記憶の魔法
「お前たちが限界に近いことは分かっている」
イザナギが静かに言った。
「杖を奪ったのはそのためだろ?魔人少女なら、そんなことを気にせずにその膨大な魔力をぶつけてくれば勝てるのに。おおかた、片方が死にかけたのだろう。そのことも私を知っている。何人も何人も同じように延命をしようとした。だが結局、命は戻らない」
「妖精の体に人間の魂。人間の体に妖精の魂。どちらも歪で歪んでいる。その歪みから生まれる力が長く持つわけないだろう」
事実、見抜かれた通りだった。イザナギの転移魔法による魔法国全土の魔力の吸引。瀕死な上に魔力が酸素のような役割をもつ妖精のミッキュには致命的だった。魔人少女となったからようやく動けていたが、2人ともが限界に近いことは分かっていた。
「ウチのこの記憶の魔法も呪われている。君はこの魔法の最終奥義を知っているか。相手の脳みそに自分の記憶を上書きして、永遠に生き続けることができるんだ。誰もが私の魔法羨んだ。擦り寄るもの、ののしるもの、うちを見ずにうちの魔法ばかり」
彼女は両手を見つめる。
「お前たちが今どんなに楽しそうにしていたとしても、結局魔法が存在している限り不幸は訪れる」
杖は取り上げたが、魔力はまだある。両手に魔力が集まり、空気をふるわした。
「ウチがみんなの記憶を消してあげよう。魔法を呼び出せなくても、それくらいはできる。」
ミッキュの肩からほのかがぽつりと問いかける。
「イザナギちゃん。私たちの貧乳談義の記憶も消しちゃうのかっほ?」
「っ!」
「イザナギちゃんはアマテラスやさちよさんに囲まれて、わたしはカレンちゃんやさきちゃんに囲まれて、つらく、惨めだったって、抱きしめあった、あの日のキャンプファイヤーも消しちゃうんほか?」
彼女の頬に一筋の涙が。
「いや、ほのか、場の雰囲気読んでくれっきゅ」
「同志、ほのか…」
「同志、イザナギちゃん…」
「ウソだろ?」




