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アマオー:ワンデイ ―いざ参らん将軍狩り―

 沼中央の大きな蓮の葉。これは一つの超巨大蓮の葉ではなく、5枚の巨大蓮の葉が蔦のようなもので一括りにまとめられた地形なのだと足を踏み入れてから気づいた。


 ボス戦においてはこういった地形の情報は一層大事になる。ボスが地形を利用する行動をとったり、逆にボスを嵌めるギミックが隠されていたりするからだ。


「さあ、行こう!」


 アマオーが見据えるのは蓮の葉の中央に鎮座する金色の巨大カエル「ショーグンガエル」。


 かつて現実の世界の方には「トノサマガエル」というカエルが生息していたらしいが、このショーグンガエルのモチーフはそれだろうか?


 殿様から将軍とはずいぶん安直な気がしないでもないが、よく考えてみると道中もモンバンとかローニンとかサムライとかニンジャとかトザマとかハタモトとか大概ストレートな名前ばかりだったな…

 御庭番から庭を池に変える捻りを見せたオイケバンが案外良いネーミングセンスだったのではと感じてくる。いや、池じゃなくて沼なんだけどね。ここ。


「近くまで来ると本当に大きいなぁ…」


 2階建ての一軒家くらいのサイズはあるのではないかと思わせるほどの巨体が寝息を立てている。


 正直なところ、寝ている間にバフを積んでおきたいし、大技でモーニングコールをかけたいところだが、こういったタイプのボスは戦闘が始まるまでダメージが入らないし、戦闘前に積んだバフは戦闘開始時にすべて解除されてしまうのが通例だ。


 そういったつまらない邪心はあきらめて戦闘開始のフラグが立つのを待つ。多分近づけば何かが起こるはず。


「ゲゲ? ゲッゲロ?」


 ビンゴ。異質な気配に勘付いたのかショーグンガエルが目を覚ました。


「ンゲゲーロ? ゲゲゲゲロ?」


 辺りを見渡すショーグンガエル。どことなくコミカルな動きだ。少しかわいいかも。


「ゲッ!?」


 ようやくこちらに気づいた。文字通り目を丸くしてこちらを見つめる。だいぶかわいい。このあと倒しちゃうのに罪悪感を覚えるくらいには。


「…ッゲッコー! ンゲゲゲゲ! ンゲゲゲゲゲ! ゲゲロ? ゲロゲ~ロ? ゲゲゲゲ? ゲロゲロゲロロ。ゲッゲゲーロ? ゲゲゲーロゲロゲロ? ゲゲロゲロゲロゲロローン! ゲゲゲゲロ。」


 前言撤回。何を言っているのか全く分からないけどとにかくこちらを見下し馬鹿にするような邪悪な知性を感じる。


「…グエェェェップ」


「あああああ!?」


 何か掛けた!? 口から何か掛けてきた!? 吐き出してきた! なんかよくわからない液体を! 私に!


「な、なな何を掛けたの!?」


「ゲロ」


「あああぁぁぁもう!」


 気持ち悪い! 服が汚れた! 許さない! 絶対に許さない! 絶対に許さない!


「ッゲゲゲゲ! ゲロゲ~ロ~!」


〔ショーグンガエルとの戦闘が開始されました。〕


 戦闘開始の合図が出る。それと同時に前足を大きく振り上げるショーグン! こちらを叩き潰すつもりだ!即座に後ろに跳んで距離をとる。戦闘態勢を整えなければ!でもその前に!


「ピュアリーレイン!」


 水属性の浄化魔法を自分に浴びせる。ひとまずこれで大丈夫! まだまだ生理的嫌悪感は消えないけど、ここからは戦いに集中だ!



 ――――――――――



 ショーグンガエル。


 カエル型モンスターばかりが生息するゲコバッカ湿原でカエル達の親玉として君臨するボスモンスター。


 最大の特徴はその規格外の巨体。2階建ての家屋に匹敵する大きさであり、その巨体から繰り出されるパワーはドラゴンにも匹敵するといわれている。


 恐ろしいのはこの巨体でカエルとしての身体能力を保持していること。これほどの巨体を持ちながら他のカエルと同じように高い跳躍力を誇る。さすがに他のカエル型モンスターほどジャンプの頻度は高くないが、ショーグン最強の切り札ともいえる絶大な破壊力を誇り、一度その巨体に押しつぶされでもすればどんなに屈強な戦士でも無事ではいられないだろう。


