第三十一話 ドロボウコントは唐草風呂敷
トチです。前書きは短い方が良いと思ってます。
緊急事態宣言が延長です。
長時間外に出なくなって何日が経ったのでしょう。
シェルターで生活しているみたいです。
一日ニ十分でも野外で過ごすとストレスの解消になるらしいです。
それでは 第三十一話です
静穏の魔術に覆われた一団は、難なくアテノ壁外まで辿り着く。
数名の衛兵や一般民ともすれ違ったが、誰として気付きもしない。
まるで俺たち透明人間だな。
これは魔術というより化学のような理屈だろうか?
左右に据えたの鍵盤で音楽を奏でるような操作をする。
魔術を操るのに必要な動作なのだろう。
この先どこに向かうのか、そちらの方が気になっていた。
誰かの目にはもう触れないが、まだ魔術を使用している。
「ふぅこんな感じか、な」
コンリーの溜息とダランと降りる腕を見てから、
ニシキは呼吸を再開する事を意識した。
「もう話して平気なんですね、
この先どこに行くんですか?」
空気の断層が解かれ、周囲に円形の砂山が出来た。
ニシキ達が歩いてきた足跡すら消していた。
繊細な操作だったのだろう、両肩を竦め深呼吸をする。
「このまま、ソルの沈む方へ進んで」
東にって感じか?東西南北が分からないが、
東に上って東に沈む太陽は迷わないしな。
「私は後から合流する、後ろは見ちゃダメ
真っすぐソルとルナを目指して」
「コンリー、一緒に行かないの?」
ミシンさんが心配そうな顔してる。
そうだよ後からって、店に忘れ物でもしたの?
何か後始末とかあるのか?
「うん、ちょっと簡単に行き過ぎた」
空間にヒビが入り断層が剥がれる。
ガラスの破片の様に剥がれ落ちると砂に還る。
まるで鏡が割れるように、そして本来表にある物を出現させる。
鏡の裏には魔術師グライデルの姿があった。
「俺はな、お前をそんな風に育てた覚えはないぞ
家を出る時ゃ "行ってきます" だろ?」
つけられてた? 確かに簡単に行っていた。
それ悪役のセリフっぽいぞ?
「先の事はメイちゃんが知ってる、
私がジジイを押さえるから行って」
「どうせこんなことに、なるんじゃねえかと
町の外までは遊ばせてやった、町での騒ぎは勘弁だしな
まぁとりあえず、、そいつら置いてけ」
悪ってのは俺たちに向けられる悪意で害悪だ。
演じた悪役は後から取り繕えるがこれは違う。
「いいから行って!
メイちゃん分かってるわね?」
「、、はい、必ず」
メイはしゃがんで砂地を手で触れる。
添えた手を中心に一瞬だが砂色がネガティブに反転する。
「お兄ちゃん、ミシンさん
とにかく走るから、、いくよ!」
一歩目を踏み込む、また砂地にのめり込むつもりだったが、
砂が足から離れる様に固まる、舗装された道路の様に体重が乗る。
「コンリーさんが時間を作ってくれる
それまで出来るだけ遠くに離れるから」
本当に良いのか? コンリーさんは倒すじゃなく押さえるって言ってた。
勝機があるのか? 正気じゃないのか? 俺たちがいると邪魔になるのか。
理解に苦しむ間もなく走り出した。
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走り出したニシキ達を見送ると、魔術師たちの会話が再開する。
「家族のよしみだ、今そこ退けば
加減してやってもいいぞ?」
視線の先にはニシキ達の後ろ姿がある。
コンリーが邪魔で見えづらいのか首を伸ばす。
「断る! 元からそんな事、考えてないじゃない」
「お前はさ~見えすぎんだよ
少しは俺の気持ちも汲んでくれよ?」
「なら尚更ここは通さない」
「それで良いのか?」
グライデルの傾けた首と肩が擦り合わされると、
関節がボキッと音を立てた。
「ソウサまで私兵にして何をするつもり
答えなさい、ジジイ!」
「誰が聞いてっか分かんねぇだろ?
そういう危ねぇこと言うんじゃねえよ」
片腕を上げるさまに、コンリーは構えるが、
その手は片眼鏡を外す動作であり、と同時に殺気も無くなる。
「、、オド閉じたわね?
でもそれじゃ私に勝てない、、」
「オド?んなもん無くたって
こいつらいれば、魔力もいらねぇ」
グライデルは目を剥き笑みを浮かべ
砂地に地団駄を二度踏む。
15メル程離れた岩が傾き地面が減っていく。
砂山が窪み中心から巨大な節足が姿を見せる。
全容を現すまでさほど時間は掛からなかった。
髑髏の様な頭部、巨大な上顎には鋸の様な角がある、
甲虫類のような光沢はなく、ざらついた木の肌の様で、
腹部は何かを抱えるように丸々としている。
それは体長12メルを越える蟻地獄であった。
体表にはびっしりと木の芽が生えており、
化け物であることが容易に伺えた。
「、、?なんで化け物が?」
「こいつらな~食いもん与えると
手懐けられるんだぞ? お前も一匹飼うか?」
愛玩動物を愛でる様に微笑む。
「グライデル!!!」
コンリーの青ざめた表情に正気はなかった。
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砂を蹴る瞬間は地が固まり、足を着く時は柔らかい。
砂に沈み込む感覚はなく芝生を走っているみたいだ。
メイは俺たちの足に魔術付与をしたらしい。
だからと言って体力まで向上したわけじゃない。
全力疾走なんて無理だし、マラソンぐらいの走りしか出来ない。
日も傾き始めているのに砂漠はまだ暑い。
背後から轟音が聞こえた。
「振り向いちゃ駄目、前だけ見て走って!」
そういうミシンさんだって心配だろ?
彼女の意図を無駄に出来ない、振り向けない今は走るだけだ。
十分ぐらい進んだだろうか木のような影が見える。
あれだけデカいと砂漠のランドマークになる、
俺が倒れた後に休息を取ったキノコのような木だ。
「あそこだ! もうちょっと!」
走れど走れどキノコに近づかない。
はっきり認識が出来ず今だ霞掛っている。
そこから十数分走り、やっとキノコの笠の影に入った。
「お兄ちゃんコッチ!」
メイに続いてキノコの幹に沿って裏手に回る、
ミシンは後ろを警戒しており遅れて続く。
キノコ裏手には人の背丈ほどの岩が円形状に並んでいた。
「全員この円陣の中心に入って?
ここから転移で飛びます、、でも、でも少しだ、」
「待とう! コンリーさんがいない!
このまま置いてけぼりは駄目だ!
俺たちコンリーさんに助けて貰ってばかりだ!
敗走だって一緒がいい!」
一同の意見は纏まっていた頷きが揃う。
背後に何か気配を感じた空に枝? が二本突き出る。
徐々にそれが伸び空気が剥がれ角が空間を突き破る。
静穏の魔術が解かれ、巨大な虫とグライデルがそこにいた。
虫の大顎には、力を失ったコンリーが挟まれている。
「ほぅ随分と余裕じゃねえか、、
待たなくても連れてきてやったぞ?」
蟻地獄の大顎に挟まれた彼女は
恨めしそうな表情を浮かべていた。
いかがでしたでしょうか。
アテノを後にした一行はどこに向かうのでしょう。
グライデルの意図は何か、コンリーは無事なのか。
そろそろ第一章のクライマックスを迎えます。
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次回 第三十二話 サブタイのサブタイ「四鳥別離」
またお会いできるのを楽しみにしております。
創意執筆中です。




