを元気よく叩くと、
扉がロックされ中に入れなくなった。
いかがでしたか?
コンリーの隠れ家でちょっと休息です。
ニシキとメイだと沈黙が多く感じますね。
二人の過ごしてきた世界があまりにも違うからですね。
評価など頂けると今後の励みになります。
宜しければブックマークの登録もお願いします。
二章 第三十六話 サブタイのサブタイ「大寒索裘」
また皆さんとお会いできるのを楽しみにしております。
創意執筆中です。




