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第閑話 さちよさんのある日の物語②

ある魔法国の人間たちに勇者になるべく召喚されたこの少女は、1ヶ月も絶たぬ間に魔王を倒し、その才能と人望に恐怖した人間たちに処刑されかけた。心身ともに傷つきながらも窮地をなんとか抜け出た彼女は、その国の御神木として崇められていた大樹の元に逃れ、わたしと出会った。


「はぁ...はぁ....。なぁ、神様よぅ、そんな窮屈な場所に縛られ続けて....。与えられ続け、搾取されるだけの人生、いや、神生か?ははっ!...つまらねぇだろ?私と一緒に来い!この場所(せかい)を笑いとばしてやろうぜ!ガッハッハッ!ガッハッハッ!!!!」


死にかけの少女は、勧誘してきた。助けを乞うのではなく、泣きわめくのではなく、文句をいうのではなく、笑ったのだ。おもしろい、いい暇つぶしになるかもしれないと、御神木は魂を切り離し、わたしが生まれた。


「なぁ、おい?聞いてんのか?相棒よ。悩み事ってのはよぉ...。」


そういえば、そんなことを先刻話していたような。悩み事とはなんだろうか。彼女は失礼ながら何か考えて動くようなタイプではなく、行き当たりばったりで、用意された道すら薙ぎ払って、突っ走る暴走特急。そんな彼女が悩みだと?大方腹が減っただの、その程度のことを大袈裟に言っているのだろう。


「先程の国で、店3件休業に追い込むほど、食べたじゃないですか。まだ食い足りないのですか?」


「ばっか!ちげぇよ!」


彼女はドスンと私の背に座り直し、耳に口を近ずけて囁くのだった。


「…あたしゃ、恋がしたいんだよ」


「…さちよさん、申し訳ないです。今、何か、妖精が通ったのか、耳が遠くなってしまって」


「おいおい勘弁してくれよ。妖精滅ぼすぞ?たくっ!よし決めた!妖精滅ぼす!!」


何を思ったか。黒い杖を引き抜き、魔力を込め出す。短く息を吐くと、空気が重たくのしかかる。おいおいこの娘、ちょっと待て。


「黒き杖に込められし太古の魔よ…、我の敵と彼奴の眷族全て討ち滅ぼせ。黒き太陽…、灼熱の呪い…、闇からいでし死の手…。くろ、」


黒い杖から無数の手が生えてきた。これはヤバい。


「ストッーーープ!!いやいやいやいや!すまない!さちよさん!!わたしの勘違いだった!」


勘弁してくれ。この世界の魔王の一角を討ち滅ぼした魔法をこんな簡単に発動しないでくれ。あーあ、今ので、この近辺の妖精の半数が。嘘だろ。その魔法、歴戦の勇者や国の者たちが魔力総動員して、ようやく放った最終魔法だろ。何軽く1人で放とうとしてんの。


「ボケるにしては早すぎだぞ。まったくガッハッハッ!」


ばしばしと背中を叩いてくる。おちおち冗談も言えない。


「なんだよ、超絶ウルトラダイナマイトバディでスーパーイケてる魔道士たる、流石のあたしも何度も言うと流石になぁ、恥ずかしいぞ」


頬を赤らめモジモジしてる、だと。

は?

つい、10分前に1つ国を消し飛ばしておいて、さらに、この近辺の妖精に呪いをかけておいて、何、乙女みたいなことを言ってるんだ。


「そもそも、さちよさん、あなた、まな板もびっくりのすっとーんボディじゃないですか。悲しい嘘は辞めなさい。みっともない」


少しデリカシーに欠けた発言に、キョトンとした表情を浮かべた彼女は、堪らず吹き出し、さらにバシバシと背中を叩きながら言うのだった。


「ガッハッハッ!ミッキュも言うようになったな!ガッハッハッ!安心しな!全知全能!唯我独尊!焼肉定食!あたしに不可能はないんだよ。今に誰もが羨む!バインバインのボインボインの美女になるからよ!ガッハッハッ!」


「はぁ、わたしは人間の価値基準はよく分からないな。乳房の何が良いのだか、繁殖のためにぶら下がってる脂肪の塊ではないですか」


「ばかだな、ミッキュ!乳はロマンだ!ガッハッハッ!見なよ。相棒」


突然眼下の森の中に城壁が現れた。恐らく迷彩の結界の中に入ったのだろう。


「さぁて、次の国で!わたしは恋をする!待ってなあたしのスイートハニー!ガッハッハッ!」


何事も無ければよいのだが。

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