 また、カエル達の君主としての統率力も非常に高く、直接的な加勢は無いにせよ取り巻きのカエル達にはきちんと注意を払う必要がある。


 それらの要素を加味して本来このボスモンスターの推奨攻略人数は5人。だが前述したとおりボスへと続く計5本の蓮の葉の道は1本につき1人しか渡れない仕様となっている。


 これこそがこのバクフ沼のギミックの肝。ボス自体は複数人数での討伐を前提としながら、ボスへの道のりはメンバー各々が独力で到達しなければならないのである。



――――――――――




 ~アマオー式ショーグンガエル攻略チャート(技攻略編)~


 前足叩きつけ攻撃:近距離の相手に使用。当たった危なそう。たぶん周囲に衝撃波もある。振り上げのモーションが長いので避けるのは簡単。


 ロケット突進:中距離から遠距離の相手に使用。当たったら危なそう。事前のモーションが長いのと直進だけなので突進の向きを見極めれば避けるのは簡単。


 ロケットジャンプ:中距離の相手に使用。当たったら絶対危ない。空高くジャンプして落ちてくる。蓮の葉全体に衝撃波。


 舌攻撃:距離に関係なく使用。当たったら危なそう。結構器用に動かしてくるから一番危険な攻撃かも。イボイボが気持ち悪い。


 鳴く:バフ。攻撃力上昇か防御力上昇かで鳴き声が違う。


 泳ぐ:移動技。泳ぎ終わった後は水をたくさん飲んでるのかブクブクに丸まってて正直かわいい。


 地震攻撃:泳いでるときに使う。蓮の葉を揺らす嫌がらせ攻撃。他にモンスターがいたら危なかった。


 水鉄砲:泳いだ後によく使ってくる。威力はそこそこだけど範囲がとても広い。かわいくなくなる。


 毒攻撃:当たったら危なそう。事前のモーションが長いので避けるのは簡単。


 何かを吐き出す攻撃:嫌。



 ブレス系の特殊攻撃は威力が低く防御も楽、物理攻撃は強力だけど隙が大きくそもそもリーチが短いため遠距離からの魔法攻撃に徹すれば問題ない。唯一技の出が早くリーチも長い舌攻撃にさえ気を付けていればどうにかなりそうだ。


 問題は見た目通りのタフネス。こちらがどれだけ攻撃してもまるで効いている気がしない。ソロプレイだからと持てるだけ持ってきたMP回復アイテムの数もだいぶ減ってしまっているし、このままでは倒す前にこちらのMPが先に尽きてしまうだろう。そうなれば積みだ。


「何かあるはず!」


 外側が頑丈なら内側から攻めるのがセオリー。ジリ貧の安全策を捨て、リスクを承知でショーグンへ接近する。


 振り上げた前足を潜り抜けながら詠唱開始。前足叩きつけ攻撃の衝撃波をジャンプで回避。次に繰り出してきたのは舌攻撃。これを待ってた!


「ファイアーボール!」


「ゲコッ!?」


 口の中に火球を受け、舌を慌てて引っ込めるショーグン。どうやら効果アリ!


 反撃の叩きつけ攻撃を避けて再び距離をとる。そこへショーグンが繰り出すは突進攻撃。向きを見極めきちんと回避。ついでに突進方向に氷魔法の壁を置いてみたけどこちらはあまり効果ナシ。やっぱり薄い壁にぶつけた程度じゃあまりダメージが見込めないか。ん?ぶつける?


「ひらめいた!」


 少し危ないけど試してみる価値は十分にある! MP回復用のクリスタルを消費しつつ詠唱を始める。


 蓮の葉の葉脈を目安に大体中距離の場所に陣取る。狙いはジャンプ攻撃だ!


 こちらの狙いを知ってか知らずか、いや知らないか。ショーグンが空高くジャンプする! ショーグンがぐんぐんと高度を上げていき一瞬空中で静止するその刹那!


「ライトニングボーガン!」


「ゲッ!?」


 フル詠唱の雷属性中級呪文が上空のショーグンを打ち抜いた! ショーグンは空中での制御を失いそのまま真っ逆さまに落ちていく!


「ゲッコオオオォォォォォ…ギャッ!?」


 断末魔の叫びをあげながら蓮の葉のど真ん中に落下したショーグンがド派手なダメージエフェクトを散らす。これまでで最大の手応え!


 だがこれでも撃破とはならないのだから恐るべき耐久力。だけど攻略の糸口が見えた! これで勝てる!


…勝てる?


「ゲコォ…!」


 長めのスタン状態から起き上がったショーグンの様子が何かおかしい。

 ぼんやりとしていた瞳孔が細く鋭く形を変え、金色の背中がオレンジに、そして真っ赤に染まる。怒り状態か、それとも第二形態か…


 そんな私の警戒をよそに、ショーグンガエルは大きく鳴き声を上げた。


「ゲッコオオオォオオオオグァアアア!」


「ゲコッ!」「ゲコッ!」「ゲコッ!」「ゲロッ!」「ゲコッ!」「ゲコッ!」「ゲコッ!」「ゲコッ!」「ゲロッ!」「ゲコッ!」「ゲコッ!」「ゲロッ!」「ゲコッ!」


「え?なに?なに?なに!?」


 カエル!カエル!カエル!カエル!

 ショーグンの咆哮を皮切りに次から次へと水面から顔を出すカエル達!


 大勢のギャラリーが見守る中圧倒的アウェーの第2ラウンドが始まる…!

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