第三十三話 緞帳下がって日も落ちて
トチです。前書きは短い方が良いと思ってます。
Twitterを少し始めましたが私の不慣れが続きます。
フォロアーさんの色々なお話も読みたいです。
一日が36時間あったら良いな~なんて皆さんは苦痛ですか?
それでは 第三十三話です。
太陽の陽彩が消えて行く。
照らしてきた全てを諦めた様に瞼を閉じる。
紅塵の陰影が蒼白と変わって行く。
なぜだ大きな怪我はなかった筈。
あの化け物に挟まれただけの筈。
なにかの弾みで頭を打ったのか? 内臓が傷付いたのか?
もっと救急の事とか勉強しとけば良かった。
人工呼吸とか見た事あっても正しいやり方を知らない。
ピクリとも動かないのは、既にそういう事なのか。
「どうすればいい?」
メイは一点を見つめたまま微動だにしない。
「分からない、、です」
隣に横たわっているミシンとは明らかに様子が違う。
ミシンは呼吸を整える様に深い息をしている。
ニシキは分らないながらもコンリーの脈を取ってみる。
自分の指の震えが鬱陶しい、命の怖さが伝わって来る。
脈が触れていないのか、取れているのか判別も付かない。
その腕を掴んでいる自分の体温が高いのかも分からない。
「、、どうしたらいいんだ、どうしろってんだ!
この、、この、俺はなにが出来る!」
叫ぶ事しかできない、当然だ俺は医者じゃない。
こんな状況遭った事もない、人の死に際なんて見た事もない。
死を考えてしまった、そこから極力離れて考えていた。
誰かの死を考えたくないのは普通だろ。
家族の死、友人の死、隣人の死。
目の前で起きる事なんて想像したくない。
不慮の死、病気の死、衰弱死、俺の中に死が充満した。
「ひでえ事になってんな、やべぇなコレ」
しゃがんだグライデルがコンリーを覗いている。
途端にニシキは飛び退いたが、足元がおぼつかず腰が落ちた。
「なんで! アンタここにいる!」
掌を二三度叩き砂を落とすと
コンリーの瞼を開き瞳孔の様子を見ている。
「わりぃ、ソルには逆らえねぇ」
「どういう事なんだよ! コンリーさんが、、
化け物けし掛けたのは、お前で! それで!」
「処置すっから黙ってろ、、それから説明する」
グライデルはコンリーの両肩、足の付け根、水月に触れると
腹からロープでも手繰り寄せる様な仕草をする。
引き上げられたソレは赤黒く血液と泥が混ざった色をしていた。
その端を摘まむと泥だけが線となり引き抜かれる。
引き抜かれた泥は無造作に投げ捨てられ、
混ざりが抜けた純潔なロープは水月に押し戻された。
コンリーの胸に手を当て心臓に向かって掌を一突きし、
唇の上で円を二重に描き指で押さえた。
堰止まっていた気道が咳く様に息を吸った。
その呼吸を確認し押さえた指を離す。
「とりあえず、こんなもんだな、、
痕は残るが大丈夫だ、安静にしとけ」
息が戻ったコンリーを見て、警戒が少しだけ解かれる。
メイはしゃくり上げる様に嗚咽を上げ、ボロボロと涙を零している。
「何したんだよ? 魔術か?」
「毒抜きだ、蟻地獄には毒がある
コレが未熟だから毒を貰った」
蟻地獄って毒あんの? 子供の時は普通に触ってた。
「それからなんで助けに来た?
さっきまで敵意剥き出しだったじゃないか?」
「そりゃ謝る、俺もコレには逆らえん」
焼け焦げた球根の様なものを見せる。
「これはな化け物の芽だ、コレに巣食われると
自我を失くす、大概の化け物はコレが起因だ」
「じゃあアンタは、なんで普通に戻った?」
「嬢ちゃんの火の杭だ、アレに焼かれて
芽が消し飛んだ、戦意を失くしたんじゃなく
正気に戻ったってのが正しいな」
芽を握り潰すと中心まで炭化している。
また手の汚れを払うが、開いた手の平は真っ黒になった。
「んじゃその芽に自我を乗っ取られるのか?」
ニシキは半ば信じ難く考えていたが、興味をそそられた。
「そういう事だ、それに夜は日差しが無いから活動が弱い」
「今までは化け物の意思で行動してたって事か?」
「半分はな、後の半分は俺の欲で動いた」
半分ってなんだ? 意思が二つあるのか?
仲の悪いケルベロスだったら笑い種にもならない。
「純粋な欲求だな、こうありたいと願う事を利用された」
純粋な欲求、、死にたくないとか? モテたいとかか?
