第三十二話 いい加減にしなさい!
トチです。前書きは短い方が良いと思ってます。
本当に睡眠って大事ですね、起きてからの執筆が弾みます。
四時間で寝て起きるを繰り返すと集中力が低下してました。
今は枕とお布団が恋しいです。
それでは 第三十二話です。
化け物の背に乗るグライデル。
昔ゲームで見たガマガエルに乗ったジラ〇ヤみたいだ。
虫の上から腕を組んだ姿は太々しい。
「へい! おまち!」
フワッと地に降りるが尚腕は解かない。
「気の迷いがあるな~追い付いちまった
余計なこと考えなきゃ、お前ら逃げれたんじゃねぇのか?」
「コンリーさんはアンタの孫なんだろ!
なんで傷付けた! なんで化け物なんか従えてる!」
ニシキ考えは斯の地の域を出ていない。
しかし彼の世の常識を疑ってかかる。
「なんでってなぁ~ いきなり殴られたら
殴り返すだろ? 普通? 躾だ、し・つ・け
虫なんか餌やりゃ簡単に躾られんのにな~」
とボケてるだろ? ホントは躾じゃなく争ったろ?
「悪い、、こっちの作法は知らないんだ?
俺の知ってる躾と比べたいから、見せてくれよ?」
「気合で、どうにかなるなんて思ってんじゃねぇよ
死なねぇ程度にぶちのめしてやっから
負けても舌噛んで死んだりすんなよ?」
あっちはやる気満々だけど俺に戦う術がない、
状況を変えなくちゃ、おそらく遣られる。
どちらか個別撃破で数の有利さを生かさないと。
「ミシンさん! メイ! 化け物なんとかしてくれ!」
アントリオンとグライデルを分断させる。
共闘されたら堪ったもんじゃない。
あの化け物に意識や自我があるとも思えないが。
メイが放つ石の玉は何度か、化け物の頭部を捉えるが、
瓦解音を立てて直後に崩れる。
ミシンの火の杭も収束が上手く行っていない、
竹製の水鉄砲かの勢いで虫の背でハタと消えてしまう。
化け物は少し怯むも大した傷を負っていない。
「んで? お前が俺の相手をすんのか?」
そんな様子じゃ半笑いだよな。
お遊戯に付き合っている保護者の目線だ。
ハッタリ咬まして成り上がりとは行かないが時間稼ぎだ。
「男なら殴り合いの喧嘩だろ?」
「なんで俺が殴られんだ? 殴り合いってのは
互いに殴るから殴り合いなんだぞ?
一方的に殴るのは "合い" じゃねぇ」
「愛がないな~老人は若者をもっと大事にしないと?
孫だって小遣いせびりに遊びに来ないよ?
少なくても俺はお爺ちゃん愛してるからな~
ルマ〇ド買っといてくれるし」
「なめるなよ、それがお前の作戦か?
時間稼ぎと分断に意味はねぇぞ!」
気付かれるのも計算済み、のつもり。
「違うね、俺が化け物倒しに行っても足手まといだ、
ならアンタを止められりゃ良いんだよ」
向こうと十分すぎるぐらい離れたか?
コンリーさんはまだ開放されないか?
この魔術師がどの程度の範囲に影響を与えるかだけど。
もっとだ、もっと俺に注目しろ!
「んでお前は俺に殺されると?」
「そんな悲観はしてない、アンタは俺を殺そうとしてない
なぜなら俺の不思議パワーに興味があるから
アンタ欲が丸見えなんだよ! 糞ジジイ!」
「手足削いで頭覗いてやっから後悔しろ! 糞ガキ!」
砂漠の中どのようにして集めたのか、
グライデルの腕には水流が集まる。
試し振りだろうか片腕を軽く振り上げた。
砂地にサメの背ビレの様な海波が走り、
モーゼの十戒の様に砂漠が割れる。
3メートル程の断崖に変わった、退路まで断たれた。
次は本チャンが来る、アレは喰らったらヤバい。
煽りに煽りまくって、十分逆上せたか?
前にアレ話してたもんな? 頼む、ミシンさん気付いてくれ!
「ジジイキャラで、何考えてるか分からない権力者って
お前は、ブラッ〇レイか!!!」
アントリオンと対峙しているミシンの様子が変わる。
踵から脳天まで一直線に伸び、ブーストが掛かった。
「仲間に力を与えても、俺とはどうする? アホがぁ!」
待てと言わんばかりにニシキは掌を見せた。
「アンタに怒ってるのは、俺だけじゃない
ついでに挨拶したいらしいよ、、な? ミシンさん!」
ミシンはアントリオンを屠ろうと、
狐の口先、一杯に魔力を溜めていたが、
ニシキの叫びに一瞬の間が出来る。
「転移!」
慌ててミシンは腕輪をひと撫でする。
―薄い鋼がぶつかり合い、鼓動が響く―
魔術師の目の前にいるのはニシキではない。
広げられた掌は、摘ままれた狐に変わっている。
溢れそうな魔力を放つのに、瞬き一度もさせはしなかった。
「火の! 杭!!」
放たれた火の杭は収束し色を白く変えていく。
グライデルは腕を重ね合せ水の壁を纏うが、
火を防ぐ事しかできず空間が二重に歪んでみえる。
それどころか熱の勢いに負け蒸気を吹き上げている。
防いでいる腕の表面が赤く爛れていく。
熱量に耐えられなくなり後ろに大きく跳躍する。
グライデルの身体を火の杭が吹き飛ばす。
「メイ! 化け物止めてくれ!」
「石の! 突!」
石柱がアントリオンの四方から突き生える。
鎧の様な体に石柱は突き刺さらないが、
昆虫標本のようにアントリオンをその場に張り付ける。
こんなの付け焼刃だ、、上手く行くか分からない。
でも俺はこれしか出来ない!
