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アマオー:ワンデイ ―さながら瀑布―

 かつて日本では毎年梅雨頃になるとあちこちの水田や畑、茂みでカエル達の鳴き声が響いていたという。時にはウザがられ、時には風物詩として親しまれたというこのカエルの大合唱。


 時が流れて現代、人間が暮らす世界から自然が追いやられ街路樹(風のオブジェ)と観葉植物(を模したホログラム)しか見なくなったこの時代にこれを体験できるのはとても貴重かもしれない。

だけど言わせてほしい。罰当たりと言われようと、風情が分からないのかと言われようと、これだけは絶対に言わせてほしい。


「うるさ~い!」


 一つから五つに分かれた蓮の葉の一画で私はそう叫ばずにはいられないのであった。



――――――――――



 ショーグンの咆哮を皮切りに現れたこの大量のカエル達は戦闘に直接参加はしてこないものの、援護という形でこの戦闘に介入してきた。


 例えば地形の変化。もともと戦っていた場所は複数の巨大蓮の葉が集まってできた一つのバトルフィールドだったが、突如現れた12匹のオイケバン達が蓮の葉同士を結び付ける蔦を切り離し一括りの蓮の葉たちを5枚の蓮の葉に戻してしまったのだ。

 繋がりを絶たれた蓮の葉たちは徐々に徐々に離れていき今は5つのバトルフィールドへと変貌してしまっている。単純に戦う場所が狭くなったせいで攻撃の回避が難しくなった。


 だが何よりも厄介なのは…


「ファイ「ゲコッ」ボー「ゲコッ」」


 また邪魔された!

 このカエル達、かなりの頻度で勝手に詠唱に割り込む形で魔法の発動を妨害してくるのだ。結果、私は無詠唱で効果ダウンした魔法での戦闘を強制されている。


「不測の事態に備えて、何か別口の攻撃手段は備えておいたほうがいい」という親友の忠告が頭の中でこだまする。いや、無視するつもりはなかったけど、まだ手を出さなくてもいいかなって思ってた! 杖でも攻撃できなくはないけど、杖の耐久が減るし何よりまず威力が低い! 素手で攻撃するのとほとんど変わらない!


 そうこうしているうちにショーグンが突進を仕掛けてくる!なんとかギリギリで回避!


 杖をしまって代わりに魔導書と羽ペンを取り出す。こっちはまだ慣れてないが仕方ない!


 白紙の魔導書に浮かび上がる魔法の文字列。これを羽ペンでなぞるように書き記す。魔法式を組み上げたらページを破って発動。3つの火球がショーグンの口へ殺到する。


「ゲコオッ!」


 ショーグンの巨体がよろめく。


 魔導書はこの状況下でも効果ダウン無しかつ高威力で発動できるのが強みだけど、とにかく使いこなすのが難しい。上手く魔法式をかけないと魔法が不発になるし、酷い場合は魔導書ごと大爆発を起こす。かといって書く方に集中しすぎると敵への対処がおろそかになりやすい。ベテランの魔導書使いともなると、ノールックで即座に魔法式を組み上げて様々な魔法を使いこなす様がすごくかっこよくて憧れるんだけども…


 ショーグンがジタバタと暴れだしたので別の蓮の葉へと退避することにする。


「はいはーい。渡りますよー。ごめんねー。」


「ゲコッ!?」「ゲコッ?」「ゲコッ!」


 蓮の葉と蓮の葉の間に顔を出すカエル達を飛び石代わりにして別の葉へと渡る。ショーグンはというと、ロケットジャンプを連続で繰り出して葉から葉へと跳び回る。自分がいる葉に跳んでこられたら大ピンチだが、それと同時にチャンスでもある。即座に魔導書に雷属性中級魔法の魔法式を書き込む。ショーグンが隣の葉の上に差し掛かったところで発動!


「ゲガッ!?」


 電撃を受けたショーグンが真っ逆さまに蓮の葉の縁へと落下。高高度からの落下によってまた大ダメージを負ったはずだけど…


「う~ん…やっぱりエフェクトが小さい…」


 さっきから何回か撃ち落とすことには成功しているのだが、どれも最初の一回のような大ダメージを与えられた様子がない。単に落下ダメージに対する耐性が付いたってことだろうか?だとしたら鬼仕様もいいとこだけど…何かが引っかかるな…


 例えば周囲のカエル達が鳴き声によるバフで支援しているとか? いやでもカエル達はショーグン落下の時に落下予測地点から逃げるような動きをとる。鳴き声を上げている余裕はなさそうだ。


 他に何か…逃げるカエル…揺れる水面…揺れる蓮の葉…


「まさか蓮の葉がクッション代わりになってる!?」


 水に浮いた蓮の葉がクッションの代わりとなっている…ありえる!

 いや、だとしたら最初の落下の時もダメージが軽減されているはず。ああでも最初の落下はそんなに葉は揺れてなかった…! 最初とそれ以外での違いは何だ?


