アマオー:トゥギャザー ―グルリと一周、サーガワン名所散策―
「あ~! どいてどいて~! ごめんなさ~い! 急いでるんです! ごめんなさいそこ通りま~す!」
ぶつかりそうになった人、すれ違った人、道行く人…
その一人一人に対して謝り倒しながら町を疾走する少女が一人。
そんなそそっかしい様子の少女の名前は「アマオー」
つい先ほどチュートリアルを終えたばかりのド新人である。
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遅れた遅れた遅れてしまった~!
なんという大失敗! チュートリアルまではきちんとスムーズに終わらせたのに、街中で迷子になってしまうなんて…!
アマオーこと桂城苺花は極度の方向音痴である。その壮絶さたるや大学生にもなって両親が送り迎えすることを真剣に検討したほど。最終的に彼女が「大学生にもなってそれは本当にみっともないから止めて! ちゃんとマップ見るから!」と懇願したことや、柚葉が「大学付近では私が責任もって面倒見ますから」と両親を説得したことによって事なきを得た。
そしてその方向音痴はこの仮想現実の世界においてもいかんなく発揮される。
彼女があらかじめ約束していた集合場所は「立志の噴水広場」。サーガワンの西に位置する町の人気スポットだ。
だが、彼女がまず最初にたどり着いたのは北の端「見送りの時計台」。武骨かつ悠然とした巨大な時計台の下で誰かを待ってる様子の武闘家姿のプレイヤーから「噴水広場は南西側にある」と聞き、向かったのが南東側。
噴水広場とは真反対の位置とも気づかずに辿り着いたのはサーガワン最大の宿屋「グランド・サーガワン」。お城を思わせるような外観が素敵な5階建ての宿屋である。外装に負けないくらい豪華な内装に心を奪われかけつつも、宿屋の受付(とアマオーは思っているが実は総支配人)に噴水広場への道を聞くことに成功する。
聞いた通りの道に進んだはずが少し道を間違え、次にたどり着いたのは「フィルスト市場」。普段から人で賑わうこの市場で開かれていたのは限定イベント「オルタラシア・フリーマーケット」。大陸の各地から集った商人たちが自慢の品や特産品を売り買いするイベントだ。アマオーは露店の誘惑を何とか耐えきり市場を抜け出す。
次にたどり着いたのは「冒険者ギルド サーガワン支部」。まさかの振り出しである。
意図せずしてサーガワンの主要名所を噴水以外網羅してしまった彼女が最終的に頼ったのは、先ほど別れを告げた導きの魔女サリアだった。
「あなた、マップ読める?」
導きの魔女のこの的確なアドバイスによってついにアマオーは噴水広場の位置と行き方を知ったのだった。
あちこち回ってようやくたどり着いた噴水広場。
広場の中央には巨大な噴水が置かれてある。戦士に魔法使い、僧侶に武闘家等々、様々な冒険者を模った銅像達が、円陣を組むように背中を合わせそれぞれ自分たちの武器から水を噴射する。
そんな冒険者たちに守られるかのように中央で祈りを捧げているのは、どこか見覚えのある女性の像。
「あの女の人の像ってもしかしてイアさんかな?」
ってそんなことを言ってる場合じゃない! 時計を見れば18:30! 柚葉を30分も待たせてしまった! 謝らないと!
急いで周囲を見渡す。だがプレイヤーネームが表示されたキャラは見当たらない。どれもNPCばかり…いや、いた! 不思議な模様の布を纏った私よりも小柄な女の子! だけどその顔は誰かさんにそっくりだ。気になる名前は…「零門」? なんて読むんだろう…
向こうも私に気付いたのか、こっちのほうへ近づいてきた。
「あのぉ…ぜろもん…さん?」
「れ、れいもん…です…アマオーさん。」
聞き覚えのある声! だけどまだ安心はできない。念には念を入れて私が提案する。
「れいもんさん、もしよかったら合言葉を言いませんか?」
「…! はい。合言葉を言いましょう。」
互いに半ば確信しつつも二人であらかじめ決めておいた合言葉を言い合う。
「ユーハ?」
「イッカ?」
それは幼稚園の時に呼び合ってた互いの名前。私が言った「ユーハ」は柚葉のこと。そして向こうが言った「イッカ」は私のことだ!
ようやく会えた。これでひとまず安心だけど、私からゆずh…零門へ謝らなきゃいけないことがある。
「「ごめん! 私今来たとこ!」」
二人で顔を見合わせる。どっちが先でも後でもなく同時に吹き出した。
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「まさか二人とも約束の時間に遅刻するとは…」
「でも結果オーライだしよかったじゃん!」
「それはそうなんだけど…ま、いっか。まい…アマオーはこの後の時間は大丈夫?」
「7時30分から夕ご飯だから一旦ログアウトするよ。夕ご飯の後お風呂にも入るから次にログインできるのは9時かな…?」
「りょーかい。それじゃ、私もそれに合わせるね。」
「さすが下宿組…いろいろ自由が効いていいなぁ…」
「フフフッ!どうだ、うらやましかろう?」
「う~ら~や~ま~し~!」
「まあ一旦ログアウトするまでの最初の1時間はどうしよっか?」
「フリマ行きたい!…あーでも先輩待たせちゃうのも悪いかな…?」
「来なくてもいいって言ってたしまあ、大丈夫じゃないかな。それに1時間弱じゃ次の拠点まで行けるか怪しいし、攻略は9時開始にしようか。」
「りょーかい! じゃあさじゃあさ! フリマ行こ!」
「…はいはい、わかったわかった。」
零門の表情から少しためらいの色が見えた。もしかして何か無理をさせちゃったのかも…
「あ!もしも何か無理な事情とかがあったら別にいいんだよ? 私に気を遣わなくたっていいんだから!」
「それはこっちの台詞でしょ~? あなたみたいな初心者が私みたいな経験者様に気を遣うものじゃありません!」
零門が私の頭を小突く。
「でも、ありがと。私は大丈夫だから。さあ、フリマに行くよ!」
「うん!」
こうして、私たちはフリマ開催中のフィルスト市場へと向かうのだった。