第2章 〜夢か、現か〜
翌日、オレは昨日のことが気になって仕方なかった。
朝、登校時にあの桜の巨木の幹にチラリと視線を流したが、そこにあの少女の姿はなかった。
やはり夢か幻でも見ていたのだろうか。
そう思って忘れようとはするものの、やはり、そう簡単に忘れられるものではなかった。
何しろ少女の印象が強すぎて、そして忘れようとすればするほど、逆に考え込んでしまうようになってしまった。
「しょう〜
どうしたんだよ元気ないぞ〜
どっか悪いのかぁ〜??」
「うわっ!!」
気付くと目の前には友人がいて、こちらを覗き込んでいた。
「びっくりした〜……」
「なんだよ心配してきてやってんのに。
ホントに大丈夫か??
ぼけ〜…っとしてさ〜」
そんなにぼけっとしていたのか……。
普段からそんなに元気いっぱいなつもりはないが、周りから見れば、いつもよりは元気がなく見えたのだろうか。
「おい」
「……大丈夫だよ。
別になんでもないし…」
「ふぅん……ならいいけど」
そう言うと、そいつは去っていった。
「しょう、なんだって??」
「ぅ〜ん。なんでもないってさ〜」
向こうでそんなやり取りが聞こえてきたが、オレはあまり気にすることもなく、また考え込んだ。
1日中、教室にいる間そんなことが続いた。
そして放課後。帰路につく。オレはまた、当然のようにあの桜の前を通る。
もう無駄な期待はやめた方がいいとは思いながらも、ついそちらが気になる。
諦めきれずそちらに顔を向けた。
すると……
「あ!しょうくん!!」
やわらかな、澄みきったような、そしてどこか凛とした風の、その声。
昨日の少女が、そこには居た。
昨日と同じ幹に、腰掛けていた。
「また、会ったね……」
言って彼女は微笑んだ。
彼女の発した言葉は、とても自然で、まるでそれが当然であるかのようにすら、聞こえた。
「━━━━━」
オレは、言葉を失っていた。
「しょうくん?大丈夫??お〜い。しょうくんてば〜」
「!
な、なんでもねぇよ!!」
オレはハッとして、慌てて返事をした。
「━━━ん〜……わかった!
しょうくんわたしのことユーレーみたいに思ってたんでしょ!!?」
「んな!」
まさに図星である。
「だから、
どうせもう会うハズないだろ〜
とか、思ってたんでしょ!!」
「ち、ちげーよ!!」
「そんなこと言ってほんとはそうなんでしょ!?」
「ちがう!!」
それこそ本当のことなので、余計ムキになって否定した。
「もぅ……素直じゃないなぁ〜…」
そう言うと、彼女はひとつ、ため息を吐いた。
「なぁ、お前どこから来てんだよ?」
「え?」
「だから、どこから来てんだよ。
ここら辺のヤツじゃないんだろ?」
「うん」
彼女は、意外にもあっさり頷いた。
「━━━━わたしはね…」
少しの間を置いて、彼女はゆっくりと口を開いた。
「わたしはね、違う世界から来たんだよ……
遠い遠い時の向こうから、しょうくんに逢うために…やって来たんだよ……?」
そう言って、彼女は微笑んだ。
「━━━━━」
彼女の言うことが理解できなかった。
その言葉を彩るように、射し込んだ夕日の光が、彼女をより神秘的に見せた。
呆然としていると、突然強い風が吹き、校庭の砂が舞い上がり、視界が悪くなった。
「じゃぁねしょうくん。
また会おう?」
彼女の声がした。
風がおさまり、視線を戻すと、そこには彼女は居なかった。
それは、彼女がどこかに消えたように見えて、彼女がついさっき言ったことが、本当なんじゃないかと錯覚させられた。
どこか……そう、例えば遥かな時の彼方へ………。
更新に一年以上かかってしまいました。すみません!