黒猫と雨
傘だけが残っていた。いつも歩いていた散歩道に一人。いや、一匹。君はどこに行ってしまったのだろう。そんなの分かっている。認めたくなかっただけだ。そう思い、黒猫はまた歩き始めました。「姿の見えない君を探して。」
「行ってきます〜!」元気のいい声で黒猫は目覚める。今日はいい天気だなあ。「いい子にしてるんだよ!」頭を撫でられる。案外悪くない。
さて、今日も帰りを待つとするか。今日はなにをして遊ぼうか。また毛繕いでもして暇を潰そうか。いや、もう飽きたなあ。そうこう考えてるうちに結局いつも寝てしまう。日向で寝るのがやっぱり気持ちいい。
「ただいま!さあ、散歩に行こうか!」何時間寝てたんだろうか。まだ眠いんだから寝かせてくれよ、、、そう思っても主人には伝わらない。仕方がなくいつもの散歩道を出た。
いつもと変わらない風景だ。夕暮れた頃の散歩道。影を2つ残している。
最近変わったことがある。主人の様子がおかしい。散歩をしている時の笑顔も消えて、おせっかいな話もしなくなった。なんだか苦しそうだ。黒猫はそう思っていた。「そんなに見つめてどうした?」と主人は言う。見てないフリをしてやり過ごそう。
あれは珍しく夜に目覚めた日だった。とことこ歩いていると、部屋で主人は泣いていた。「辛いのは君なのに。どうして僕が泣いているんだ。」
いつも通り元気なおかえり、ただいまで目覚める。変わらない日常だ。一つだけ変わったこともあるけど。
いつもの散歩道の公園に主人は腰掛けた。黒猫は主人の膝に乗って少し休む。少し経って主人は黒猫の頭を撫でながら言った。「忘れたいんだ。君の声も忘れたい。ごめんね。さよならって何度も言いかけたんだけど。結局君を忘れられなかった。」黒猫はすやすやと眠っている。
雨が降ってきた。雨の音で目が覚めた。何時間寝ていたのだろう。頭上には傘が差されていた。隣に主人がいない。ぽつんと一匹残された黒猫はずっと傘に当たる雨の音を聴いていた。「どうして傷は癒えなくて、心の雨が止まないんだろう」
君との思い出が走馬灯のように流れてくる。「ごめんね。」膝で寝ている黒猫を椅子に乗せてやる。あ、予報通りの雨が降ってきた。傘を持ってきて良かった。さて、君に傘を差して夜に紛れなければ。「良い人に拾ってもらうんだよ。」主人はそう言い残して夜に紛れた。
雨が上がった。心の雨は止んでいないけど。黒猫は分かっていた。主人が長くは生きられないことを。でも分かっていても認めたくなかった。君と離ればなれになることを。だけど今日もいつもの散歩道を歩こう。そしてこの傘に戻ってくるんだ。君の匂いがするから。さあ今日も歩こうか。「姿の見えない君を探して。」
ご覧いただきありがとうございました。この小説を元に、僕達のバンド「あめnote」を知ってもらえたら嬉しいかぎりです。今後ともよろしくお願いいたします。
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