魔法
お前の願いはなんだ。
白い杖が問いかける。
お前の願いはなんだ。
魔法は願いを叶える力だ。
お前の願いはなんだ
この国に幸せが訪れますように
少女の願いは純粋だった。
白い杖に呪文はいらない。
ただ望みをかなえる。
願いに善も悪もない
ありのままを
国を維持できる魔力を彼女に
揺らがぬ魂を彼女に
もう失望せぬように
お前の心はいらぬのだ
「器よ。白い杖に目覚めた小さな器よ。その杖はありとあらゆる願いを叶える。お前は何を願う」
勝敗は決した。圧倒的な魔力を前にし、今にも消え去ってしまうような小さな存在に投げかける。おそらく一分もたたずに、存在も魂も蒸発してしまう彼女に向けて問う。長い長い長い人生の中で唯一自分と同じ杖を持った金と銀の瞳の少女に杖を向け言った。
「何も」
少女は答えた。何も望まない。
「杖は道具だ。魔法は手段だ。望みを叶えるのは自分であって、何かに叶えてもらうものじゃない」
「私は私の手で自分の幸せを掴むんだ」
女王は目を見開いた。何を言っている。そんなバカな。
「零華お姉ちゃんがゴミ溜めに逃げてきた時つぶやいていた。私の人生はあそこから始まったんだ」
どうせ死ぬんだ。ぶつけてやれ。
「女王!あなたの願いは、なんなんだ!」
「わらわは!わらわ・・・は、国を、しあ・・・わ・・・せに・・・・・・」
目の前にいるのは、恐怖に身を震わせ、なおもこちらをまっすぐ見つめる少女。仲間のため傷つき倒れた少女たち。女王の莫大な魔力に焼かれめくり上がった大地。
「これがあなたの望んだあなたの国の姿なのか?」
「・・・違う。違う。違う。違う。違う。違う。私はこんな国を望んだわけではない。私は、ただ・・・」
女王はゆっくりと杖を下ろした。女王の杖がしずかに砕け散った。




