第三十四話 綱を引くのか、引かれるのか
トチです。長らくお待たせ致しました。
この時期は色々と大変な事ありますね。
普段の隙が自堕落さを加速させてしまいました。
ギックリ腰です。
それでは 第三十四話です。
包まれている光と風が吹雪の中にいる様だ。
そこに寒さはないが視界としての確認ができない。
辺りに手を伸ばすも当たりが無く不安に駆られる。
時間が経つにつれ肉体の所在すら不安になって来る。
転移の魔術は旅の扉の瞬間移動とは違うようだ。
どの位の時間が経ったのだろう。
視線の中に黒い点が見得るゾワッとした。
ある種の集合体恐怖症の人には申し訳ないが、
その点が大量に視界を覆い始める。
黒い点の集まりの先には木々が見え
鱗が剥がれる様に景色が戻って来ている事が分かった。
足元には砂が無く剥き出しの土にちらほらと草も生えている。
空気感が違うのだろう湿気と共にジメっとする。
風が柔らかく当たり項が毛羽立つ。
「はい、到着です」
メイは転移前の姿と変わらず、
両手は周囲の岩に掌を向けながら一呼吸つく。
疲労感はないのだろう、コンリーの両脇に手を差し入れ、
岩のサークルから引きずり出した。
ニシキもミシンを抱きかかえ比較的平坦な場所に移動した。
目に眩しさはなく森の中で河川の流れる音も聞こえた。
時間的感覚もなく辺りが暗い、時計を確認しようにも、
抱きかかえた状況ではそれも出来ない。
コンリーをサークルから離れた場所に寝かせると、
一つの岩を両手で掴む、しっかりとがっしりと掴む。
メイの身長と変わらないその岩は、ズズッと音を立て微かに動いた。
動くと言うより浮いている、持ち上がった岩を数歩先まで運ぶと
ゆっくりと地面に下ろす、人でない力なのが分かる。
岩の置いてあった場所まで戻ると地面を探り、
何か紙の様なものを探し出した。
その紙を躊躇なく破ると動かした岩が縦二つに割れた。
「転移は壊したよ、行こう?」
「お、おう、、」
メイがそれらの行為を自然としている事に驚きを感じるが
それもニシキは平然と返す。
「グライデルは隠れ家って言ってたよな?
メイはその場所聞いてるの?」
「うん! 川の方に向かって、川に出たら
上流に歩くとすぐだって、コンリーさん言ってた、です」
「うっえ? こんな森の中で川がどっちにあるか分かるのか?
水の流れる音は聞こえるけど、方向が定まらないよ?」
メイは目を瞑り鼻先を周囲に向け嗅いでいる。
ニシキはキスをせがまれているように見えた。
「アッチが川だよ、水の匂いがする」
「川の匂いって、嗅ぐと分かるの?」
「森の匂いじゃない方がコッチだから、アッチが川だよ」
「ドッチも分からん、案内お願いします」
コンリーを抱えるとメイは先導を始める。
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ミシンさんを抱えたまま10分は歩いただろうか?
月明りの中を進むわけだが全く見えん。
メイはこの暗闇の中見えてるのか?
進む方向は確かに水の音が大きくなってきてる。
たまに木の枝が顔に当たり痛い、枝が目の前に来た時には、
避けられる距離では無くまともに当たった。
「チッ! ってぇ、、」
痛いと言えば左手の甲だ、たぶん血は止まってる。
アレなんで切れたんだよ、まったく。
払えてたよな? 見えてたし掴んだ方が良かったのか?
ジリジリ痛いのと少しヒヤッとして洗い流したい。
右手から温度の違う風が入って来る。
正面には縁の水草の生える細い河川に出た。
濡れないように渡るのは少し難しいが、
手製の橋ぐらいは架けられそうな川幅である。
一団は轟音の始まりに向かって足を進める。
川沿いは木々が少なく見通しも利くが、
湿度が特に高く足元に多少の泥濘を感じる。
あの砂漠の渇いた心地の良さが懐かしい。
寒くはないが暖を取らないと居続ける事に疲れそうだ。
「なんか、ここ長野みたいだな」
「ナガノってなぁに?」
「ぁ~斯の地の国って言うか場所? かな?」
「アッチにも森とか川とかあるの?」
俺は宇宙人かなって、ちょっと笑ってしまった。
「もちろんあるよ、そんなに変わらないな」
「町は? お城は?」
「うん、あるよ、コッチとは、ちょっと違うけど」
そんな他愛のない話は、手の痛みを和らげてくれた。
アッチの事は別に隠してたわけじゃないが、
世間話として説明しても良いかなって思った。
忘れかけた時間の先に、木製のロッジの様な建物が見えた。
恐らくあれが隠れ家なのだろう、ただ近付く事を拒みたくなった。
いかがでしたか?
二章です。場面転換してからのちょっとしたやり取りです。
砂漠から山林へと景色を変えました。
ニシキ達の動向も気になります。
少しだけほのぼのとした風景をお楽しみください。
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二章 第三十五話 サブタイのサブタイ「常住坐臥」
また皆さんとお会いできるのを楽しみにしております。
創意執筆中です。




