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閑話 さちよさんのある日の物語 ①

「なぁ、相棒。あたしの悩み事を聞いてくれるかい?」

憂いを帯びた瞳で、艶やかな紅い髮の少女が言った。彼女は顔が隠れてしまうのではないかと思える大きな山高帽子をかぶり、くたびれたブカブカのロープを着ていた。背中には身の丈はある大きな杖が二本。深夜のような闇色の黒い杖と流れる星のような純白の杖を背負っていた。風に揺られて彼女の美しい髪が流れる。


「なんですか。さちよさん珍しい。あなたなら高笑いしながら、トラブルを薙ぎ払っていくじゃないですか」


彼女を乗せて空を駆ける緑の鹿がしゃべりかける。薄緑の肌から若草のさわやかな匂いが立ち上る。偉大なる大樹の分身。力強く生える大角は、草花を生やし神々しさを放っていた。


「なぁ、我が相棒、ミッキュ よ」


一瞬の沈黙。


「その気の抜けるような名称をやめていただきたい。私は分身体とはいえ、神たる大樹の化身ですよ。本来このように人間としゃべることはない、敬われる存在なんですよ」


誇らしげに胸をはる彼をギザギザした歯を見せて、少女は笑う。


「なーにが、神たる大樹だ。たかだか数千年生きた若木の分際で。そもそもオミクジダイミョウジンなんて名前あたしゃ覚えられねぇぞ。ガッハッハッ!」


その言葉にガクッと高度が落ちる。宙を駆ける大鹿は顔を振り向いて、抗議する。


「お、大御霊久遠大樹(オオミタマクオンダイジュ)です!まったく、欠片も要素がないじゃないですか。」


「ミがあるだろ?なんか可愛くね?」


「はぁ、あなたのいい加減さもいい加減なれてきましたよ。好きに呼んでください。」


「なぁ!なぁ!じゃあ、語尾をキュ!にしようぜ!ガッハッハッ!やっべぇ!めっちゃ可愛い!」


「絶対に嫌です!!!振り落としますよ」


ぶるぶると体を震わす大鹿に、高笑いしながら、乗りこなし、少女は晴れやかに言うのだ。


「ガッハッハッ!!やれるもんならやってみな!その前に、あんたのことをこの赤髪より紅く染めてやんよ!!ガッハッハッ!」


背中の上で器用にバランスをとりながら、自分ではかっこいいと思われるポーズを決める。


「物騒ですね?なんですか、それ?」


「かっこいいだろぉ!あたしの決め台詞だぜ!太陽に変わってお仕置よ!とか、魔道王にあたしはなるってのも、候補だったが。前世のことを引きずってても仕方ねぇから、オリジナルだぜ。いやぁ、やっぱり、あたしはセンスあるな!ガッハッハッ!」


自慢げに語る彼女に嘆息し、大鹿は後方を振り返る。広く深く広がる森に赤い巨大な炎が立ち上っていた。無邪気に笑うこの少女が先程、滅ぼした国だ。

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