アマオー:ワンデイ ―進め!ゲコゲコ王国―
1~10話(ワンデイってサブタイの話)は序章から1ヶ月経ったある日の主人公達の話です。
時系列順に読みたい場合は11話(序章)からどうぞお願いいたします。
オルタナティブ・ワールド・コーリング
それはこの世の覇権を握ったとも言われたVRMMORPG。
しかしそれは過去の話。
7年の時を経てかつての栄華は消え去り、今はオワコンと蔑まれる日々。
これはとある新米プレイヤーの物語…
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「ゲロッ!」「ゲロッ!」「ゲロッ!」「ゲロッ!」
「グワッ!?」 「グワッ!?」 「グワッ!?」
湿原に断末魔の輪唱が響き渡る。カエル型のモンスター達が7匹まとめて薙ぎ払われドロップ品を残して消滅する。
「やっぱり弱点の火属性が一番効率いいかな~。詠唱無しでもかなりダメージ入るし。」
神秘的な意匠のケープに身を包んだ魔法使いはそんなことを言いながら、先ほどのカエル達のドロップを確認していた。見事に皮系素材ばかりで少しがっかりした様子の彼女を、さらにがっかりさせる事態が発生する。
「ああ! 裾に泥が! 御守りにも! はぁ~…」
装備の汚れは基本的に性能には影響を与えないが、一個人としてのモチベーションには著しく影響を与えてくる。気に入った装備や親友からの贈り物であればなおさらだ。
「ん~、仕方ない。クエストが終わったら洗ってもらおう。それまで我慢。それにしてもこの草むらいつまで続くんだろう… マップを見た感じだともうすぐなはずなんだけどなぁ…」
そんなことを一人呟きながらケープ姿の魔法使い“アマオー”は草むらをかき分けぬかるんだ地面を進んでいく。
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「モンバンガエル…!」
そこに佇むのは武骨な雰囲気を醸し出す茶色いカエルだった。名前は「モンバンガエル」
雰囲気からして中ボスといった感じだろうか?目的地である沼らしきものがカエルの先に見えていることもその推測を裏付ける証拠だ。
この先のことを考えれば消耗無しで、できれば戦闘無しでこの先に進みたいがそうはいかないだろう。
モンバンガエルもこちらに気づいたようだ。後ろ脚で立ち上がり(!?)、上体を反らし(!??)、曲げた右前脚を顔の後ろに(!???)、左前脚を前に構え(!????)大きく鳴き声を上げた
「ゲコゲッコォーゲ! ゲーコ!」
「…しょ、しょーぶ!」
た、たぶんあれ「いざ尋常に、勝負!」って言ったんだよね…?
先手を仕掛けたのはモンバン。その図体からは信じられない速さで跳び蹴りを放ってくる。
「アイスウォール!」
氷の壁を形成し跳び蹴りを受け止める。
「ファイアーボール! ファイアーボール!」
2発の火球がモンバンを撃つ。モンバンも負けじと私めがけて前足を振り下ろす。
「ゲコォ!」
「どわっ!?」
杖では受け止めきれずに吹き飛ばされる。受け止めようとしたのは無謀だった! 反省! とはいえこれで距離が取れた! 遠距離は魔法使いの本領だ!
「フレイムスフィア!」
火属性中級魔法。さっき放った火球よりも二回りほど大きな火球がモンバンを襲う。弱点属性の火球を立て続けに受け、目に見えて消耗した様子を見せるモンバン。だが決して膝をつかないのは門番としての意地か。
「ゲココゲココゲェーコゲェーコ!」
カエル型モンスター特有の鳴き声を使ったバフスキルスキル。モンバンの名前の横に攻撃力アップのアイコンが付くのが見えた。さらに何か力をためるような動作を見せる。何か来る!
「グゥゥゥッゲコオオォォォオオオ!」
極限まで高めたジャンプ力による突進攻撃!何とか横に跳んで避けたのもつかの間、着地と同時にこちらに照準を合わせ勢い据え置きで追撃を仕掛けてくる! 即座に氷の壁を形成するもそれを砕く。だが勢いを落とせたのが大きい。何とか回避成功!
2度目の追撃。勢いはそのままだがモンバンの脚からダメージエフェクトが散るのが見える。おそらくどちらかのHPが0になるまでこの突進を止めないのだろう。すごい門番魂だ。
3度目の追撃。ファイアーボールによる迎撃でさらに勢いを落とす。
4度目の追撃。モンバンの脚が完全に砕けるのが見えた。狙いすらずれて私のすぐ横を通り去る。
5度目の追撃は無し。跳ぶ脚どころか着地する脚すらも失った門番は無様に草むらを転がるのみ…
「ゲコ…ゲコ…!」
それでもモンバンは諦めようとはしなかった。門番としての責務を守るため、侵入者を排除するために前脚だけで這いずる。敵ながらその門番魂には一種の敬意すら覚えた。
「おやすみ。」
その言葉とともに放たれた火球が誇り高き門番への最後の一撃となった。
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門番を倒した先に広がるのは巨大な蓮の葉が群生するこれまた巨大な沼。
「あれか…」
沼の中央に密集する一際大きな蓮の葉。そこに鎮座するでっぷりと太った大きな金色のカエル。その名も「ショーグンガエル」
この地のカエル型モンスターを統べるカエルの親玉であり、今回のクエストのターゲットだ。
ここからが本番なのだとアマオーは気を引き締め、沼に浮かぶ蓮の葉を渡り始めた。