ラック
「え?」
「ああそういえば、記憶がないんだったな」
「まぁ簡単に説明してやるとここはお前の夢の中だ。」
「まずはお前の後輩たちの夢の中に潜り、次々に引き込んでいった。心を病んでいた黒井翼をとりこんだ。彼女の友人であるいつははカレンに相談したようだが、彼女の性格から1人で解決しようとした。全く愚かにもほどがある。少しは話をしていたかもしれないが、カレンを夢の中に捕らえた。お前たちは完全に油断していたんだ。魔法国の女王を倒したお前たちは」
「女王を慕うものもいることを、知らなかった。カレンの異変に気づいたお前やサキはこいつが止めるのも聞かず、夢の中にダイブした。
その男は黒く染めた腕を私のほうに向ける。その手にはくたびれた人形が握られていた。
「当然こいつはお前たちを助けようとした。だが俺の魔法は夢の中でこそ真価を発揮する。次々と返り討ちにしてやったよ。だがお前だけは逃げおおせた。いや、逃がしてもらったのだよ」
こいつにな。親指で自身の顔を指差す。
私は唐突に思い出したのだ。いつも夢で見るあの男の顔とそっくりだった。髪の色だけが違った。
「徐々にお前たちの深層心理に潜り込んでいったのだが、ガードが固くてな。最後の最後に僕のことが連想される魔法の類の興味を伏せるように仕組んだのだ。」
商店街の通りを感慨深く眺める。そこにはラックの顔顔顔。昼間見たよりもさらにラックに埋め尽くされていた。
「そこの女が無理矢理夢の中に潜ってきてくれたおかげでお前に会うことができた」
「はっ・・・はは・・・。」
力なく彼女が笑った。生気のない目で、でもしっかりとほのかを見つめながら言った。
「たとえ、ほのかを守るためだとしても眠り続けたままの生活なんて、ほのかお前らしくない。」
ニヤリと笑う。
「ミーーキュ!!天馬ー!!いつまで寝てやがるさっさと起きやがれ!!!」
赤い髪の女が叫んだ。
「無駄だ無駄だそんな言葉で起きるようなヤワな展開なんて俺は認めない」
確かに彼の言う通りに夢を司る魔法使いであるラックに対してご都合主義の完全に意識を取り戻すことができなかった。
ただ彼の潜在意識にあるほのかを助けたいと言う思いが彼女の記憶を呼び覚ましたのである。
「記憶」
彼女の体が光り輝きピンクの魔法使いの服を着た姿になる。
「たとえ女王を倒した魔法使いだとしても僕には勝てない」
「確かに以前の私だったらあなたに勝つことができなかったでしょう。だけど今はこの夢の中のことを記憶しているから。たとえ敵に操られても私のことを大切に思ってくれる仲間がいるから。そして何よりあなた自身の魔法を記憶したから私は負けない」