「う~ん…何か気づけそうなんだけどなぁ~!…しまっ!?」


 しまった!? 思考に集中しすぎて警戒がおろそかになってた!


 目の前に迫るのはショーグンの舌! 横に跳んで回避しようとするも脚に巻き付く!


「わあああぁぁぁぁぁ!?」


 ショーグンの舌に脚を掴まれブンブンと振り回される! このまま叩きつけられでもしたら一巻の終わりだ!

 なんとかしなきゃなきゃなきゃなんとかとかしなきゃぁぁぁあたまぐるぐらぐらぐるするらぁ~~~

 めが、めがまわるる。こ、ここ、こいつ、わたひをもて、もてあそんでぇ…ゆるるるるるゆるさん!このわたひがせいばいしてやるるるっるうるっるるrrrrrrrrrrrrどぎゃっ!




 捕らえた相手をわざわざ強引に振り回すのは叩きつけた際に生じるダメージを増加させるためと、反撃を封じるため。パーティー戦においては大きな隙を生むチャンス技とされるこの攻撃も、ソロでは最も警戒すべき攻撃とされる。

 アマオーの必死の抵抗も空しく、ショーグンは彼女を蓮の葉の中央に叩きつけた。


 耐久面に難のある純魔法職には到底耐え切れない一撃。


 だが…




 死んだ? いや、死んでない! ギリギリ生きてる! 親友からもらった女神の加護【命】(即死防止の御守り)が機能した!

 ありがとう零門(親友)! 今度会ったらデザートを奢ってあげよう!

 ありがとう女神様! 町に戻ったら教会にお布施をしてあげよう!


 回復用のポーションを飲みつつショーグンの方を向き言い放つ。


「さあ、そろそろ決着をつけようか!」



 魔導書と羽ペンを再展開。複数の魔法式を組み立てる!

 

 対するショーグンは今度こそ確実にとどめを刺さんと跳躍の準備動作をとる!



 奇しくも自分が叩きつけられる側になって思い至ったことがある。

 最初の落下とそれ以降の落下、違いは蓮の葉のどこに落としたかだ。最初の落下地点は蓮の葉の中央、それ以降の落下地点は蓮の葉の縁部分だった。



 葉脈を目印に蓮の葉の中央へ。ショーグンが跳ぶ。



 蓮の葉の中央。そこには葉全体に放射状に伸びた葉脈が密集している。じゃあそこに何がある?


 正解は茎がある! この巨大な葉を下から支える強靭な茎が! 葉の上で巨大カエルが跳ね回っても折れない程の強靭な茎が!



 ショーグンがアマオーの真上に差し掛かる。アマオーは準備してあった魔法式を発動!

 一つは上空のショーグンを撃つ雷属性中級魔法、もう一つは自分自身の足元に放った風属性初級魔法。


「ゲゲゲっ!?」


「わっ!」


 雷の矢に撃たれたショーグンが落ちていく。自ら起こした風に吹かれアマオーが吹き飛んでいく。


 カエル達は見ていた。統治者たるショーグンが名実共に墜ちていく様を。

 カエル達は聞いていた。統治者たるショーグンが墜ちて潰れるその音を。

 カエル達は感じていた。統治者たるショーグンの敗北を、自分達の敗北を。


 水面に顔を出していたカエル達が一匹、また一匹と水中へと潜っていく。

 統治者をも下す敵の存在に慄き逃げる者、仕えるべき存在を失い去る者、役割を失い水中に逃避する者…理由は多々あれど、カエル達は各々が次々とその場から去っていくのだった。


〔ショーグンガエルの討伐が完了しました。〕


「やっと倒した―。」


 水際ギリギリで踏みとどまり様子を伺っていたアマオーが控えめに勝鬨を上げた。勝利を実感するとともに蓮の葉に倒れこむ。溜め込んだ疲労が一気に来た。


 反省すべき点は多い。いろいろ無駄な動きは多かっただろうし、御守りの加護が無ければ勝てなかった。


 だが、反省することと喜ぶことは別問題だ。反省は今後活かすためのものであって悔やむためのものじゃない。今はこの達成感に身を委ねられるだけ委ねる。


「あ、蓮の花だ。大きい~。綺麗~。」


 戦闘中は存在感を全く示さなかった蓮の花が咲いてる!そうだ!お礼ついでに花の写真も送ってあげよう。



From:アマオー

To:零門

Title:ソロで将軍打ち取ったり!!!


この前くれた御守りのお蔭だよ!ありがとう!

こんどお礼させてね!(私にできる範囲でだけど…)


〔蓮の花の写真〕〔バックに蓮の花を映した自撮り写真〕



―――――――――――――――――――――


―旧トルメセリア城にて―


「アマオーからのメッセージだ。」


「へぇ、ソロで討伐したんだ…やるじゃん。」


「さーてと。あたしもやるか!」

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