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アマオー:ワンデイ ―蓮を渡っていざ行かん―

 ここ「ゲコバッカ湿原」はフィールドの中央に位置する巨大な沼(通称「バクフ沼」)とその周辺に群生する広大な草むらで構成されている。このフィールドの特徴は「カエル型のモンスターばかりが生息していること」と「草むらのカエルと比較して沼のカエル達は格段に厄介ということ」だ。


 アマオーが先ほどまで苦戦した草むらがカエル達の城下町だとすれば、アマオーが今飛び進むバクフ沼は城、いや要塞と言える。沼を進む方法は蓮の葉を渡ること。沼には合計5本の蓮の葉の道があり、沼の中央を目指すにはその道を通るしかない。沼を泳いで突破しようものなら、たちまち処理しきれない数のオタマジャクシに群がられ餌にされる。


 蓮の葉の上も必ずしも安全だとは限らない。足を踏み外せば沼に落ちるし、蓮の葉は踏めば程なく沈むし、水中からニンジャガエルが奇襲を仕掛けてくる。もちろん沼に落ちれば即オタマジャクシの餌食だ。


 そして途中にある一際大きな蓮の葉にはいわば中ボスポジションのカエルが待ち構えている。


 つまりは「沼に落ちないように蓮の葉を渡り、途中で出現する中ボスを倒しながら、沼の中央にいるショーグンの元を目指す。」というのがこのフィールドの進み方なのである。



 ちなみに「水中で群がってくるオタマジャクシは一匹一匹が君主たるショーグンよりも遥かに強い調整がなされている。」というのは知る人ぞ知る豆知識だ。




「ふぅ~。もう少しでショーグンのもとにたどり着けるかな。」


 中ボスであるトザマガエル、ハタモトガエルを難なく蹴散らし、回復アイテムでHPとMPの回復を図りつつ沼を見渡す。ショーグンの場所を除けば、大きな蓮の葉はあと一つ。まだまだ回復アイテムにも余裕がある。


「最初はどうなることかと思ってたけど、ソロでも案外何とかなりそう! あ、でもショーグン次第か…」


 本来、アマオーのプレイスタイルはソロプレイではなくパーティープレイであり、魔法やスキルの習得度合いもサポート系中心の構成にしてある。


 ならば何故彼女は今ソロでこの沼に挑んでいるのか?


 それは端的に言えば「一緒に行ってくれる人がいなかった」からである。


 アマオーは決してぼっちではない。むしろフレンドリストは常に埋まっているし、本人の与り知らぬところで「アマオーちゃんのフレンド希望順番待ちリスト」なるものが密かに流通してるくらいにはちょっとした人気プレイヤーだ。


 だが、新規プレイヤーの絶対数が圧倒的に少ないこのゲームにおいて、アマオーのフレンド及びフレンド希望待機勢は軒並みアマオーよりもはるかにレベルが上のプレイヤー達ばかりという有様であった。彼らに同行を頼まないのは「先に進んでいるプレイヤー達の足を引っ張るのもなぁ…」という気遣いと「寄生はあまりしたくない」というゲーマーとしてのプライド、そして何より「ヌルゲーはつまらない」というエンジョイ精神故だった。


 なお、特別親しい友人とのプレイであればその限りではないが、あいにくその親しい友人は別件に取り掛かり中なので今回のカエル狩りの同行をアマオーは頼まなかった。


 その結果が今のソロプレイで沼攻略となっているのだ。


「さて、葉っぱが沈んじゃう前に先に進まないと…」


 彼女にとって幸いだったのはこの沼の進行ギミック自体はソロが推奨されるものであったということ。一人分の荷重にしか耐えられない蓮の葉の一本道を複数のプレイヤー達で渡るのは不可能だからだ。


 しかしそれはあくまで()()()()()()()()()()()()である。



――――――――――



「ロージューガエル。なかなかの強敵だったぜ…」


 ノリでそんなことを口にしつつ、回復薬を口にする。可能な限り消耗は抑えた。後はボス戦だけ。


「さぁ、このままショーグンも倒しちゃおう!」


 そう言って次の蓮の葉へ駆け出そうとした彼女に突然何者かが奇襲を仕掛けた。


「なっ!? わっ! 危っ!!」


 首を狙った鋭い一撃を間一髪で回避する。いったい何が奇襲を仕掛けてきたのか…?


 その疑問を口にする前に、私の前に3匹のカエルが降り立った。まず初めに疑ったのは水中から奇襲を仕掛けてくるニンジャガエル。だがそれとは少し見た目が違う…が、当たらずとも遠からず。


「『オイケバン』? 何それ? あ、カエルの御庭番だから御池番ってこと!?」


「ゲッ!」「ゲッ!」「ベッ!」


 私の推理に対し、オイケバン達はそれぞれ急所狙いの毒玉、水鉄砲、舌を繰り出す!毒玉と水鉄砲は何とか防御魔法で防ぎきるも、対応の遅れた舌攻撃により手痛い一撃を受けてしまう。よりによって一番苦手な物理攻撃をうけてしまうとは…!


「っ! 攻撃で返事してくるのは反則だって…!」


 不平を漏らしつつも即座に回復魔法で失ったHPをカバー。それを見たオイケバン達は一旦距離をとる。


 蓮の縁まで下がったオイケバン達はそのまま蓮の外周に沿って高速で移動を始めた。どうやら高速移動で私を翻弄しようという腹積もりのようだ。


「うーん…なかなか厄介だなぁ…!」


 オイケバン達は蓮の縁を高速で移動しつつ水鉄砲や毒でこちらに攻撃を仕掛けてくる。360度から攻撃が飛んでくるというのが厄介だ。なにしろこちらを守る防御魔法は平面でしか展開できない。

 いや、詠唱さえできれば360度カバー可能な防御魔法もあるが、詠唱には隙ができる。オイケバン達はその隙を見逃さないだろう。とはいえこの状況を続けるのはどう考えてもジリ貧だ。だったら…


「炎神よ、我が声を聴け!」


 詠唱文が視界に表示されるよりも早く詠唱文を口にする。そうすれば詠唱の隙を大幅に減らすことができる。「高速詠唱」と呼ばれる魔法職の上級テクニックだ!

 しかし大幅に減らすことはできても隙は隙。そこを見逃すほど甘いオイケバンではなかった!


 左後方からオイケバンの1匹が突撃を敢行!


 突撃したオイケバンの目の前に杖が突き付けられていた。


「ファイアーボール!」


 アマオーが詠唱していたのは防御魔法ではなく最もシンプルな火属性初級攻撃魔法。初級の攻撃魔法ではあるが短縮一切無しのフル詠唱であれば1段階上の同系統の攻撃魔法にも匹敵する威力となる!顔面に直接弱点属性の攻撃を当てられたオイケバンがドロップを残し消滅した。


「耐久は普通のニンジャガエルと変わらないんだね。だったらいける!」


 残り2匹のオイケバンも仲間の死に怯まずに突撃を敢行する!ただの突撃じゃない。カエルの跳躍力を利用した方向転換自在の突撃!


 だが…!


「ゲッ!?」「ゲロ!?」


 片や氷の壁に阻まれ、片や電撃に打たれ行動不能となる。


「残念だけど、もっと速いのを見慣れてるんだ。」


 親友や先輩のことが脳裏に浮かんだ。彼女らと比べるとカエル達の高速起動もナメクジのダンスといって差し支えないくらいだ。


 そんなカエル達に苦戦する自分もまだまだなんだと感じる。


「まだまだ頑張らなきゃ!みんなに追いつけるように!」


 私はこの先に待つカエルの親玉撃破への決意を新たにするのだった。

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