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さちよさんのある日の物語⑤

牢獄をぬけ、弟の進軍を止めるため隣国に向かう。彼女の話から、弟が国を出てからあまり時間は経っていないようだ。馬をとばせば30分ほどで、追いつくだろう。道すがら、自身の置かれている状況を説明し、彼女に協力を依頼した。


「ガッハッハッ!弟止めるため、魔女と取引とはわけぇのに大したオウジサマだな!」


彼女は話を聞いたあと豪快に笑った。あまり歳は変わらないようにも思えたが、そのことを指摘するよりも、重たい気持ちが口から溢れた。


「そのオウジサマってのは止めてくれないか?僕のことはアルクと呼んでくれ…それに俺なんか大したやつなんかじゃないよ。」


「ん、たしかに、付き合うのなら名前呼びだよな!アルク!あたしもサチヨでいいぞ!くぅ!もう、ラブラブだな。」


「ラブラブとは何か辞書でも引けばいいっきゅ!」


「あん?辞書?あたしの辞書にある言葉は3つ!自由!うまい飯!天上天下唯我独尊!!あたしにかなうやつなんていないのさ!ガッハッハッ!」


笑う彼女に対して、ミッキュは薄すぎる辞書だっきゅと呆れていた。ひとしきり笑った後、彼女は言った。


「大したことないっつうけど、なんでだ?お前はオウジサマなんだろ?」

魔女は不思議そうに首を傾げた。


「形だけさ。さっき説明したように、弟の方が才能も人望もある。僕は魔法もろくにできず、弟に先を越されてばかりだ」


「ふ〜ん。あたしゃ、取り巻きに囲まれてふんぞり返っているようなやつに人望あるとは思えんがな。人望ってのは、成したことに対してついてくるもんだ。」


「…成したことについてくる」


「そうさ。お前の魔法を見せてみな」


魔法と聞いて思い出す。王家に代々伝わる赤い杖。渡された自身の杖は先刻折られてしまっていた。


「杖は、弟に壊されてしまったよ」


「ふーん、そっか。ちょっと待ってな!ミッキュ!鹿になって!もう、なれるだろう?」


歩みを止めて、話しかける。


「ん?わかったっきゅ」


サチヨの肩に乗っていた妖精はくるりと空中で回転し、大きな緑色の鹿になった。


「これでよろしいですか?やはり、偉大なるわたしはこの姿の方がしっくりきますね。」


「ば、化け物」


「こらこらアルクだめだぜ。化け物じゃねぇ。ケダモノだ。ガッハッハッ!」


「はっ倒しますよ!ごほん、跪きなさい、人の子よ。我は偉大なる大樹の化身「ミッキュな!」である。ちょっと待ちなさいさちよ!なにを?!」


「えいや」


ポキ


彼女は鹿の角を回し蹴りして叩きおったのだった。


「いやん。スカートの中を見るなんてアルクのエッティ!ガッハッハッ!」


「えぇ!!」


スカートの裾を持ち、モジモジと恥じらう姿はたった今、大鹿の角を蹴り落としたことにより、可愛さよりも恐怖がまさる。


「あ、あ、力が、力が漏れるッキュ!!!」


しゅるしゅると体が縮んでいき、さきほどの妖精の姿になった。


「な、な、なにするんだっきゅ!!!」


「どうせ生えてくるじゃん。トカゲみたいに。細かいことは気にすんな!ほれ、杖」


ずっしりと重たい鹿の角をさらに膝で叩きおり、こちらに投げてきた。少し緑がかったその角は弧を描き、美しく輝いていた。


「ん!残りは返す!ありがとなミッキュ!」


残りの大部分の角を妖精に投げ返す。妖精は大粒の涙を流して、地面を叩いていた。


「うわああああん。ミッキュの角ぉおおお


「ほれ、ボンドだ、くっつけろ」


「できるかっきゅ!!」


「んー、あ、そだ、アルク治してやれ

こちらを振り向き、さちよは言った。


「は?いや、無理だ、僕は回復の術なんて」


「いいや、できる!」


彼女は懐から袋を取り出し、中身を取り出す。すると見覚えのあるガラスの鳥が現れた。バサバサと羽を羽ばたかせる。不出来な魔法を他人に見られたことで、顔が赤くなるのを感じる。

「アルク。お前の魔法は命を吹き込む魔法だ。」


「は?いや。これは千里眼の魔法で」


「千里眼の魔法は、直接眼に働きかける魔法だ。こんな風に歩き回らない」


「え、でも、大臣たちは笑って」


「たく。他人の物差しで自分を測るなっての。ガッハッハッ!恐らく詠唱を教えたヤツが無能なんだよ。もしくは、お前を無能に見せる為かもな」


そんな、ばかな。じゃあ今までの事は全部。


「ともかく、お前の魔法は価値ある魔法だ。お前はお前の力を素直に認めればいい。お前は十分凄い魔法使いだぜ。このさちよ様が認めてるんだからな!マイダーリン!ガッハッハッ!」


僕は僕の魔法を信じていいのか。熱いものが込み上げてきた。これまで散々バカにされてきた自分の力を許してもいいのか。


「アルク、このままだとミッキュは死ぬ。全く誰がこんなことを」

「お前だっきゅ!!」

「でも、おれは。さちよが治せば!」

「あたしはひとつの魔法しか使えない。あたしには治せない」

彼女の表情は真剣だ。ミッキュの体が透けてきている。

「た、助けてっきゅ」

「呪文はあたしが知ってる。時間がない。いい加減自分の力を信じな!やるぞ!復唱しな!」

彼女は自分を抱き寄せて、ともに杖を握る。普段の快活な彼女からは想像できない、優しい温もりを感じた。自分よりも一回りもふた周りも小柄なこの娘はいまも不敵な笑みをうかべている。こちらの視線に気づいたのか、彼女が自分を見つめる。彼女の宝石のような赤い目が伝えてくる。お前ならできると。

「「緑の大樹の化身の杖よ!我の力になりて、かの者を救わん!ヒール!」」

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