イザナギの目的
絡まる蔓を焼き切ろうと杖を振るが、今度は燃やすことは出来なかった。
いや、違う。燃えてはいるが中から新しい蔓が現れるのだ。
「めんどうだな。攻撃じゃなくて再生力をあげるほうに魔力をつかってるのか」
次第に増えていく緑の景色にまぎれ、ミッキュの気配もぼやけていく。
「あ?」
後頭部に飛んできた種子を避ける。
「なっはっは!これが狙いか。臆病もんだな。元神、いや、小妖精」
大量の魔力が通った植物。ほのかやミッキュの姿や魔力を隠す。また蔓はどんどんと多いしげっていく。そして、死角から種子の礫をうちだしてくる。その雨のような弾丸を避けながらイザナギは呼びかける。
「そうだ、ほのか、お前の言ってたお前の世界。興味がある。こっちじゃわたしに勝てる魔法使いは居ねぇからな。お前の世界に渡る」
「なっ!」
「ほのかはじっとしてるっきゅ!!誘い出そうとしているっきゅ!」
立ち上がろうとしたほのかをミッキュは制する。そして、耳うちをする。イザナギは話を続ける。
「友達はいるか?仲間はいるか?家族はいるか?ウチと張り合えるやつはいるか?」
「あなたは、支配でもする気」
「支配なんざしねぇよ。」
声の出処を探すが、ミッキュの魔法の蔦が声の振動を発していることに気づいた。イザナギは舌打ちをした。
「するのは、選別だぁ」
「選別って、前みたいに非魔法使いを抹消する気かっきゅ!」
ミッキュの脳裏に数百年前の魔法少女大戦のことがおもいだされる。戦いの原因はいくつかあったが、そのうちの一つがイザナギの選民思想にあった。
「なっはっは!いやいや、そんなことはしねぇよ」
馬鹿いっちゃいけねぇよと笑う。
「うちとウチ以外さ」
「なっ」
「非魔法使いがいないこちらの世界をアマテラスとさちよと作ったが、結局争いばかりだったらしいじゃないか。中世と今では言うんだろうが、あちらの世界で迫害されてた魔女たちを集めて、作ったのによぉ。結局魔力量や財力なんかで、また迫害が生まれちまう。虚しいよなぁ、つまんねぇよなぁ」
彼女の口元からは笑みが消えていた。
「だから、1度全てまっさらにしちまおう。」
「イザナギ、あなたはどうするの」
「なっはっは!安心しろ。全て終わったらウチも死ぬ。じゃねぇとまっさらにならねぇじゃねぇか」
なっはっはと笑う。自分の生命に価値などないかのように笑い飛ばす。
「うちの障害となり得る3つの障害は問題ないようだな。さちよは死に、アマテラスは腑抜けちまった。ミッキュと魔法少女たちもゴミカスレベル。とんだ期待はずれだ。わざわざ芝居うって、女王決定のコロシアムなんて開く必要はなかった。ちゃっちゃとすり潰して、しまえばよかったな。おい、カゲ」
「はい、イザナギ様」
イザナギの影から声が聞こえる。
「契約履行の時が来たぞ。ウチは今、拘束している全ての魔法使いや魔女を解放して、仕上げにかかる」
「解放…ですか」
「あ?魔力を封じ込める檻にいれてちゃ、魔力を絞り取れねぇだろ?安心しろ。コイツらがカウンターズやらなんやらと小競り合い繰り返してる間に魔法陣は魔法国全土にマーキング済みだ。さっきの小国で最後だよ」
足元の影を見下ろして言う。
「てめぇら妖精界に、こちらの世界をくれてやるから、アイツらを殺せ。」
蔓を一気に焼き払う。あらわになるのは満身創痍のミッキュ。だが、少女の姿はどこにも無かった。
「おい、ミッキュ。ほのかはどこいった。」
「バカッキュね!とっくの昔に逃げたっきゅ!やーい、貧乳!無い乳!まな板大明神!偽乳特戦隊!!」
「ちっ!」
魔力を辿るが見つからない。だが、あの傷遠くへは行ってないはずだ。息を静かに吐き、命じる。
「はぁ、カゲ、その妖精を食い殺せ」
「御意」
イザナギの足元の影がせり上がり巨大な黒い蜥蜴となる。
「久しいな、大樹の大鹿」
「お前は黒影の蜥蜴」
「感謝しますよ。最凶の魔法少女。復讐の機会を与えてくださり、感謝の極みです」
ズタボロになったミッキュは妖精へと姿を変えた。
「さすがにキツいッキュ…」