ジャンケンのチョキを髑髏に生えた角に向ける。
そんな事で到底切れない事は理解していた。
しかし、、、ニシキは願う。
「たのむ! 切れろ! その角、邪魔だっ!!!」
―チョッ/ /
/ /キンッ!!!―
まただ、また音が消えた、みんなが叫んでいたはず。
水が蒸発する音が、ミシンさんの声が、化け物の軋む音が。
気圧が変わったみたいに全てが無音になってる。
化け物の外殻が破片となって飛んでくる。
避けないと怪我するか?
この速度なら手で払っても平気だな。
アントリオンの角が頭部が足が切断される。
顎に挟まれていた、コンリーも縛を解かれる。
コンリーが投げ出されると同時に、切れた化け物の角は砂に刺さる。
ニシキは虫でも追い払う仕草をするが、
手の甲は薬指の付け根から親指までパックリと切れている。
水を含んだスポンジを絞るように血液が滲み出る。
閉じた傘に残った雨粒を払う、そんな赤い水滴の軌跡が見えた。
それは雨を取り除く作法であって、血液を拭う仕草ではない。
「ぃってぇえぇ、、なんで切れてんだ?」
思わず手首を掴んで、温い生命が出ないように堰止めた。
切れた手が震えているのだろうか?
掴んだ手が震えているのだろうか。
血液が砂地に滴る毎に、体温まで吸われ寒気がした。
「メイ! コンリーさんを運んで!
ミシンさん! 逃げるぞ!」
ミシンは力を使い切ったのだろうか、
揺れる穂の様に立ち尽くしている。
ニシキの叫び声も風の様に通り過ぎる。
「メイ? コンリーさんとミシンさん二人運べるか?」
「たぶん、、なにするの?」
グライデルは頭を振りながら体を起こす。
両腕を庇っており火の杭を防ぎきれていない。
「リプレイスだ!!」
ミシンは恐らく無意識だろう、しかしニシキの叫びに反応した。
下腹部の前で両腕を重ねる様に腕輪を触れた。
―甲高い波長の金属音が響き、深紅のカーテンを潜った―
ミシンはメイの真横に立ち尽くす。
ニシキはグライデルを立ち塞ぐ。
「二人抱えて走れ! 俺もすぐ行く!」
メイの身長では二人を引きずる事しかできない。
それでも両脇に抱え全力で連れ去る。
頭部を切断された化け物は尚動こうとしていた。
黄色い体液を噴出し痙攣を繰り返している。
人間なら絶命するはずの欠損状態だ。
「ガキが、、やってくれるじゃねぇか
裏かきやがって、、やめだ! 興が冷めた」
ニシキはまるでバスケットマンの様に構える。
逃げるも攻めるも都合が良いと思っていた。
ただあの指バサミが有効だとは考えていない。
「本音とか、俺は分かんないです
俺たちを逃がす気ありますか?
どっちにしても手は抜きませんよ」
戦意喪失か? フェイクか?
「もぅ好きにしろ、ここからお前等は
お尋ね者って事だ、それ忘れんなよ?」
「思い当たる節がないです
特に悪い事してないですよ?」
「そりゃ俺の言い方、次第だからな」
魔術師は手を二三度開き、怪我の具合を確かめていた。
苦痛の表情を浮かべているが、まだ余裕もありそうだ。
ニシキの指先から零れる熱に痛みがない。
「まあ、そう言う事ですね」
「せいぜい生き延びろ、んで俺に釣られろ
今日は再放流してやる、次まで十分に肥えてろよ」
「二度と会いたくないですね」
グライデルを気にしながら戦地を後にする。
ミシンとコンリーの様子が気になる、
足を急かそうとするが膝が重く砂に埋まる。
メイの魔術付与は既に切れていたようだ。
今一度グライデルを確認するも姿が見えない。
あの化け物の遺骸も無くなっていた。
こんな簡単に逃がすか?
まだ隠し玉がありそうな気がする。
気も抜けないがメイとの合流を急ごう。
岩のサークルの中心に三人はいた。
コンリーとミシンは仰向けで並んでおり、
メイは背負子を背負ったまま座り俯いている。
「待たせた、すぐ行こう!」
「お兄ちゃん、コンリーさん息してない!」
その顔は安らかで、メイの頭を撫でていた時の表情で
夕日が射しているのに青白く、美しさが増していた。
さていかがでしたでしょうか?
バトルです、魔術の打ち合いとは行かないです。
この世界の魔術師は大艦巨砲主義の様な畏怖と、
一撃強大な威力で相手を圧倒するものです。
グライデルぐらいの使い手なら連発も可能なんですが。
今回はニシキ捕獲を優先した結果の敗因です。
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次回 第三十三話 サブタイのサブタイ「顛沛流浪」
またお会いできるのを楽しみにしております。
創意執筆中です。




