さち②
「なんだよ。いつはー。今から魔法をぶっぱなそぅとしてたのに」
魔法ぶっぱなすって何を言っているのやら。電話の主は何やら怒っているようだった。詳しくは聞き取れなかったが、追いかけてきた占い師は耳を抑えながら、スマホを耳から離した。どうやら大声で怒られているようだった。
「悪かった悪かった気をつけるから!ったく。事態がどれだけヤバいかわかってないのか?この新米は?さぁ続きを始めよう殺し合いだハハハハハハ・・・は?」
通りには誰もいなかった。
はるか後方で吠えるような声が聞こえた。全く付き合ってられないよ。大急ぎで逃げてきたから自分の買ったものが途中降り落とされてないか心配だった。歩きながら中身を確認する。お肉に野菜に卵に。
「おい!」
ふいに腕を掴まれて引っ張られた。
「ちょ、なにすんのぉおお!」
目と鼻の先をバスが通過していった。
「歩きながら持ち物を確認するなんて感心しないなぁ」
自分の状況がどれだけ危険なものか分かり、腰が砕けその場に座り込んでしまった。そんな私の腕をつかみ立てるように引っ張り上げられた。
「大丈夫?けがはないかい」
「あ、ありがとうございます」
その人はマスクをして帽子をかぶっていた。目にはサングラスをつけていた。声の感じから歳もそんなに離れていない。この人どこかで見たような気がする。じっと見つめられたせいかその人はそっぽ向いてしまった。
「あのどこかでお会いしましたっけ」
「…、会った事はないよ。強いて言うなら夢の中でね」
まぁぶっちゃけこんなキザなセリフを言われたら最大限の侮蔑の目で見てさっさとその場を離れていただろうが。このたびは命の恩人である。イケメン補正がかかりちょっとかっこいいかもと思ってしまった私がいた。
「今度から気をつけるんだよ。」
サングラスを少しずらしてウィンクをしてきた。
その瞬間私の恋が始まったのだった。