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さちよさんのある日の物語④

「おい!起きろ!オウジサマ!」

「…っつ」

アルク王子が目を覚ましたのは、地下牢の中だった。両手は魔法によって縛られていた。朝起きたパジャマのまま地下牢である。冷たく硬い石畳から体を起こす。

薄暗い牢屋。汚く、臭い。耳に聞こえてくるのは、囚人どものうめくような声。虚しく響くだけだった。牢屋の外には赤髪の魔女が一人。こちらを見ていた。

牢屋の外に赤髪の魔女?!誰だ。

「ガッハッハ!お前!クーデターにあったんだってな!そこの看守に聞いたぜ!だっせぇな!ガッハッハっ!」


親指で自信の背中にある空間を指す。そこには腹を押さえうずくまり気絶する看守の姿があった。


「全く。この国は失礼な国だぜ。王子様よ。ガッハッハ!なんてご機嫌な国なんだ。入国して、数刻で牢屋行きたぁ!観光する猶予もねぇ」


牢屋に彼女の笑い声が響き渡る。


「…それは、あなたが、無銭飲食、いや無銭暴食をするからでしょっきゅ。なんてことだっきゅ。語尾が!語尾が!『きゅっ』きゅ!」


何やら彼女の胸元の方から別人の男の子のような悲壮な声がした。かなりショックを受けているようだ。


「…ほかにも誰かいるのか?」


「ん?あぁ!ここの牢屋すげぇな!魔力がかなり制限されちまってらぁ!ガッハッハ!自慢の使い魔もこの通り!マスコットだな!ガッハッハ!!」


確かにこの国の牢屋は特別製で魔力が制限される作りになっている。確か国一番の魔道士に作らせたらしく、その魔道士曰く、ドラゴンでも連れてこないと魔法などかけらも出ない、と。

彼女が自身の胸元から取り出したのは、緑色のもふもふとした塊。耳や手足をバタバタと動かしている。


「偉大なる神の化身をつまみ上げるなっきゅ!!いやだぁああああきゅあああ!こんな!アホみたいな語尾!絶対イヤだっきゅ!!」


「ガッハッハ!運命は常に私の味方をしてくれているみたいだな!!理想的なかわいいマスコットを与えてくれるなんて!センキュー運命!!で、っだオウジサマ」


なんなんだこの少女は。豪快に笑い飛ばすその少女は。巨大な杖を背中に背負い、腰に手を当て高らかに笑っている。


「わたしの恋人になってくれ!私は恋がしりたいんだ!」


「「はぁあああああああああ?!!」」


思わず、でた言葉は得体の知れないこの生物とハモってしまった。同じ人間よりもこちらの謎の生き物と気持ちを通わすなんて。くそ、今日はいろんなことが起きすぎて意味がわからない。隣国の危機に、クーデター?それになんだこの女。誰なんだ。


「お前!オウジサマなんだろ?金あるだろ!部屋も食い物もある!十分すぎるぜ!スキ!ガッハッハっ!」


「こ、ことわ」


こんな変なものと付き合うだと。冗談ではない。それに僕は王族だ。そうやすやすと結婚相手を決めることはできない。


「あ、わかっていると思うけど、このスーパーラブリーギガンティックディシャスな魔導士のサチヨさまの愛の告白を…コトワッタラ、ケスカラ」


彼女の瞳から光が消える。そして、背中の杖から禍々しい魔力がどろっと溢れだす。何かを感じとったのか囚人たちの声も消え、そうでなくても暗い地下牢が一層暗くなっていく。消すって殺すってことか?くそ、こんな訳のわからん魔女に殺されてしまうのか。サチヨ?サチヨって名前なのかこの女。


「あたしの一世一代の告白断ったら、クニケスカラ」


スケールが違う。てか今の告白なの?出会って数秒の女の子に告白されたの?地下牢で?すがる思いで、緑の丸い生き物に声をかける。


「そ、そこの丸いの!仲間なんだろ止めてくれ!!」

「ミッキュは丸いのではないっきゅ!丸いのは胸だけでいいっきゅ

!!って、やだぁああああ!知能まで若返っているっきゅ!!嫌だっきゅ!!こんな低俗なのは神なる大樹の私のキャラじゃないっきゅ!!黒歴史だっきゅ!」


こっちはこっちで、なんか喚いているし。


「ちょ、ちょっと落ち着いて、サチヨどの!!!」


「サチヨドノ?お、名前呼んでくれたのか?好き!ガッハッハッハ!」


機嫌が治ったのか?なんとか上手くこの場を逃れなくては、地下牢から出て、この魔女から逃げて、弟を追いかけねば。


「ぼ、僕も自分の置かれている状況に頭が追いついていないんだ。僕を助けてくれたら君の願いを叶えてあげる。」


なんとかこの魔女の力を利用して、弟を止めなくては。

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