「意味が解らないんだけど、
あんたの願い通りに動かされたって事?」
「そんなところだ、それから次会う時は
俺じゃないかも知れん、そこは注意して掛れよ?」
人差し指で指されるがその力強さはなんだ?
自信満々で言う事じゃない、また敵対するって事か?
「その芽で操られてるなら、もう大丈夫なんじゃないのか?」
「外皮に出てるのはコレだが、根が残ってる
残った根を介し、ソルの光を浴びてまた芽吹く」
グライデルは汚れた手を首に当て、片方の眉を落とす。
「その根を取り除くには?」
満面の笑みが帰って来た。
「躊躇なく焼き払え」
それは誰かに後始末を頼んでいるようで、
ニシキにはその表情がとても切なく思えた。
「、、あんた、コンリーさんに伝える事あるか?」
遺言を聞いたつもりはない、聞き方が悪かった。
この魔術師が助かる方法を聞いたつもりだった。
「迷うなって言っといてくれ」
コンリーさんの迷いは身内を討つ事への迷いか。
「あとお前はもっとこの世界を理解しろ
その魔法切断と魔術負荷は彼の世のもんじゃねぇ
何が魔術で行われているか、その本質を見ろ」
「魔法? 魔法ってどういう事だ?
魔術じゃないのか?」
「魔術は技だ、魔法は理だ
技は修練すれば身に付く、理は掟だ世の覆らない事だ
地に物が落ちるのも理、生き物が生まれ死ぬのも理
そこに魔力は生じない、至極自然な事だ」
グライデルも専門分野は饒舌になるアンタの孫もそうだよな。
「家族って話し方まで似るんですね
魔法って事に理解が追い付きませんけど」
「つまりだ、魔力を使わず魔術を切ってるんだ
理の外で自然とそれをやったんだ、そりゃ魔法だ
普通な? 指で鉄を切れるか? どうやったって無理だろ?
でもなお前の中で "切れる" と理にした、
んで切った、コレがどういう意味か分かるか?」
「魔術を妨害出来るとか?」
「バカ言え! 自然が自然じゃなくなる
物は落ちない、生き物は死なない、常識が無くなる!
世の理がひっくり返る! それ悪用すんなよ?」
怒られた理由も分からないが、そりゃ凄いんだろうな。
「それで彼の世なんとか、なるんですか?」
「希望が出来たって言うのは、俺っぽくねぇが
せいぜい生き延びろ、こっからは運じゃねえ
理解と修練で彼の世を変えろ、それと迷うな進め」
自然と拳を握っていた、なんか悪いヤツじゃない気がしてきた。
「その時はアンタも助ける」
「それが躊躇と迷いに繋がる
止めとけ、俺はつぇえぞ?」
「それまで理解を肥えておく」
「まっ期待しねぇよ」
グライデルは立ち上がり岩のサークルから出る。
一通りの話せる事は尽きたのだろう。
「とりあえず飛べ、飛んだ先はコンリーの隠れ家だ
転移の魔術はそっちで破壊しろ
じゃないと俺じゃない俺がそっちに行っちまう
分かったな? 言いたくねぇが頼んだぞ」
「コンリーの事は任せろ! ソウサの事を頼む!
あんたも化け物なんかに負けんな!」
「うるせぇ! ひよっ子が!」
メイがサークルの中心に立ち、
周囲の岩に向けてランダムに手をかざす。
おそらく魔術発動の手順があるのだろう。
それは神に祈りを捧げる舞の様に見える。
岩から空に向かって白色の光が伸びる。
空からは光の粒が雪の様に降ってくる。
光の粒が体に当たると、体は実態を失くし
その個所は穴を空けたように向こう側が透ける。
出来上がったジグソーパズルのピースを、一枚一枚剥がしていくようだ。
ニシキの左目に雪が当たりが白く見えなくなった。
右目には胸に手を当てるグライデルの姿が映る。
それが砂の世界で見た最後の景色だった。
いかがでしたでしょうか?
と言う事でこれにて一章とさせて頂きます。
次章のお話は今少しお待ちください。
登場人物が各々の視点で悩みます。
自分の存在する意味、過去に対する遺恨、未来への展望など。
それは恐らく誰しもが持っている事で、自己投影が歪んだ結果かも知れません。
真っすぐとは歩めない、そんな次章になるかと思います。
10万文字を越えてしまいましたが、まだ物語は始まったばかりです。
これまでお付き合い頂き、誠にありがとうございます。
そして皆さん、今は少しだけ心落ち着かせ休んで下さいね。
評価など頂けると今後の励みになります。
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二章 第三十四話 サブタイのサブタイ「柳緑花紅」
また皆さんとお会いできるのを楽しみにしております。
創意執筆中です。




