恋をして、恋愛をして、愛だけが残った。あなたは大切なひと。
2軒目の居酒屋で、日本酒を分けあう。
くだらない話はほんとうにくだらなくて、真面目な話は下手をすれば国際政治にまで飛ぶ。
かつて恋した少年は青年と呼ぶにふさわしいなりをしている。
教室の片隅で出会った二人が居酒屋で酔っぱらうほどに、時は流れた。
お互いに恋人はいる。
それでもこうして季節が変わるころに二人で飲みに出かける。
自分の恋人はそのことを知らないが、彼の恋人はどうだろうか。
決して浮気ではない、と、思っている。
目の前の彼もそうだといい。
かつてひとりひとりで恋をして、それがふたりの恋愛となり、自分には彼への愛が残った。
そう、愛だけが残ったのだ。
恋は、残らなかった。
「あいつさあ」
彼が呼ぶ「あいつ」は優しさとともに少しの傲慢さを感じる。
そこから始まった話は愚痴のような惚気で、惚気のような愚痴だった。
不幸ではないのだろう。幸せかどうかは知らないが。
幸福を願うほどではないが、不幸ではいことを祈る。
(君は大切な人なのだよ。)
(ただ、それだけだけど。)